第91話 根本的な考え
『ただいま~』
私は庭園から帰り、ソファーに座る。そして置いてあった書類に目を通す。
「今のところ、五分五分っちゅー感じやな」
書類の内容はどちらを支持するかのアンケートである。匿名であるが故に正直な意見が反映されている。
[同じ学園の生徒なのにこの不平等は可笑しい][差別は嫌だけど一般生徒と同列は嫌]
等の公約からの声もあれば
[胡桃ちゃんが好きだから][鳳くんは前まで生徒会に入ってたから][会長が支持しているから][千秋は実績があるから]
と言った声もある。
『胡桃を溺愛している奴等と先輩を敬愛している人からの声も多い。で、私や鳳くんは実績と経験で支持している…なるほど』
溺愛と敬愛は違う。
胡桃のは可愛らしい我が侭として叶えたくなり、先輩のは命令として受理する。
『後は自分に酔ってますね』
差別撤廃をいう俺格好いい、現実主義な私イケてる!な感じ。
現実主義を語ろうが理想主義を語ろうが結局やっているのは別の人間であり、お前らは何もしてねーぞ。
誰かを標的にして批判したり賛美するのはさぞかし楽で楽しいでしょうよ。
政治家の気持ちが分かった気がする。何かするたんびに何もしない鳥たちがピーチクパーチク、カアカアカア…煩すぎる。
大体お前らは村上○樹先生の[とんがり焼き]に出てくる、とんがり鴉か?なに、とんがり焼きしか食べないの?曖昧な物は判断できないの?かわいそ~…つつきあって死ね。
異端的なことをする覚悟もない鳥が異端児をつつき殺すから世の中可笑しいんだ。
そもそもお前ら何するんだよ、そこまで偉そうにしてるけど何やるんだよ。
お前らいろいろ言うけど、ピーピーとかカアカアとかしか言ってないのも同然だからな?
「おーい、本題から大分離れてるで」
いつの間にか無意識に声が出ていたらしく、先輩に咎められた。
『結論:烏合の衆は煩い、ちょっと黙れ。』
「されも本題ちゃう!!…お前どんだけひねくれとるねん」
ひねくれてはいないが、ちょっとやさぐれている。
『ってか…そもそも差別制度撤廃なんて理事会が許さないんじゃ無いですか?こんなの』
私は根本的なところに気がついた。あの理事メンバーが差別制度撤廃を許可するとは思えないし、先輩の擁護派を使えばなんとかなるのでは?
しかし、先輩は首を振った
「生徒会長は理事会と渡り合える権限をもつからなんとかなるし、更には理事メンバーの中にも差別制度に疑問を持つやつは少なからずおる」
『生徒会長が権限をもつのは分かりますけど……鳳くんは理事会と渡り合える程の器量をもっているんですか?』
あそこまで地位を確立出来たのは和人先輩だからこそだろ。
「別に渡り合えんでええねん、当選すれば絶対公約だけは叶えれるし…なにより」
『なにより?』
「俺の息がかかってる小娘より、まだ経験が浅そうな鳳の方がマシみたいやわ…」
遠い目をしてそういった。そうだった、この人は擁護派を除いて理事に嫌われているんだった……
『ってことは……これって純粋に勝たなきゃ駄目ってこと?』
「やろな…」
いやいや簡単に言わないで欲しい。ぶっちゃけ私的には理事に助けを求めるのも視野にいれていた。
と言うか、もしこんな事にならなければ適当に笑ってあやふやにしていた。
胡桃が何かに怒っているのは分かる。多分というか絶対に非は私にあるのかもしれない。
心当たりが多すぎてもうどれがどれだか分からない。一体私は胡桃に何をしてしまったのだろうか……
『ぶっちゃけた話、何で私って胡桃と友達なんだろ?』
原因を考えすぎて根本的なところにいきついた。
メタ発言をすると、この物語では未だに私と胡桃の出会いが描かれていない。
記憶を探ってみるが…
胡桃を不良から救った覚えもないし、道に迷った胡桃を助けた覚えもない、パンを加えてコツン!とかも無かったし、落し物を拾ったこともない。気がつくと…
似非ボッチの私が逆ハー女の親友になってた。
「……千秋ってホンマに不器用やな」
笑いをかみ殺したように先輩はそういった。嫌々、これは不器用とかそんな問題じゃないと思……
「そんなん、胡桃に直接聞けばええやろ。どうせ考えたって答えはでーへんのやし」
『それもそうですね』
グダグダ考えても答えは出ない、このゴタゴタが終ったらまた聞こう。
胡桃の話も聞こう、私の話も聞いてもらおう。
それでまた喧嘩になったら…まぁそれもいいか。
「勝算はあるんか?」
『ええ、ありますよ。最後の演説で決着をつけます』
さて、会話をする前にまずは勝とう。
千秋は会話しようとします。それだけの為に会長選挙に挑んでます。ぶっちゃけ千秋は会長とかに興味はありません。




