第26話 胡桃と和人
「離してよ!お兄様!!」
胡桃は手足をバタバタさせながら、和人を叩きまくっている。和人はそれを無視してそのまま走り、メリーゴーランドからある程度離れた場所で胡桃を下ろした。
「もー!!なんなの!?早く千秋ちゃんのとこに・・」
ぷんすか怒る胡桃は急いで千秋達の場所に行こうとしたが、和人が腕を掴み、顔を会わせて言った。
「胡桃、ちょっと我が儘が過ぎてるで」
胡桃はその言葉を聞いて、うつむく。
胡桃は本来、天性のいい子である。我が儘を言う事は殆ど無いし、誰もが望む理想の女の子だ
「だって・・・千秋は・・嫌がって無いし・・」
言葉が弱々しく、最後の方は聞き取りずらかった
胡桃からすれば、何故自分は怒られているのか分からない。ただ親友として当たり前の行動をしていただけなのだ。
「そ、それに・・別に我侭ばっか言ってる訳じゃないもん・・ちゃんと・・千秋ちゃんに色々してあげてるし・・」
それこそが傲慢で自分勝手な征服欲を満たしている事を胡桃は分かっているのかは不明ではあるが、和人は胡桃に説教したいわけでは無いし、追い詰めたい訳ではない。
「別にな、ずっといい子でおれって訳とちゃうねんで?千秋に甘えたい気持ちも分かるし、今はそのままでええと思う、安心しいや」
そこで話は終わりとばかりに手を打った。
この手の話をこれ以上続ければ胡桃は本気でキレるだろう。キレた胡桃は千秋でも宥めるのは至難の技だ、最悪千秋が伊集院家の養子になるか1週間くらい旅行に行き、胡桃の我侭を全て受け入れるぐらいしか手立てはないだろう。
それに胡桃の気持ちも一応分かるつもりだ、千秋は・・・頼りやすいのだ。
根暗で不気味な見た目に反して、性格は軟派で軽く喋りやすい。しかも基本的には平和主義者な為に争い事は余り好かない。
普通校舎での彼女の評判もそうである。
彼女とは別段仲良しでもいつもツルむ訳ではない生徒ばかりなのに、遊ぶメンバーや何かで集まる時には殆どのグループは最初に決まって千秋の名前が挙がる。
それに千秋が応えるかは別として、何かしらに千秋といるのは心地いいらし。
だから生徒会の奴等も無防備と言える程、千秋に対して敵意を表しているのだろう。別に千秋が決定的に悪い事をしている訳では無いのだが、千秋のやる事一つ一つに文句をいい出す。
何故ならば・・・皆、ある程度千秋を認めているからだ
実は生徒会役員の殆どは千秋の逆鱗に触れ、何かしらで敗北している。
しかし千秋はプライドを壊したり歯に布着せぬ言い方をするものの、相手を本気で拒まない。
「だから皆、嫌いなんやな」
理不尽かも知れないが、自分が無防備に敵意を持っても嫌っても千秋は拒まない。
殺意と言う名目で彼女を頼っているのだ。
しかしそれすらも上手く対応しているコミュ力と何だかんだで単独行動を確保出来る彼女の手腕を高く評価するのは和人にとって、妥当なのだ。
「ふぇ?何が?」
突然言葉を発した和人に胡桃は困惑する。怒られていると思っていた胡桃は頭を ? で一杯にしている
それを一瞥しながらちょっと考える。
しかし、余り千秋を頼りすぎては駄目なのだと
好意にせよ悪意にせよ彼女は全てを何とか出来る神様ではない。
普通に傷付くし、普通に嫌な時もある。
あの嘘と本当をごっちゃ混ぜにした性格は元々かもしれないが、それ以上に千秋が悩んで身を切るような思いをして、妥協と適応を繰り返した結果なのだ。
その事に気づけた自分は凄くラッキーだろう。
本当にあの時、諦めずに彼女とぶつかりあって良かったと思う。昔を懐かしみながらも胡桃の方を見て
「ん?なんでもないで、大丈夫や千秋と鳳が仲良くなったらええなって思っただけや」
「何言ってるの?・・鳳くんは千秋ちゃんを苛めてるの?」
無垢で純粋で無知に彼女はキョトンと言った。その姿は小さい天使のようで可愛らしいが和人は知っている。
その純粋の奥に隠れている歪んだ友愛をもしくは純粋であるが故の狂気を
もし今胡桃の可愛さに騙されて「そうやねん」と言ってみよう・・・彼女は鳳を突き放すだろう。千秋よりも深く関わり、彼の心を癒し恋に落とした彼女は・・・親友の為だけにいとも簡単に突き放す。
何故ならば自分は千秋の親友で彼女を守る義務があるから。
そんな心理を理解している和人は
「ちゃうちゃう(笑)皆仲良しになったらええなーって思ってるだけや」
ニッコリと爽やかに笑って言った
「そっか!!私も皆仲良しがいいよ」
基本的には平和で優しい少女は
手を合わせてニコニコと花のように微笑んだ。
胡桃はヤンデレなのかな?って思ってきたけど、普通の友達でも、こう言うのってありますよね?
あと、和人と主人公は昔、殴り合いの喧嘩をした事がありますww




