第48話 セレ祭⑥ 屋上
千秋は完全に自分を取り戻しました。
さて、これは全部私の責任といえる。アレではまるで母は……薫子さんは悪者に見えるが、あの人は悪くない。すべては私の原因不明の体調不良からきていたのだ。
被害妄想もはなただしい。そもそもの原因は薫子さんと上手く折り合いの付けられなかったせいであり、殆どは自己責任なのだ。かっこつけようとして失敗する子供なのだろう。まったくもって嘆かわしい。
『だから離してくれて構わないよ』
私はずっと自分を抱きしめている鳳君に言った。男性の力とは凄いもので自分を抱きしめる力は強く、もうすぐ私のアバラ骨がぁぁああああ!!!
『ストップ!!一旦ストップ!!アバラ骨が!ちょ……痛たたた』
「折れてしまえばいいんです」
『何とんでもない事を言い出しているんだ…ちょっと!?』
静止を呼びかける声は届いて居るはずなのだが、鳳くんは離してくれない、そして凄くいたい。いや、ガチで折れてしまうんじゃないだろうか?
「離しません」
『離してくれ!!』
「だったら話してください!」
『私何も縛り付けてないよ!?』
これは最早抱きしめるというより、絞め技に近く本気でヤバイかんじになる。確か私の元彼に柔道の達人が居たはずだ、思い出せ……
「あの人達と何があったんですか!?」
私がアホな現実逃避をしていると鳳君に両肩をつかまれ、目を合わされた。綺麗に光るグリーンの瞳はとても美しく、目をそらしてしまいたく成るほどだった。
『なにも…ないよ』
「何もないことありません!!だって…」
本音で喋っていたじゃないですか。
……あぁもう逃げられないな、言い訳もできない。助けを求めてしまったのは私だ、だったらもう仕方がない。
『……お母さんだよ、さっきの女性は』
そう言って、鳳くんをなんとか引き剥がしてパーカーのポケットに手を入れる。確かお菓子が入っていたはずだからと弄ればキャンディーが出てきたのでそれを口に放り込む。
「え…でも、安藤さんは……」
あぁ、鳳くんは見ていたのだろう。安藤リカが薫子さんをお母様と呼んでいたから彼の中で矛盾が発生したのだろう。
『私の前の母親で、今は再婚して安藤リカのお母さんだ』
そこそこ複雑な私の家庭
『なんていうか、上手く父と母と家庭を作ることができなくて…そもそも失敗しちゃってて、離婚した後も時たま会ってはいるんだけど……未だに上手く折り合いが付けなくて…』
ヤバイ、恥ずかしい。何で私は自分の恥じる家庭事情を喋っているんだろう。ヤベー……これ完全に不幸自慢っぽくなっている。私、かわいそうでしょ?ってなっている。
ヤベー…マジヤベー…あぁ、ごめんなさい。
取り合えずは心の中で謝罪して、鳳くんの方をみる。鳳くんは無表情というわけでは無かったけど、感情の読めない顔色をしていた。それが何より怖い、無難な言葉でなんとかしよう
『その……うん、誰も悪くな…痛っ!!』
思いっきり叩かれた、鳳くんはまた叩いてきた。
『痛い痛い!!鳳くん叩き過ぎ!』
「出て行きなさい!出て行きなさい!この気遣い虫!」
『え!?え?』
何度も頭をしばかれて抗議しようとまた鳳くんを見ると、怒っているような悲しんでいるような唇をかんで悔しんでいるような顔をしていた。
「もう!っ本当に!こんな時にまで……ああもう!!」
言葉に表すことが出来ないのか、半ばヤケクソ気味に鳳くんは動揺していた。いつもの鳳くんとはちょっと違う。
「せっかく…貴方が見えたと思ったのに……なんで…」
『鳳くん?』
「何があったか知りませんし、きっとあの人達にもあの人達なりの事情があるのかも知れませんが」
鳳くんは私を抱きしめた。優しく優しく、さっきの壊れてしまえば良いと言うような感じではなく壊れないように優しく。
「貴方が悲しむのは……いやだ」
きっとコレは鳳くんの優しさんだろう。コレの言葉になんて帰せば良いか分からない。こんな誠実な言葉を返す言葉を私は持ち合わせていなかった。
口の中に入れたキャンディーを噛んでその破片が口の中にちょっと刺さる。砂糖の甘さと血の苦さが混じりとても不愉快で、まるで自分みたいだと嘲笑していまう。
『……鳳くんはやさしいね』
屋上の風にあてられながら、私は本音と嘘をごっちゃにした言葉を吐いた




