第69話 千秋の考え事
待ち合わせの場所に行く途中、千秋は一人考え事しながら歩いていた。
牡丹雪祭りは千秋の親が離婚する前に住んでいた地域での祭りだった。
千秋はその頃、親の帰りが遅いため何時もどおりに同じアパートの彼氏の家に居た。その当時の彼氏に誘われ雪が降り積もる中、季節はずれの花火を見たのが最初で最後だった。
「綺麗…」
そう思わず言ったのを千秋は覚えている。
クリスマスも祭りも両親と一緒にいた過去など千秋には存在しない。
次の年には両親は離婚し、改心した父と新しい母になっても未だにそういう経験はない。
行き成り優しくなった父に距離感がつかめず逃げて、琴音さんは色んな事に必死で一生懸命に頑張っているからこそ、そんな事言う余裕なんて何処にも無かった。
「ち、千秋ちゃん!えっとね…あ!!頑張るからお母さんって思ってね!!」
初対面の挨拶はこんな風にな感じで、…あぁ一生懸命だなぁ……と、出来ればこの人はお母さんではなく、後輩とか年下だったら可愛がって仲良く出来たのにな~っと思った。
きっと父は琴音さんの一生懸命さが好きになったのだろう。正直な話、当時の私にとっては迷惑以外の何者でもなかったが……
結局あの祭りは当時の彼氏を最後に行った事がなかった。その人の事はちゃんと愛していたので祭りに行ったこと自体はいい思い出なのだが
せめて一度でも家族3人で仲良く自分を挟んで手をつないで祭りに行きたかった…と未練がましく思ってしまう為、牡丹雪祭りには今まで行かなかった。
『はぁ…こんな事にまで親とか色んな人に責任押し付けてる自分が嫌だわ…』
私は自分の嫌な性格に気がめいってしまう。
何故ならばそれを今望んでしまうと言う事は、和解の希望が出てきた琴音さんを否定する事になり優しく愛情を示してくれた父も否定する事となる。
更にはまだ幼過ぎる妹の彩音をも否定する事になる。子供に罪はない、あってたまるものか。
自分の姉さんは自分が生まれるのを望んでいないだなんて子供が思ってはダメだ。
自分の母親は自分をだしに使って娘を拒否していたなんて知らなくていい。子供は無条件の愛情と幸福の中で育ち、成長するのが一番だ。
『そう思うなら…私がいなくなれば全てがすむのに…』
それが出来ないのは私がまだ子供だからなのだろう。彩音の事は可愛い妹だから大好きだし、絶対に幸せになって欲しい人なのに、自己犠牲しようとは思えない。
これは心のどこかで本当の妹じゃないからとか琴音さんの娘だからとかの差別が働いているのかもしれない。もしくはただ単に彩音と過去の自分を重ねているから可愛いと感じるだけかもしれない。
彩音が幸せになれば自分も救われていると勝手に自己満足しているのかもしれない。そうだったとすれば私は最悪である。あんなに無邪気に懐いてくれた彩音に対して私はそんな汚い事を考えているのだから。
『ってか鳳くんってどこまで知ってるんだ?』
千秋は首を傾げた。自分のみっともない家庭事情をある程度喋ったりはした。
しかしクリスマスの日に起きた事は喋っていない。天王寺もそんな事べらべら喋る人間ではないだろう。
『だったら何で誘ったんだ?』
実は千秋、クリスマスで家族で和解して祭りには皆で一緒にいきたいとうっすら望んでいた。それはもう無理になっていたので今年もいくつもりは無かった。
だから鳳から誘われた時は、少なからず驚いたのだ。
自分の思考を読み当てられたのかと驚いた事もあり、千秋は自分を誘ったのが自分への好意とは考えなかった。
とはいえ、千秋は鈍感ではないので深く考えれば分かるだろう。しかしまたしても千秋は深く考える前に、目立つ待ち合わせ場所を見つけた。
『もうすぐ待ち合わせの場所だ……』
千秋は一旦考える事をやめ、待ち合わせの駅前のデカイ石造へと足を運んだ。
彩音ちゃんは千秋を慕ってます。琴音さんはそれに対しても嫉妬してたんでしょうね~…
子供に罪は無い…それは千秋ちゃんが言って欲しかった言葉かも?




