第83話 胡桃は敵や
「これ…どういうこと?」
質問されるが分からない。と言うか私の方が知りたい。何で私が生徒会に立候補しているんだ。とか、最近学園のホームページが見れなかったのはこのせいか…とか色々あるが…
とりあえずは
『あの腐れ関西弁!!』
これの黒幕であろう会長を殴ろう!!
バン!!
千秋は生徒会室に乗り込み、余裕ぶっこいて会長席に座る和人の机を大きく叩いた。
その衝撃で机は割れんばかりに震え、まるで床にめり込むんじゃないかと思うくらいに大きく響いた。
「なんやねん、そんなに鼻息荒くして」
しかし、それに臆することなく和人は細目で千秋を見据える。
『鼻息だって荒くなるさ、私が立候補ってどういう事だ。流石にこれは道楽ではすまされないぞ』
敬語を忘れた千秋は、殺気立った様子で和人を睨み付ける。それほどまでに千秋は内心怒り、まるで炎のように心が荒れまくっているからだ。
和人はそんな千秋と視線を合わせる。決して外れそうに無いほどの視線を。
「俺が道楽や面白半分でこんな事してると思ってるんやったら、お前の評価を改めらなアカンわ。俺はちゃんと考えてお前を支持してるねん」
そう、和人という男は何時も何を考えているかが分からない妖怪のような人間だ…しかし、とても優秀過ぎる人間でもある。
情熱的に演説をして、烏合の衆をまとめるのも得意であり、時には冷徹な判断をすることもある。だから民衆は彼についてきたのだ。
だから和人が唯の道楽等ではないのは分かる。唯、何を考えているのかが分からないだけだ。
「ってか、逆になんでそこまで嫌がるねん。名誉あることやで」
『それは……目立つのが余り好きじゃないんだ』
千秋は小さい頃からいい意味でも悪い意味でも目立つ少女であった。
普通の子より上な容姿、明らかに平均の女子どころか男子さえも超える長身。外見的な問題からも目立ち、家の家庭事情でも目立つ。
嫉妬、哀れみ、嘲笑、好奇、羨望、それらの視線の中に閉じ込められた事が何度もある千秋は目立つことを嫌う。余程の事がない限り人の目に必要以上に入りたくない。
『……ってか、会長は鳳くんで決まっている出来レースだろ?だったら大人しく、鳳くんを会長にして他の役員は適当にすればいいだろうが』
「……俺は、千秋に受け継いで欲しいねん」
間を空けて和人は言った。それは正真正銘の本心である。
「それにな、そうとも決められれーへんで。確かに順当に行けば鳳が会長になるけどな、[和人会長の支持]と[実績のある]千秋やったら番狂わせが出来る」
そんな事を言う和人の目は真剣そのものであり、変なところで頑固な性分を理解している千秋は、一旦説得を諦め、別の方向から話を始めた。
『他の人は何ていっているんですか?』
冷静を取り戻して、いつもの敬語に戻った千秋はそういった。千秋の予想の範疇ではないからだ。
「天王寺と桜ノ宮は[傍観]や。天王寺はなんだかんだで優しいから[天秤]にかける事が出来なかったみたいやわ。桜ノ宮は[俺は会長に忠義を誓った男ではあるが、あの女を指名するならば話は別だ]って感じや……千秋ホンマに何したんやねん」
『ウザイから嫌がらせしまくった』
とまぁ、概ね千秋の予想通りではあった。天王寺はいい意味でも悪い意味でも優しい人である。自分が助けたいと思った人間は何がなんでも助け、自分が認めた人には言い訳せずに敗北を認める。
だから、可愛い後輩と自分が認めた男。では天秤にかける事は出来ない男だ。
(と言うか、天王寺先輩なら天秤を壊すね)
そんな破天荒な先輩を思い出して少し苦笑いをする。
『じゃあ胡桃は私たちの味方だとして……』
胡桃のことは結果が見えているので質問せずにスルーしようと思ったが…
「なぁ、何か勘違いしてへん?」
和人からストップがかかった。千秋は今いった言葉にどこか不備があっただろうかと首をひねるがいくら考えてもよく分からない。そんな千秋を一瞥し、和人は口を開く。
「俺、いつ胡桃が味方やって言った?」
『……』
会長に言われ、私は一瞬何が言われたか分からなかった。もしかしたらそれ程までに前提的に考えていたのかもしれない。
胡桃は無条件で自分の味方であると私は思っていたのかも知れない。
『じゃあ…胡桃は…』
一体何なんだ?
そんな私を呆れでもなく、嘲笑するわけでもなく会長は淡々と一瞬だけ目線をそらしていった。
「胡桃は……鳳を支持する。つまりは…
胡桃は敵や」
何だかんだで千秋は胡桃を信頼してました。
胡桃と千秋の関係について今まで軽くしか書いてなかったのでちゃんと書きたいです。




