第50話 セレ祭 終わる
千秋は屋上でポー…と空を見ていた。鳳と一緒にいたが、セレモニーに遅れると千秋が送り出したのだ。鳳は渋って、「では、千秋さんも」と言っていたが立場が違いすぎると拒否し、なんとか説得して送り出したのだ。
その後、千秋はやることも無くただただ空を眺めている。会場のセレモニーに出るのは目立つので嫌だったので元からバッくれるつもりでいた。和人はその事を見越していたと思うのでなんとか成るのだろう。
普通校舎にいけば、イベント事では盛大に盛り上がりグループに入れてくれる女子は一応沢山いるが、今更そんなものに興味は無いし、レプラをやる意味も無くなってしまった。
『もういいや』
元は母親に何か質問したかったんだと思う。安藤リカに何か言いたかったのかもしれない。しかし、それを突き通すほどの理由がない。母には何も喋れなく、安藤リカとは話が通じなかった。
普段、傷づくことから逃げて信念も理由も放棄してただ何となく生きているツケが回ってきたのだろう。これはバチがあたったんだ。
鳳君にも迷惑をかけてしまった。しかしアレは鳳くんが勝手にしたことで、私に責任があるわけでは……
『うわ最低』
無意識のうちに罪悪感から逃れようとした思考に自己嫌悪がする。逃げることはするが自覚すると、体の力が抜ける感覚に見舞われるのでいやだ。
寝転がっていたので少し背中が痛い。いつから寝転がっていたのか、もしかしたら寝てたのかも知れない。辺りは少し暗くなっている。
千秋は体を起こし柵のほうへ体重をよせる。
「よう、サボって何してるねん」
後からいやな声が聞こえた
『別にいいでしょ、もうセレモニーは終わったんですか?』
「まあな、なんとか火の輪くぐりはせーへんで済んだわ」
『……何してるんですか?』
首をすくめる和人に苦笑いでそう返した。和人は千秋の横で同じように柵によりかかる。
「後少しで花火があがるねん」
『あぁ、定番ですよね』
中学でも線香花火やロケット花火はしていたな
「打ち上げ花火500発」
『……どんだけ金を使っているんだ』
乾いた笑みでそう答えるも、少し楽しみにしている。余り楽しくないと思っていたセレ祭ももう終わりか……
「まだ終わってへんで」
『へ?』
和人が屋上のドアの方へ視線を渡した。千秋はそれと同じようにそっちへ向けると……
『薫子さん……』
ドアには千秋の母、薫子がいた。
一瞬お母さんと言い出しそうになったのをこらえる。
「言いたいこと、あるんやろ?」
トンと背中を押された。
それに従うようにちょっとずつ薫子の下へ足を出して動いていく。
不思議なものだ、さっき見たときは凄く怖くて会いたくなくて表情を作るのが大変だったのに、今は案外すんなりと行く事が出来る。
「千秋……」
薫子が千秋の名を呼ぶ。
千秋は何が言いたいのだろうか?娘の教育を失敗し、育児放棄をした母への罵倒なのか。当たり前の事を教える親としての義務を放棄したことへの悲壮だろうか。それとも今までの恨みをはらす為に手を出してしまうのか。
最早なにもかも手遅れな二人の関係、いったいなにをするのか。
千秋の表情は青ざめている。さっき会った時よりマシとは言ってもやはり緊張してしまうし、脳味噌に手を入れられてしっちゃかめっちゃかにされそうだ。……その時
バーン!ッパーン!ッパッパーン!
花火が盛大に打ちあがった。それに一瞬心臓が握りつぶされた感覚に陥ったとともに千秋は
……ふっきれた
ゆっくり歩いてた足は跳躍の如し大ジャンプで薫子の場所へ届き、半径一メートル以内に入ったところで着地した、千秋が言いたかったのはただただ単純で簡単なもの。千秋は真っ直ぐ薫子の目を見据えたあと、頭を下げ。
「どうか!!どうかお元気で!幸せになってください!!」
花火にも負けない大きな声でそう言った。
「お母さん!!ずっと元気で!幸せでいて!!」
喉の奥がヒリヒリする、鼻の奥が痛くて目からは水が溢れ出てきた。こんな簡単な言葉を言うのに一体どれだけ遠回りしてしまったんだろう。どんだけ怖がっていたと言うのだろう。
「千秋....ごめんなさい!!」
花火はまだまだ打ち上げられ、暗いはずの校舎は昼間みたいに明るかった。
「いい母親になれなくてごめんね!本当にごめん!!今さら母親ぶったりしないわ!....でも、これだけは言わせて!!
愛してる!!!!」
花火のせいで顔は見えないけど、涙をながしているのが分かる。あの冷徹な薫子さんを泣かせてやったよ。ザマーミロ。
「私もだよ」
簡単な事を言う為に遠回りしてしまった事も
「お母さん」
いやな雑用をしていた事も
「私は」
変な映画をみた事も
「貴女のことが....」
鳳くんと逃走したことも
「大好き!!!」
嘘偽りのない本音の言葉を吐き出した記憶はきっと忘れない。
主人公が言いたかったのはただただ単純なもの。もう手遅れな親子の話だった。




