第79話 面倒くさい展開
「薫子の娘か…ふん!嫌なものを思い出す」
この男は一体薫子さんに何をされたんだ?そして私はもう薫子さんの娘じゃ無いんだけどな~っと言ったところでこの人は納得しないだろう。
だからこの場合は無視を決め込む。
「貴様の行為は一人の生徒としての権限を明らかに逸脱している」
そうやって凄く怒るのは50代半ば辺りの初老だ。未だに黒髪なのと、無精ひげが個人的に格好いいなー…とか、普通の休日で通りすがりとかに見れてたらナンパ出来たのに…と思うくらいにはいい感じに年が入っている。
『一体どのような事でしょうか?』
「貴様は普通校舎の生徒であるにも関わらず、特別校舎への干渉がありすぎる。記念すべき創立パーティーでの暴走、参加するだけでも異例なのに、あんな事一般生徒がする事ではない!」
創立パーティーでの暴走とは、私が踊り狂ったダンスの事だろう。天王寺先輩が言うには私が目立ちすぎたせいで本来は一生懸命練習した特別生徒の見せ場が、全部持っていかれたという。
このセレントで初デビューする生徒は少なくない。ここで自己アピールをし、セレントの広告となる…筈が一般生徒の小娘にもってかれたらそりゃあいやだろう。
「確かに、伝統ある特別校舎に一般生徒が紛れ込んでしまっては他の生徒だちが不安になりますし、信頼にも関わります」
その言い方に少しだけむかついた。この40代の人が言っている意味はわかる。普通校舎は伝統がないのも知っているから、差別意識や偏見があるのはある程度仕方無いのだが……
『すみませんね、だったら校則に書いて下さい。[特別校舎は伝統があるので伝統のない一般生徒は何があっても入ってくるな]って。ほら、私って貴方達がいう無伝統な人なんで』
鼻で笑うように言い返すと、一瞬にして半分の人たちが敵意と非友好的な目線を送りつけてきた。しかし、私も内心苛立っていたので、知るか!と思っている。
因みに私の答えに具体的な反論が出来る人はいない。何故ならば、実質はとにかく表面上だけでも特別校舎と普通校舎のいきゆきを認めなければ学校として破綻するのは目に見えているからだ。
だからこの場合、怒りを表し反論するポイントは……
「その態度はなんじゃ?分を弁えんか」
絶対的に、態度や立場などの問題に摩り替えられる。
『私は質問された事に答えを示しているだけです。ただ言うことを聞くお人形さんが貴方の言う[分を弁える]ならば、どうぞ権力に怯える哀れで無能な人たちをお使いください。私はこれでも結果は残してますよ』
今度は心の底からバカにした。ぶっちゃけ権力ある理事会にこんな態度は許されないのだが、これにも一応意味はあるのだ。
「千秋君の言うことにも一理あるのでは?ただ言うことを聞く傀儡が必要ないというのは賛同だ」
その言葉に続く感じで2~3人が賛同してきた。この人達は所謂会長派だろう。
結論から言わせてもらうと、私は穏便にいく事を諦めた。こんな争いの場にのこのこ出てしまったのが運の尽きだ。しかも会長の後ろに立つというのは、嫌がおうにも私は会長派に部類される。
どっちつかずにヘラりと笑う曖昧さは一歩間違えれば四面楚歌になる。だったらいっそ会長派になってしまおう。
その事に気付いているのか、会長は上手くいったとばかりに笑っている。…むかつく。
「まぁ、千秋の働きは凄いもんやと思いますで。レプラでの実績はすさまじいものでしたやろ?」
「ふん!小娘がいきがったに過ぎぬ」
「それでも彼女の働きは、過去の和人くんに匹敵すると思うぞ?」
……何故か話がおかしな方向へ行っている気がする。いつのまにか私は優秀か否かの話になってしまっている。しかもその話の中心にいるはずの私は蚊帳の外。
「…では千秋くんは和人の味方をするってことか?」
何故かいきついたその話。しまったな、態度だけは和人会長派であとは知らんぷりを決め込むつもりだったのだが、やはりそれでは問屋がおろさないみたいだ。
理事会に薫子さんと因縁がありそうな人とか八つ当たりとかとばっちりとか、ぶっちゃけ関係ないのに強制的ログインとかまったくやだ。
あぁもう、本当に面倒くさい。
そんな風に思いながら私は口を開いた。




