第64話 千秋の決断
『琴音さん...』
千秋は天王寺を背に、ゆっくりと琴音の方を見た。琴音は泣いている。泣きすぎて、頭が痛くなっている様子だった。
千秋は涙をながし終わった。
千秋は琴音に向かってゆっくりと口を開く。
『琴音さん...あのね...』
『...おーい先輩?何か怒ってますかー?』
天王寺の車の中で、千秋はヒラヒラと手をふって意識確認をしている。天王寺はそれをチラリと見ると。
「別に何も怒ってねーよ」
そう言って千秋の頭を乱暴に撫で、千秋は首をふって抵抗はしているが、余りの力の強さにグラグラと揺れている。
『怒っているじゃないですかー!?』
「怒ってねーよ」
...結局の所、千秋は琴音を許さなかった。
許さなかった、と言うのには語弊があり千秋的には許したつもりだったのだろう。
ただ...仲直りをいきなりは出来なかった。ただそれだけだ。
家に帰る事はしないが、時々帰る。その時はもう拒絶しないで欲しい...
その場面については余り言いたくない。彼女なりの決死の覚悟と、必死の会話でなんとか丸く収まる感じにはなったとだけ言おう。
『仲直りは...今は無理ってだけですよ?今後の未来ではどうなるか分からないですし...少しだけ逃げさせて下さい。』
「おーおー逃げろ逃げろ。国際指名手配犯並に逃げろ...安心しろ、誰もお前をせめたりしねーから」
冗談っぽく俺はそういい、千秋の髪をグシャグシャにした。実はサラサラの髪である千秋は結構さわり心地がよかった。
これは所謂バッドエンドなのだろうか?いや、千秋はこれで満足し、琴音もこれ以上傷付かずにすみ、何よりまだ希望があって拒絶されなくなったのは大きいと思う。
ではハッピーエンドか?と聞かれればそれは俺にも分からない。
千秋は結局家に帰る事はせず、親に甘える事もなく、拒絶する事も受け入れる事も出来なかったのはハッピーなのか?
俺は結局第3者で赤の他人であるため何も分からない。
『色々助けてくれたのに、中途半端に終わってすみません』
「なんで謝んだ?寧ろ人様の家庭に乱入してきた赤の他人を怒る場面だぞ?...それに、どんな決断をしようとお前の自由だって言ったろ?」
『先輩... ...頭を撫でるのいい加減にしません?』
「却下だ」
最早手が止まらない。つまりこれは仕方の無いものだともう諦めてくれ。撫で心地が良すぎる。
その事に対して諦めたように千秋は溜め息を吐いた。
『まぁ...琴音さんはこれから成長すると思いますよ。きっと...まぁ今は無理ですけど、いつか私は琴音さんを頼る時がくると思います。』
それは願望に近いと思った。琴音も単なる愚か者と言うわけではない。家庭を初めてもって精神が未熟であり、これから経験をつめば多分、ちゃんとした母親にはなるだろう。
けれど、千秋は気付いているのだろうか?
千秋は結局、[琴音さん]を[お母さん]と呼ぶことは無かった。
『そんな事ないですよ。単に...言い慣れないだけです』
何度か呼んだこともあります。
「それは悪かったな」
ところで、彼女はいったいどこへ帰るのだろうか?
『今日はネトカフェに泊まります』
「またか...不健康生活も終わりをつげろよな」
『善処しまーす』
絶対嘘だな。こいつ絶対また不健康生活に走る。早死にするタイプだこいつ。
『幸せになりたい...』
窓の方を向きながら彼女はボソリと言った。
「俺様が幸せにしてやろーか?」
『マジ?胡桃より私を選んでくれるの!?』
「んなわけねーだろ、バーカ」
『カッチーン』
そのまま千秋に足を蹴られ、俺は仕返しとばかりに俺も足をけり、千秋は手で俺を叩き、俺も叩いた。
運転手に怒られるまで、俺たちはバカみたいに...何時もの様に喧嘩した。
何て言うか...すみません。本当は千秋と琴音が和解してハッピーエンドにしたかったんですけど...上手くいきませんでした。
千秋と琴音のシーンを書かなかったのは、グダグダ書くよりいっそ思いきってアッサリ書いちゃえ!!と思ったからです。




