第36話 リカと胡桃
疲れた・・
とてもシンプルな感想が私の頭の中に大量に渦巻いている。
本来、私はこう言うのは余りしたくないタイプの人間であり、逃げるタイプの人間だ。誰だって雑用とかしたくないし、面倒臭いのはいやだ。
しかも安藤さんは私を目の敵にしてる様で話が通じない。まぁ仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない・・と思っていられるのは何時までなのか、正直分からない。
とにかく私は疲れてヘトヘトになった頭に糖分補給をするため、ハニーココアと言うとても甘い飲み物を選んで、一息つける。
「天崎さん、それはなに?」
声のする方向へ首を回すと、安藤さんがいた。安藤さんも自販機に来たのだろうか?正直会いたくなかった
『普通校舎限定ハニーココア、美味しいですよ』
「そんな物を飲むなんて、舌が可笑しくなってるんじゃない?」
『料理系の資格はあらかた持ってますんで、そこそこ良い味覚を持ってますよ』
ココアを飲みながらそう答える。
単に嗜好の問題であり、疲れた脳には糖分が一番なのだ。
所でこの人は何しにここへ来たのだろうか?何も無いなら帰って欲しい。
「そうやってバカにして・・!!」
どうやら安藤さんの逆鱗に何故か触れたらしく、怒りを露にした。ヤベー・・と思っていたら
「アレ?千秋ちゃん!?」
キャーっと可愛らしい声が響いた。どこかで聞いた事のある声の方向に目を向けると胡桃がいた
『胡桃、どうしたの?』
トテトテと可愛らしく小走りでニコニコと私の方へ来た
「マフィン作ったから差し入れに!!」
わー可愛い。マジで可愛い。皆さーんここに天使がいます。
「この子は誰?」
胡桃を見た後に私に問う安藤さん。胡桃のホンワカした雰囲気のせいか若干楽になっている。
『伊集院 胡桃、会長の従妹で・・』
「千秋ちゃんの親友!!」
私の言葉を被せ、胡桃はエヘンと胸を張って言った。あらやだ何コレ可愛い。
「私は安藤リカ。レプラとして来てるの」
物腰柔らかく挨拶する安藤さん。私の時は完璧に敵意があったけど、胡桃には無い。分かる分かる、余程の事が無い限りは胡桃を嫌えないし、敵意とかは無い。
「別に聞いて無いんだけど」
ただし、相手もそうだとは限らない。
「・・え?」
さっきまでニコニコと笑っていた天使のバッサリと言い放った言葉に驚く安藤さん。分かる分かる、怖いよね。
多分だけど、さっきのやり取りを見ていたんじゃ無いかな?それとも子供特有の勘の良さとか?それか会長?
「千秋と一緒のレプラって、安藤さんだったんだね!?」
しかし胡桃は何も無かったかの様に再び笑顔で言った。
安藤さんもさっきの事は無かった事にしたのか
「そうよ、同じレプラの人が天崎さんなのは嫌だったけど、頑張ってるの」
「ふーん・・」
ヤバい。これはヤバい。胡桃の目は明らかに攻撃色で、物凄く冷たくなっている。
「そう言えば久しぶりだね?」
「え?そうなの?」
胡桃の言葉に、驚く安藤さん。私もこの二人に接点がある何て聞いた事が無い。
『どこかで会った事あるの?』
私が問いかけるとニコニコと可愛らしく言った。
「料理教室に通ってた安藤リカさんって人がいるって叔母様から聞いた事があったの!」
それは一方的に知ってるだけじゃん。接点って言わないよ。と思ってたのだが、胡桃の話はまだ終わってない
「でね!通ってた理由が『料理の資格を取りたい』からだって聞いて、凄いなー・・って印象に残ってたの!!安藤さん、料理の資格は取れたの?」
あくまで何も知らない無垢な表情で聞いてきた。安藤さんは俯いて気まずそうに・・
「まだ・・取れて無い」
まるで聞いて欲しく無いように、蚊の鳴く声で言った。しかしお姫様はちゃんと聞いた様だ。
「そうなの!?・・ごめんね、嫌な事聞いて。アレだけ頑張ってたから・・でもこれからも頑張ってね♪」
申し訳無さそうに、あくまで純粋そうに謝って励ました胡桃。直接的な表現をさけ、何も知らなかったと言うような態度にちょっと戦慄した。
毒を盛ったのだ。彼女は人畜無害を装って毒を盛り、相手を傷付けた。普段の胡桃は攻撃とか毒は盛らないのに、私が絡むとこうなる。何故か被害の会ってない私までもが怖くなってきた。
安藤さんは悔しそうに唇を噛み俯いている。それを見た胡桃はニッコリと微笑んだ。それは女神が哀れな子羊を見下している慈悲の微笑みに見えた。
キーン コーン カー・・
「あ、もう時間だ!バイバイ千秋ちゃん」
『うん、マフィンありがとう』
チャイムの音がなり、胡桃は私の名前だけを言い、またトテトテと小走りで向こうに行った。
リカは結構通いつめてたんですけど、資格は無理でした。一応料理は出来る方です。
だから、千秋に嫉妬したんでしょうねー・・




