第90話 浩太くんと会話
『頭痛い…ごめん、ちょっと抜けるわ』
「うん、その方がええで」
立候補になったせいで特別生徒の女子の対応だったり、普通校舎の人間からの質問攻め、および裏切り者だと言われたりすることにちょっと疲れていた。
私の目はドブの様になっており、隈なんてヤバイ位に大きくなってパンダだ。化粧でなんとかしているが私はストレスで胃が痛くなっている。
なので気分転換に特別校舎の人通りが極端にない…というか、生徒会の人しか分からない庭園へ散歩に行く。
小さい川に木で出来たベンチがあり、そこに座る。
「アンタ…大丈夫なんすか?」
誰もいないはずの庭園に一人の少年が出てきた。赤髪を後ろで編みこみ、少しつり上がった目と平均よりちょっと下回る身長……
『…ワンちゃん?』
「誰っすか!?アンタ本当に何なんすか!」
私の一言にそういってキャンキャン騒ぐ少年。すまぬ、チワワに見えてしまっていた。
「浩太っすよ!生徒会庶務の赤寺浩太っす!!」
一年の赤寺浩太。普段はちょっとバカっぽいせいでそうは見えないが、一年の中で一番優秀でありじつは結構人望もある少年。
見習いではあるものの、一年で異例の生徒会入りを果たしており化け物軍団の生徒会メンバーに及ばずとも充分な功績を挙げている。
推薦な為に生徒会入りは決定しており、会長、副会長以外のポストが用意されている。
あと、ブス専で番犬。
『一体どうしたの?もしかしてアレ?エロ本でも見つけた?』
「んなわけ無いっすよ!つーかそんなの同じような整形美人しかいねーから買わないっす!」
『ごめんなさいね、そこまでムキになるだなんて思わなかったの。ワンちゃんが子供と言うのを忘れていたわ』
「キィィー!!」
顔を真っ赤にして怒りを露にする浩太君。本当にからかいやすいわ~
こんなこと言う女子は私だけなのか、浩太くんはよくキーキー怒る。でも少し前までは泣いてたので大分成長したほうだろう。
「せっかく俺が心配してやってんのに!知らないっす!」
『え?心配?なんで?きみはテッキリ鳳くんと胡桃の味方だと思ってたよ』
自分の尊敬する先輩と、自分が信望する女神の胡桃ちゃん。これじゃあ迷い無し。
『あ、そっか。君は特別校舎の人間だから差別制度撤廃には反対なんだよね』
よく考えれば可笑しな図式である。本来味方ともいえる特別校舎のリーダー格が差別制度の撤廃を促し
差別対象である私がそれを嫌がるだなんて……
しかし、浩太くんは意外な事を言った。
「いや…そりゃあ俺だって、差別制度がいやだと思ったことあるっすよ?」
『え!?あるの?』
「テストの制度だって、俺たちは赤点とってもいいけど、一般生徒はすぐ退学とか…その時のあいつらの目は正直応えたっす…
集会の時だって俺たちは座れるけど、あいつらは立っている。とか…」
『一般生徒は特別生徒からどんな扱いをうけようと何も文句は言えない。罵倒されても何も言い返しては駄目、暴行をうけても駄目…他にも色々あるわ』
これはほんの一部でしかない。伝統を守るための成金対策であり、世間に自慢できない中途半端な優等生を押し付けた場所なのだ。
「そうっすよ…でも…撤廃はいやっす…」
浩太くんはそう言って目を伏せた。一般生徒より優遇される特別生徒としての疑問は存在する。
けれど、正直な話になると一般生徒と同列になるのは嫌だ。普段、伝統があり特別だと言われたものが急に無価値になるだなんて……
『うん、普通校舎の生徒にも実は撤廃を嫌がる人は少数ながら存在するよ』
「え?何でっすか?」
私はこの純粋な瞳が好きであり…ちょっとだけウザイとも思う。何故ならばこの瞳は特別校舎が素晴らしいと信じており、誰もがうらやむからと思っている。
『特別校舎を軽蔑しているから、特別生徒なんかと同列にして欲しくないから』
私の言葉にショックを受ける浩太くん。
特別生徒が一般生徒と同列にしてほしくないのと一緒で、一般生徒も特別生徒なんかと一緒にしてほしくない者は存在するのだ。
だからコレは応急処置でしかない。私がやっているのは臭い物に蓋の原理であり、問題の後まわしだ。
『君が特別校舎である事に本当に誇りをもっているならば、君が会長になったときに胸をはれるようにしてくれ…』
私にはそんな誇りは存在しないから。
「わかったっす…でも、まるで自分が勝つみたいっすね」
『勝つよ、私の我がままの為にね』
「千秋さんが会長か~…や、やだなー…うん、まぁ勝つんだったら仕方ないっすけど…」
そんな浩太くんの頭をなでてそろそろ庭園の出口の方へ歩いていく。
『あ、因みに私が当選しても会長にはならないから』
振り向かずにそういうと後ろからキャンキャン何か言ってこられたが無視した。
「えぇ!?どういうことっすか!」
浩太くんはブス専なので、見た目だけなら千秋は結構好みです。あと、素直なので千秋のひねくれたり身勝手な理論にも関心したり、納得します。
胡桃とは違った意味で純粋です。というか若干バカ(性格的に)




