第20話 胡桃のお叱り
ピピピピ・・・
『ふぁ~あ』
スマホのアラームを止めて、目を擦りながら起きる。
彼氏を起こそうと癖で右横をポンポンしてしまうが、昨日は彼氏達の家ではなく、自分の家で寝た事を思い出す。
千秋はスカートのポケットにiPodを入れ首にヘッドフォンをかけ、パーカーのポケットに携帯とスマホを入れた。
スカートは校則には触れない程度に短くして、七分丈のスパッツが見える位にする。ネクタイは少し緩めにして、第2ボタンまで外して今日は冷えそうだから黒パーカーを着込む。
仕上げに胡桃から貰ったネックレスを付けて完成
メイクは一切しないのが似非ボッチの極意だ。
階段をひっそりと下りる。
今の私の立ち居ちが正直アレなのは知ってるので母が起きる前に出て行くことにした。
多分また彼氏達の家を転々とするか、ネトカフェor漫喫で住むのだろう。
次はいつ帰れるのやら、もしくは<帰る>と言うシステム事態が無くなるのかも?
そう自嘲して家を出て行った。
「何で勝手に帰っちゃったのよ!!!」
朝から校舎内で胡桃の叫びが響いた
『いや、あのね・・・えーと、色々あったんだ』
目を泳がせながら、しどろもどろに言う。まるで浮気がバレた男の様だ。
「色々ってなんなのよ!?凄くスゴく探したんだからね!泣きそうになったんだよ!」
本当に怒っているようで、顔を真っ赤にしながらキーキーと怒る。
美少女が本気で怒ると恐い物で、周りの人達は遠巻きに見ている。
『ほら、こっちの都合でさ、言うにやまれず事情ってのがあって・・私情で本当に悪かったけど・・』
お前はサラリーマンか!?
とツッコミを入れたい位の抽象的な謝罪が出た。
特別校舎でいやがらせやら、嫌味やらの汚い物は胡桃には余り見せたくない。
例えるなら、普段食べてるハムがどうやって出来るのかを純粋な子供教えるような抵抗感であり・・・
その純粋な子供が一番残酷であることを知ってるからでもあった。
胡桃は天性のいい子であるが、千秋が絡めば我儘になる。そして周りは胡桃の我儘を好ましく思い、咎めない。
一度、ちょっとした好奇心で胡桃にいやがらせの事を喋って、助けを求めたら・・・
翌日、生徒数名が屋上から落ちた。
理由は友達との悪ふざけで、しかも証人もいて証拠もあり、学生の悪ふざけの不慮の事故だと片付けられた。
しかしそれは、千秋に嫌がらせを頻繁にしていた人達である為、これは事故でないと分かった。
胡桃はニコニコとやはり可愛らしくふんわり笑って
「事故なんて恐いね、可哀想だったねあの子たち」
と言った。
純粋無垢は時として凶器となりえる事を学び、無知で普段いい子程限度がわかってないのを知った。
しかも今回は被害が出る前に退散したので、何もしてない子達を巻き込みたく無いと、思う位には千秋に情があった。
もっとも千秋も本気になったら人の心やプライドやらを折って泣かせるのは造作も無い人間だが、千秋がある程度の理性をもっていると面倒臭がりな性格な為に表に出す事は余り無い。
まぁ、生徒数名の事件についてはラッキーの一言で済ませた辺り、千秋もアレだが今は関係ない。
『本当にごめんね?別に理由があるわけじゃないんだ。本当だよ?単にちょっと疲れてさ・・ごめんね?』
そう最後に締めくくった。
これは団地育ちで培った謝罪術である。
『そうだ、今度一緒に遊園地行こう!!そんときは絶対に残したりしないからさ』
最後に、ダメかな?と付け加える
すると、お姫様は機嫌が戻り
「しょうがないな~もう!今回だけだよ!」
と、お許しを得た。
今回だけと言っているが毎度、千秋の謝罪術で許している。
千秋の謝罪術が凄いのか、それとも胡桃がチョロいのかは定かでないが、良い感じに事態は収拾するかに見えたが・・・
「おはようございます、胡桃さん・・と千秋さん。」
鳳アレンクシス、新たな嵐が来てしまった。




