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第77話 和人からの頼みごと

「おぉ!偶然やな」


『西へ帰ってください似非関西人』


私は目の前の男をぶんなぐりたくなった。






昨日の事が余りにもショック過ぎて、少しの間本格的に私の頭が使い物にならなくなり『』つけた言葉が出なくなってしまっていたが、一日休んでどうにかなった。


幸いにも今日は休日だからマックでホットケーキとバニラシェイクに自前の蜂蜜をドバドバ入れて食べようとしたのだが…


「ホンマに偶然やな。いや~今日はついとるわホンマに!だって自分基本的に携帯繋がらへんわ住所不定やわ…」


私の横でベラベラと喋るうるさい男は伊集院 和人。関西弁を喋るが別に関西人という訳ではなく、外面で始めた筈の方言がいつのまにか癖になってしまった何とも迷惑な男だ。


『で、何?なにが言いたいの?頭に蛆虫が沸いたので取って欲しいのか?よし、今から取ってあげる』


このベラベラ喋る男に敬語と敬意は必要なしと判断した後、フォークをつかむ。


「ストップや千秋!フォークを置け!」


取り合えず和人に向けたフォークを机におき、相手の出方を伺う。和人は何か言いにくい事があればそのまえにウザい程喋りだす。これは冗談や笑い話にして後で取り返しがつくようにするための手段だ。


私もやってたから分かる。


「ハハッ…あのな、俺のオカンに会った?」


やはりその事か


『うん、会ったよ。相も変わらず凄い人だね』


「…なんちゅーか、すまんな」


私の一言で大体の事は把握できたのだろう。ちなみに鳳くんに頬をキスされたのは秘密だ。ついでにパニック状態に陥って、新幹線に轢かれそうになり危く死に掛けたことも秘密だ。


「オカンが何か変なこと言うてたか?……」


『あぁ、何で和人は選ばれないんだろうって言ってた』


そういうとピクリと和人のこめかみに皺がよった。分かる、結構怒っているんだろう。


「あの女…」


『いいんじゃない?どうせアンタは上手いこと立ち回っているんでしょ?』


大体の想像は出来る。大方、和人先輩は持ち前の交渉力やら社交性やらを使ってそこそこの地位を作っているに違いない。


彼は自分の存在価値と優秀さを完璧に理解している男だからだ。しかし、和人先輩は意外にも首をふり。


「上手いこと作ってはいるんやけど……胡桃には敵わんわ。純粋に好意を抱かれてるわ、嫌われる事は殆どないし……何より敵対する程の感情が沸かへん」


確かに。


私は素直に納得した。利益でもメリットでもなく純粋に胡桃に好意を抱く人間は多い。それは結構やっかいな事だ。勿論、和人先輩だって人望はあるし純粋に心酔している人間は数多く居るだろう。


しかし、それは人柄以上に演説の上手さや会話力、判断力、リーダーシップのたまものと言えるだろう。それはそれで素晴らしい才能だと思うのだが……


まぁ例えるなら、元々が幻想上の神様と人間から始まる開祖様みたいな感じだ。


(せめてどちらかが違う世代に生まれれば伊集院家は安泰だっただろうな…)


これほど優秀な人間が潰し合うなんて勿体無い。


「…それで、実は頼み事があるんやねんけど…」


そこまで言ってチラリと私の方を見た。何か嫌な感じがする。


「そんな警戒せんといてや。少しの間、直立不動してればええだけの簡単なアルバイトやから」


『断る。なにその怪しいバイト』


私は拒否反応を示しながらホットケーキを食べた。……甘さが足りない。備え付けのチョコシロップを大量にかけまくり砂糖を沢山つめたホットケーキとバニラシェイクを一気に飲んだ。


そんな私を見て和人が一言。


「もしやってくれへんのやったら…」


『やったら?』


何だ?脅しでもする気か?


「伊集院家の総力をあげて今後一切甘いものを食べさせへんし、ウサギと会わせへん」


『喜んで受けましょう』


いや~先輩が困っているのに見放すなんて駄目だよね(笑)私はアレだよ?結構先輩思いだしさー。

いぇーい!


私はやけくそ気味にテンションを高くした。バイト料高くぶんどってやる。

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