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★逃亡(デート)ドライブ★

龍輝「おい、何してる」

 龍輝は愛車のドアを開ける。

少女「遅いっ!あんたがシートベルトしろって言うからしたんじゃないっ。そしたらクラクシ

   ョンもも何も届かないのよっ!」

 そう。少女は先にシートベルトをきちんとしていた。だが、小柄な美少女だ。仮に美少女でなくても小柄なのだからクラクションに手が届くはずもなかった。もちろんエンジンもかけられない。そもそもエンジンのかけ方を知っているのかさえもわからない。故に、クラクションを鳴らせずジタバタしていたのだ。

 そして少女は、シートベルトを外すという答えにはたどり着いていなかった。

龍輝「お前・・・本物だな」

少女「えっ、なにっ!」

龍輝「そういうお前も可愛いなって思ったんだよっ」

 龍輝は少しからかう。本音だったりもするが。

少女「い、いきなり何言ってんのよっ!意味わかんないっ」

 やっぱりデレる。

少女「それよりあいつらは?」

 少女は振り返る。そこには剣を落とし、脛を押さえてもがき苦しむ黒服がいた。

少女「あんた何やったの?」

龍輝「詳しい話は後だ。すぐに追ってくる。その前に出発するぞ」

 そう言ってエンジンをかけ、龍輝もきちんとシートベルトをする。

黒服「逃がさんぞぉ!」

龍輝「ヤベッ!もう来たっ」

少女「何モタモタしてんのよっ」

龍輝「シートベルトはしないと危ないだろっ。事故ったら大変だし、警察に見つかっても大変

   だし」

少女「ちょ、来たわよっ」

龍輝「おうっ」

 龍輝はアクセルを踏み込む。

少女「きゃあっ。もっとゆっくりできないのっ」

 可愛い顔が、皺くちゃに引き攣る。

龍輝「仕方ないだろっ。てか、そんな顔もできるんだな」

少女「うるさいわねっ。もう!こんな発進初めてっ。あんたうちの運転手には一生なれないわ

   ねっ」

龍輝「悪かったよ。てか、なる気ないし」

少女「そうね。なれないわね」

龍輝「へいへい」


 なんとか無事逃げる事に成功。だが、お互いに初のドライブ?のような状況に、次第に言葉を失っていく。

龍輝(なんか話さないとな)

 そう思い気を利かせようとした時。

少女「そういえば、あんたさっきどうやって攻撃を避けたり、みんなを倒したりしたの?」

龍輝「あぁあれか。何もしてないよ」

 少女はキョトンとするが、これまた可愛い。

少女「ふざけるんじゃないわよ。何もしなくてあれだけの人数相手に無事なわけないでしょ」

龍輝「いや本当だって。リーダーみたいな奴の攻撃はなんとか見切れたし、手下達にはバスケ

   の要領で通用したよ」

小女「バスケの要領?」

 少女は小首を傾げる。

龍輝「あぁ。追いついて止めた後はボールを弾く感じで剣を叩き落としたんだ。まぁ止めるの

   は得意だけど弾くのは苦手だったから、遠慮なく腕ごと叩いたけどな」

少女「それってファウルなんじゃないの」

龍輝「この場合はいいんだよ。後はついでに脛蹴ってやったし」

少女「呆れたわ。これはもう退場ね」

龍輝「試合中はコースを塞ぐだけだよ。無理に奪いに行ったら抜かれるしな。てか退場とは上

   手い事言うな。バスケ知ってるのか?」

少女「ま、まぁ知ってるわ」

 窓の方を向き少女は話を続ける。

少女「私もね、小さい頃してたの」

龍輝「今も小さいけどね」

 キュゥウウウ~~~ッッッッ!!!ブーーーッッッッ!!!

 少女の放ったエルボが龍輝の左肩に直撃した瞬間だった。

龍輝「事故ったらどうするんだっ!」

少女「さぁね。これでちゃんと話を聞く気になったかしら?」

龍輝「だな」

 すると少女は何事もなかったかのように話を再開する。

少女「元々ね。バスケは私がしたいって言って始めたの」

龍輝(ホント、くるくる表情が変わるな)

少女「でもね。私の家ってお金持ちじゃない」

龍輝(知らねぇよ。なんて言ったらまた肘が飛んでくるな)

少女「コーチとかもどうにかして私を1番うまくしようとしてた。全然ついていけないのに、

   うまい人たちと試合に出されもした。そうやってパパに気をつかってたの」

龍輝「そりゃ楽しくなかったよな」

少女「うん。全然。最初はあんなに好きだったバスケなのに、気がついたらその時間が嫌にな

   ってた」

龍輝「うん」

少女「だからね、パパに辞めたいって言ったの。そしたらダメだって。きっとパパも途中で辞

   めたらイメージが悪くなるから辞めさせてくれなかったんだ」

 相当辛い思い出なのだろう。涙ぐむ少女。

龍輝「辛かったな。苦しかったな」

 龍輝の口調も自然と優しさを帯びる。

少女「それで私は引きこもったの。学校も行かなくなった。そしたら、パパは体裁が悪いからって、私を外に出さなくなった。私もしばらくして落ち着いて、いい加減外に出たいって言っ

   ても、屋敷から出してくれなくなった」

龍輝「軟禁・・・か」

少女「そう。だから私にとって、バスケは好きなスポーツなんだけど、嫌いなスポーツでもあ

   るの。」

 涙が少女の頬を伝う。

少女「ごめんね。恩人が好きなスポーツなのに・・・」

龍輝「恩人なんて。気にしなくていいよ」

 龍輝はどう答えるのが1番良いのかわからなかった。でも、1つ、龍輝にも話せる事があった。

龍輝「俺もバスケは高校の途中で辞めたんだ」

少女「え?」

 少女はこちらを向く。か弱い少女が半分泣いている。どうしようもなく守ってあげたい、温かい気持ちが湧き上がる。

龍輝「俺は、中学の頃にバスケ始めたんだ。そして本気でプロバスケット選手とかNBA選手と

   か目指してた。高校も特待で進学した。半年間もう勉強して、多少良い高校に行けたん

   だけど、勉強のレベル低くてもバスケが強い高校を選んだんだ。でも・・・」

少女「思い出したくらいならいいよ。無理に話さなくても」

 少女も、龍輝が自分の為に話してくれている事に気がついていた。

龍輝「そんな事ないよ。君も話してくれたのに俺だけ話さないなんて、カッコつかないだろ」

少女「うん。わかった」

龍輝「続けるね。高校のコーチは物凄く厳しくて、すぐ怒鳴るし、不貞腐れたらビンタを連発

   してくる人だった」

少女「えっ、あんたもやられたの?」

龍輝「いや。怒鳴られる事はあったけど、その時に、はい!はい!はい!いえ!はい!って感

   じで真面目に答えてたから、ビンタされる事はなかった」

少女「そうね。あんた真面目そうだもん」

龍輝「よく言われる」

少女「実際そうでしょ。この短時間でもわかるわ。根は!真面目だって」

龍輝「なんか引っかかるなぁ。まぁいいけど」

 どうやら少女の瞳から涙は去ったようだ。

龍輝「でもミスキックは食らったな。センターの奴を蹴ろうとして、俺の左横腹を蹴りやがっ

   た。他の人も気付いてるのに、謝罪はおろか見向きもしない。そりゃダサいしみんなの

   前で謝れないとしても、後で一言でも言ってくれたらよかったのにな」

少女「そういうとこ、男って仕方ないわよね」

龍輝「おい。俺はちゃんと謝るぞ」

少女「だってあんたは真面目じゃない」

龍輝「それは褒めてるのか?」

少女「半分ね」

 龍輝は新しい発見をした。

龍輝「お前、冗談なんて言えるんだな」

少女「あんた、私を何だと思ってんのよ」

龍輝「怒りん坊」

少女「なんだとぉ!この真面目ぇ!」

龍輝「ほら怒った」

少女「ぅぅぅんんん!!」

 見る見る顔が赤くなってくる。

龍輝「やっとらしくなってきたな」

少女「え、な、なによっ。もう知らないっ。さっきの話でも続けたらっ」

 少女の顔は、嬉しそうにも見えた。

龍輝「じゃあ続けるぞ。まぁさっきも話した通り、楽しい事なんてなかった。それでいつの間

   にかイップスみたいになってたんだ」

少女「イップス?」

龍輝「精神病みたいなもんさ。コーチが来ると体が怠くなって、息も上がりやすくなる。だか

   らバスケも楽しくなくなった。合宿の時なんか、ストレスで満足に呼吸ができなくなっ

   た。3日間も苦しくて、胸が痛くて、何も喉を通らなくて、動くのが地獄のようだった」

少女「あんたも辛い思いしたのね」

龍輝「そうだな。顧問である担任に辞めたいって話した時に、もうバスケも楽しくないって話

   したんだ。そしてら、勝つ為なら楽しくなくて当たり前。きつくて当たり前だって言わ

   れた」

少女「それ、私も似たような事言われた」

龍輝「そっか。でも俺はその考えには今も納得できないし、するつもりもない」

少女「どうして?勝つ為には仕方ない事じゃないの?」

 首を傾げて聞いてくる。

龍輝「もちろんきつい練習は必要だと思う。でも根本が違うんだ」

少女「根本?どういう事?」

 更に傾げる様子が可愛い。

龍輝「俺が1番大切にしているのは楽しいって気持ちなんだ」

少女「楽しい」

 繰り返すのも可愛い。

龍輝「そうさ。楽しいから勝ちたい。楽しいから勝つ為のきつい練習だって耐えられる。むし

   ろ自分からきつい練習だってこなす。俺の中ではそういうのが大切なんだ」

少女「それ、いいと思う。私もそう。きっとそう!そうだよ!」

 少女の瞳により一層の輝きが増す。シートベルトに縛られながらも、身を乗り出し腕を掴んでくる。

龍輝「おいっ、落ち着けよっ。危ないだろっ。くっつくなっ」

  (クソッ。今が運転中じゃなかったらもっとこのままでいいのにっ!シートベルトが胸元

   を押さえてなかったら、胸も見えるかも知れないのにっ!)

少女「あっ、なっ、何言ってんのっ?あんたがくっついてきたんじゃないっ」

龍輝「そのデレ方には無理があるだろっ!」

少女「うるさぁ~いっ!あんたがくっついてきたのぉおっ!」

龍輝「はいはい。じゃあもっとくっついていいか?」

 いかにも怪しい笑みを漏らす。だだ漏れにする。

少女「ひぃっキモッ」

 限界まで助手席のドアにくっつく。

龍輝「おい、その引き方は酷くないか。ちょっと傷つくぞ」

少女「仕方ないじゃない。キモいものはキモイの。てかあんた、戦ってる時と性格違くない?」

龍輝「あぁあれね。やっぱ戦う時ってそれなりの覚悟が必要だろ。その覚悟を決める時、スイ

   ッチが入るんだ。自分を奮い立たせて、恐怖に打ち勝つんだ。勝てる。怖くない。楽し

   い。やれる。って自分に言い聞かせるんだよ。そしたら言葉遣いとかも少し変わるんだ」

少女「あんた、中二病?」

龍輝「うるせぇっ!不思議な力が使えるかもって思ってた時期はあるけど、表には出してない

   っ」

少女「隠れ中二病ね」

 表情を変えず少女は言い捨てる。

龍輝「無表情で新しいジャンル作るなよっ」

少女「ふん」

龍輝「鼻で笑うなっ」

少女「あんた忙しい人ね」

龍輝「誰のせいだっ」

 少女の心が開かれてきたのを感じる余裕もない龍輝だった。

 だがこれが幸せという時間の1つなのかも知れない。なんとも微笑ましい時間なのだ。


龍輝「ところでどこへ向かえばいい?」

少女「そうね。私、実は行きたい所があったの」

 窓の外を眺める少女。

龍輝「どこだ?時間あるし、どこでもいいぞ。でも、さっきの奴らはもう追って来ないのか?」

少女「あいつらの事は気にしないでいいわ」

 少女がこちらを見て質問する。

少女「それより本当?」

龍輝「何が?」

少女「どこでも連れて行ってくれるって話」

龍輝「あぁ、もちろん本当だよ」

 少女はまた、窓の外を流れえる景色を見ながら、ぽつりと言う。

少女「高良山」

 龍輝の思いもよらない言葉が飛び込んできた。

龍輝「え?」

少女「だから、こ・う・ら・さ・んっ!」

 龍輝も負けじと大声になる。

龍輝「えぇ~~~っ!!」

少女「きゃっ。な、なによっ?ダメなの?」

 軽くビクついた少女は不安そうな顔を向ける。

龍輝「全っ然いいよっ!俺もちょうど行こうとしてたんだ!」

 ビクついていた少女の表情はくるりと変わる。

少女「本当っ!?やったぁ!これってまるで運命みたいっ!!」

龍輝「ああっ!運命だなっ!!」

 少女は黙り込む。

 ・・・・・・ ・・・・・・ ・・・・・・

龍輝「うん?どうした?」

 縮こまる少女。

少女「あ、あんたが運命なんて言うから」

龍輝「いや、お前が言ったんじゃん」

少女「知らない知らない知らなぁ~~~いっっっ!!!」

 小柄ながら大きな獣が内に潜んでいると龍輝は感じた。

少女「それから・・・・・・大河愛」

龍輝「タイガー?」

少女「だから・・・大河愛」

龍輝「虎好きなのか?」

少女「もうっ!私の名前だってばっ」

龍輝「タイガーが?あぁ、ゲーム内のニックネームか」

少女「死ねっ!」

龍輝「なっ」

 言葉という名の武器に打ち抜かれそうになる。

少女「タイガーじゃなくて、た・い・が・あっっ!!!私の本当の名前よっ」

龍輝「あぁわかったわかったっ。なるほどな。ごめんごめん」

 ようやく伝わったが、少女は俯く。

少女「だから教えるか迷ったのよ。言いにくいし、変だし、嫌いなのよこの名前」

龍輝「そうか?まぁ確かに少し言いにくいな。つい、たいがーって伸ばしたくなる」

少女「でしょ」

龍輝「でも、いいと思う」

少女「えっ?何がいいのよ、こんな名前の」

 顔を上げた少女に龍輝は言う。

龍輝「だって、愛がい~ぱいたくさんあるって事だろ。すっごく素敵な事じゃないか?俺は好

   きだな」

少女「ほ、本当に?変じゃない?おかしくない?」

 不安げな少女の瞳は真剣だ。

龍輝「あぁ。変わってるとは思うけど変だとは思わないし、おかしいとも思わない」

少女「は、初めて、そんな事言われたの」

龍輝「ははっ、嬉しいのか?」

少女「う、うん」

龍輝「妙に素直じゃないか」

少女「うるさいわね。だって、嬉しいんだもん」

 初めて見る少女の心の底から滲み出る素直に嬉しそうな表情に、龍輝も嬉しさを覚えた。

少女「そういえばあんたの名前はなんて言うの?」

龍輝「龍輝って名前だ」

少女「そう。よろしくね、りゅ,龍輝」

龍輝「おう、よろしくな、大河」

少女「あ、が無い」

龍輝「ちょっと言いにくいし、どうしても伸ばしちゃいそうになるから、ニックネームだ。や

   っぱ嫌か?」

少女「ううんっ。嫌じゃない。みんな言いにくいから名字で呼ぶの。だから、下の名前でニッ

   クネーム考えてもらったの初めて」

龍輝「考えたって程じゃないよ。あ、を取っただけだぞ」

大河「いいの。それでもいいの。ありがと、龍輝っ☆」

 大河は満面の笑みを龍輝へと向けた。

 今日であった大河。その時間の中で、彼女の顔からは、いや全身からは、1番素直な感情が溢れていた。それは、幸福、楽しさ、愛情、それらが織り成すものだろう。

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