第29話 嫌われてる筈の鳳に助けられる
若干フラグたってますが、今後回収するかは分かりません。
「ちょっとうるさいのですけど」
冷たい声が響きわたった、鳳は普段の柔らかい物腰ではなく、腕を組んで仁王立ちしまるで見下すかの様なポーズをとっている。その声で鳳のほうを向いた彼女と彼達は鳳の方を向いた。
千秋と喋っていた女は、少し口をポカンとあげたが千秋と鳳を見比べ
「えー!アキちゃんってこの人と付き合ってたりするの?」
と、茶化して声をあげた。その目は挑発的なものであり、目の前にいる美男が千秋の彼氏な訳ではないとあざ笑っている様にも見えた。そして、自分より立場の低い筈だった女がモデル並に綺麗になったのと、美男に庇われているという事実に焦っているようでもあった。
『ううん!違うよ』
「だよね!いや~アキちゃんはそうだと思ってたよ!あ、そういえば高校どこ?」
『聖セレント学園だよ、なっちんは?』
「・・・鮎川高校」
私立で偏差値は低い高校だ。実を言うとなっちん、夏影 奈美はセレントを受験していた。しかし普通校舎ですら偏差値は結構高く、しかも何か資格や特技が持ってないと入れないセレントに奈美は合格出来ず失敗した。そんな事を知らない千秋は、しまったと思うがもう遅い
「でもさ、アキちゃんの事だから勉強とかついて行けて無いんじゃないの?ほら、昔っから・・」
と、鳳に向けてペラペラしゃべり出す奈美、無意識にプライドを傷付かれ勝手に恥をかいたと思っている彼女は千秋を落として自分を少しでも良く見せようとしている。
千秋はちょっと困り顔をしながらも笑っている。
それに対して鳳はまた苛立った。
自分達がしていた様にガツンと歯に布着せぬ言い方をしろと、何故そうしないのだと。それはまるで出来の良い筈の子供の授業参観を見に来た母が、簡単な問題を解けてない我が子を見る視線に似ていた。
「でね、この子は昔っから私に引っ付いてて・・」
チラチラと鳳を見ながらまだ喋っている。
既に千秋はポーッと遠くを見ながら適当に相槌を打っており
好きに喋らせときゃ勝手に終わるだろ、鳳君は・・知らん
と、自己完結し少々身勝手なことを考えながら、精神保身を始めだした。鳳の心境を分かっていない・・・否、理解することを放棄した千秋は鳳も黙ってくれるだろうと、きっと騎士道精神とかアレとかで色々空気読んでくれるだろうと、そう勝手に思っていた。
「(貴方が言わないなら私がいいます)」
しかし残念ながら彼は黙る気も無ければ、騎士道精神も空気を読むという事もかなぐり捨てていた。
「煩いというのが聞こえないんですか?ペラペラと・・黙ってください」
最初の冷たい声とは比べ物にならないほどの、冷徹さが有った。氷を通り越してドライアイスみたいに成っている。
「え?・・えと・・」
「大体、さっきから貴方は千秋さんの悪口しか言ってないじゃないですか、とっても不愉快です。そんな事をしても貴方の評価は上がりませんし、面白くとも何ともないです・・て言うかスベッてますよそんな事も分からないんですか?バカですね、だから庶民は嫌いなんですよ。というか何で黒龍園に貧乏人が混ざってるんでしょう?あと、貴方の過去話は気持ち悪いです」
一体何時呼吸をしてるのかが不思議な鳳の毒舌が口から大量に出ていた。千秋はトリップ状態から戻り、目を丸く見開いて驚いている、毒舌を吐く位ならまだ予想の範囲以内ではあった。彼の性格上、苛立ちがマックスになったら、毒を吐いて追い出すかもとは思っていたからだ、予想外だったのは・・
『あの?鳳くん?』
「千秋さんは後ろに下がってなさい」
鳳が自分を守るようにして前に出てくれた事だ。
「昔はしりませんが・・・千秋さんは貴方なんかより格段に上の人間です、貴方より優れてます、過去の自分を美化するのは愚かしく醜いので・・・消えなさい」
「ぅ・・な、何よ!あ、相手してやれないわ!みんな行こう!」
図星をつかれ、彼女は真っ赤になって行った。昔は自分を引き立たせる、自分より下だったはずの女の子が自分より向上し、自分より上ランクの学園に進学し、挙句の果てには物凄い美男に庇われている。
外見、学歴、スタイル、男、その他もろもろ敗北した彼女が逃げるのは当然といえよう。
『ありがとうね、鳳君』
「別に・・ただ本当に煩かっただけですよ」
『何か・・私のこと褒めてくれたし』
「褒めてません、事実を言ったまでです・・・え、えーと・・いいですか?貴方は伝統あるセレントの生徒なんですよ?だから・・そうです!貴方がバカにされていると言うのは、セレントをバカにしてるのと同じです。なので貴方を庇った訳ではないんです!聖セレントの為です!」
一体鳳は何時からそんな愛校精神溢れる男になったのだろうか?
『そっか・・でも嬉しかったよ』
安堵したかのように千秋は笑った。
へニャ
それを見た鳳の脳内で変な擬音が出てきた
「・・・もう一回見せてくれません?」
鳳は詰め寄り、千秋のあごを持ち上に向かせた
『へ?何が?』
「さっきの、ヘラヘラでもなく嘲笑でもなく嘘臭くもなく困ってる笑顔でもなく・・
へニャっとした可愛・・何でもないです忘れなさい」
千秋から手を離し、冷静に戻った鳳は前髪をかき上げて、大きく深呼吸した。
「(どうやら酸素不足ですね)」
何があったら酸素不足になるんだ。
鳳はツンデレと言うか・・ちょっと母性本能強そうなお節介焼きかな~って思ってます。




