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似非ボッチの私が逆ハー女の親友になってた  作者: 黛 カンナ
愛憎うずまく波乱のセレ祭 当日編
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第46話 セレ祭⑤ 少女の叫び

「あら、リカじゃない」


後ろからの声に未だ、千秋は振り向かなかった。その人から見える位置ではリカしか見えず、千秋の後ろ姿しか見えていないので、まだ気付かれていない。


「お母様!!」


リカは恍惚の表情で、自分の母のもとへと行った。まるで熱狂的な信者のように。


千秋はポケットに手を入れたまま動いていない。何故か喉の奥が焼けつく様な感覚に見舞われるがその正体がなんなのかがわかっていない。


もはや戸籍上では母では無くなった母に対して一体何の念を抱いているのだろうか?


残念ながら恨みや悲しさが出るほど母に対して期待はし覚えもなく、何かのトラウマに成る程コミュニケーションを取った覚えもない。


それともそれ自体がトラウマと言うのだろうか?


「ちゃんと仕事はしているんでしょうね?」


「勿論です!お母様!」


さっきとは全く違い、完全に自分を取り戻したリカが嬉しそうに声を弾ませる。それに対し、女性は冷静に対応して話をしている。


ふと、何かに気付いた様に女性は言った。


「...千秋...なの?」


声が聞こえた。さっきの義務的な声とはちがい、少しだけ驚愕の入ったものであり、それを自覚しているから冷静に努めようとしている声だ。


「そうだよ...お母様」


千秋ではない肯定の声が聞こえる。少し高くて凛とした声は紛れもなくリカの声であり、少しだけ悲しみの入った声だった。


しかしそれでも千秋は振り返る事が出来ずにいる。

どういう顔をすればいいのか、何時もの様に笑えばいいのか、それとも冷静な顔をすればいいのか、いっそ高笑いでもしてやろうか。


そもそも最早後ろの女性は母では無くなり、家庭を持っている。しかもその娘は母と上手く行っており、家族愛なのかは別として愛している。


そんな出来上がっていて、最早入る余地のない輪に異物が入るなんていやだ。


『(気持ち悪い... ...)』


頭の中に丸で渦のように思考がグルグルと回る。何の錯覚からか、自分の世界すら回って気がした。


上なのか下なのか、自分は立っているのか倒れているのか、世界が高速で回っている気がした。


何時間も何日も何年もたったような気がしたが、結局は数秒にも満たない出来事なのだ。


何を狼狽えているんだ、何時もの様に笑えばいい


大丈夫だ。大丈夫自分は大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫


暗示に近い事で無理矢理に結論付け、何時もの笑顔を張り付けて無難な言葉をいいながら後ろを振り返ろうとする。


『久しぶりで...』


しかし、振り返る前に何かに包まれた。

[それ]が何なのかは分からない。自分を包み込む程に大きく、そして少し固く... ...とても温かった。


「大丈夫ですか?」


自分にだけ聞こえるように小さく、けれども優しく温かい声が聞こえた。


『え?鳳くん?』


そこでようやく千秋は気付く、自分は抱き締められているんだと。母から隠すように、何かから守るように正面から抱き締められているんだと。


それに対し、何かしらのリアクションを千秋が取ろうとする前に、もう一度鳳に聞かれる。


「大丈夫ですか?」


その言葉にようやく、やっとのことで、出来れば一生気づきたく無かった事に気づいた。


自分が...大丈夫では無いことを


「たす...けて...」


本当にか細く、小さく、自分ですら何を言っているのかが分かっておらず、理解出来ず消えてしまいそうな...けれど


千秋の心からの叫び声だった。


その叫びを聞き少年は少女の手をとって走り去った。

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