第81話 勘弁してくれ
「本当にやるのか?」「はい、元々出る予定ではありましたから」「和人は何て言ってんだ?」「会長は千秋さんを支持するらしいです」
「そして 私を支持するのは…」
誰かと誰かが話し合っている。一人はハーフの少年であり、もう一人は王様のようなオーラを出している男であった。
『憂鬱な学校生活の始まりだ…』
千秋は校門で猫背になりながらボソリと呟いた。憂鬱といっているのは理事会のメンバーに喧嘩を売ってしまった事や鳳の事件である。
告白こそされなかったものの、キスや態度で鳳からの気持ちを察してしまった千秋としては今の学校は憂鬱以外の何者でも無かった。
もしかしたらアレは外国の挨拶で自分に好意をもたれているなど唯の勘違い…であったならばどれだけ救われた事であろう。
『うさちゃん...』
余りにも憂鬱過ぎてウサギの大きいストラップを握りしめている。
こんな風に憂鬱に見回れているなか...
「ねぇねぇ誰が立候補するのかな?」「やっぱり鳳くんでしょ!」「浩太くんも出るんじゃない?」「いや、浩太君はまだ若いから…」
『ってアレ?特別校舎側が煩いな…』
千秋はざわつく方へと視線を向けると色々な人達がこそこそと話し合っている。話題は生徒会らしいが、一体どうしたのだろうか……
と、そこまで考えて頭の中から一つの情報を割り出した。
『そうか…もうすぐ生徒会総選挙だ』
セレント学園の生徒会総選挙。
我こそはと思う人間が自ら立候補するか、この人こそ…と思う人が推薦する。
もし、生徒会長になれば絶大なる権力と地位が渡され与えられる人物次第では、あの学園最高権力である理事会とも渡り合えるとされている。
そして与えられる人物を間違えれば唯の理事会の傀儡となってしまう。しかしながらその事に気付く生徒は少ない為に立候補する者は後を絶たない。
『まぁ普通校舎には関係ない話だけどね』
普通校舎の一般生徒には残念ながら縁の無い話である。最近になってやっと選挙権を得られはしたものの実質無いに等しい。
これが一般生徒と特別生徒との悲しき境界線でもあるのだろ…
「おはようございます、千秋さん」
『ひぃ!?』
いきなり憂鬱の根源が現れ、千秋は思わず変な言葉を口走ってしまった。ウサギのストラップも手放してしまう。
『おはよ、鳳君』
仕切りなおすようにして千秋はそういった。大丈夫、まだちゃんと喋れてはいる。
「おはようございます……今日も、可愛いですね」
やめて欲しい。本気でやめてくれ!!
と、千秋は心の中で叫んだ。せめてもの幸いと言えば鳳は一応回りの配慮もしており、千秋にしか聞こえないように言っていることだろう。
焼け石に水でしかないのだが。
『ありがと、そういって貰える日が来るとは…私は幸せ者だよ』
千秋は冗談めかしていつもの様に笑っていった。もう大丈夫だと自分でいいきかせる。
「でも、顔色がまだ悪いですし隈もひどいです。ちゃんとご飯食べてますか?睡眠とってますか?」
『鳳くんってばお母さんみたいだね。気にしなくていいのに』
いつものオカン鳳になった事に安堵して千秋は冗談めかして言った。しかし、鳳は少しだけ頬を赤らめ、少しだけ綺麗に笑ったあと。
「……好きで…言っているんです…」
駄目だ…変な雰囲気になってしまう。本当に誰か助けて欲しい…
意外な事をいうかもしれないが、千秋はこういうのに余り慣れていない。いつもは自分から好きになり、恋人になるまで一直線に努力をするのが真骨頂なのだ。
そして、自分が愛する代わりに愛をもらうのがいつもの方法なのであり……
千秋は愛される事になれていない。
『やだな~本気で言っているよ。じゃあもう教室に行くね』
「荷物、もちますよ」
『いや、やらなくていい』
早口でまくしたて、自分の顔が崩れないうちに必死で走り去っていった。




