第18話 天王寺視点
家の前
どこにでもある、一軒家でありそこそこ裕福そうな庭付きの二階建てだ、俺からしたら小さいが貧乏人が暮らすには丁度いいかもしれねー大きさだった
『まぁ、ゆっくりして下さい』
千秋はポケットから鍵を取りだして、ドアを開ける。
その時、若干ひきつった顔をしていたがやはりヘラりとした笑みは崩さない。
「おい、大丈夫か?」
『はい・・まあ』
そんな会話をしながら、ドアを開けた
『ただいま・・』
千秋は自然にそう言って、家の中に入った。
それは自然と言うより機械的で、まるで録音再生のような口調だったのだが、本人は気付かねー
どこか、危うさを孕んでいる様で、柄にもなく心配になってしまう。
「あ・・千秋ちゃん・・お、お帰りなさい」
母親らしき人が、中におり少し困惑しながらも言葉を発していた。失礼だが千秋に全然似ていない、目は腐ってねーし、酷い隈もない。
しかし、美人かと言われれば平均的な方であり普通に幸せそうな、一般家庭の主婦だ。
「あ、お友達?千秋ちゃん」
『学校の先輩だよ』
「どうも」
一応挨拶した。
「こんばんわ、ゆっくりして行ってね。でも千秋ちゃん、まだ彩音の夜泣きが酷いから迷惑かけるかもしれないわよ。ごめんね」
『ううん大丈夫だよ、赤ちゃんは泣くものだし気にしないよ』
「そ、そうね・・でも先輩さんの方が迷惑するかもしれないわ、ごめんね?」
『あ・・えーと・・』
茶番劇だ
そう思ってしまう。母親は優しそうに謝っている感じではあるが、本質的には緩やかに拒絶を表し、しかしながらある程度の情がある様で本当に千秋を気遣っている部分もあるのだろう。
そして千秋も、その事を分かっているから何とか会話をいい方向に行かせ様としてるが、原来の一線引いた性格のせいで、上手く事が運びこまれていない。
千秋と母親の気味悪い、気遣い茶番劇は何時のまにか、表向きは、千秋と俺が迷惑するから、家に入らず出て行くと言う話になりかけていた。
言っておくが、俺は千秋が大嫌いだ。胡桃にまとわり付
いてるせいで、胡桃は俺を見てくれない。だから大嫌い・・・だが、それが関与しなければ意外と嫌ってない
「俺は大丈夫ですんで、上がっていいですか?勿論迷惑もかけませんし」
貧乏人が驚いた様に俺を見る。意外と傷付くからその表情はやめろ貧乏人。
「・・そうね、ありがとう。本当に大丈夫?」
「大丈夫だ」
ここまで断言すれば、相手は言うことが無くなったのか、ゆっくりしていってね。と言葉を残して去って行った。
「ありがと・・(ボソ」
「ん?なんか言ったか?」
『何でもありません、部屋はこっちです』
そう言われて、案内されたのは二階の部屋だった。
「赤ん坊も二階の部屋なのか?」
『いえ、一階の部屋です』
貧乏人は階段を登りながらでそう答える。
そして、少しだけ違和感を覚えた。
「夜泣きってここまで聞こえるのか?」
そこそこ離れてるのに聞こえるなんて、余程この家の防音は最悪なんだな。と思ったが、違うらしい。
『いえ、そこまで聞こえませんし、聞こえても小さいので気にしてません』
「は?でもさっきは・・」
『ただの口実です。あ、入って下さい』
ドアを開け、部屋に案内された。
部屋の中は意外と綺麗であり、それなりに広くて、案外片付いていた。
クッションの上に座りながら、貧乏人はポットを取り出した。
『紅茶です』
「いただく」
少しの沈黙
『お察しの通り、私の家庭環境は良いものとはお世辞にもいえません』
「それは見たらわかった、まるで安っぽい茶番劇を見せられている様だった」
『義母に悪気は無いんですよね』
「アレは悪気が無いんじゃなくて、単に自分を正当化しているだけだ、もしくは自分は可哀想だと悲劇ぶってるだけだ」
貧乏人のフォローを叩っ切る。生憎、俺はあの女をかばう事情なんてないし、正直気にくわない。
「お前の似非ボッチもあの状況で出来て、ひねくれた性格になったんだったら納得だ」
『いえ、この性格は単に昔は団地育ちで周りの顔色伺いながら、世渡りしてたけど途中から人間関係に疲れて単独行動を好み出しただけです』
「それは何時の話だ?」
『小学1年生の初期辺りだったかな?』
「早熟し過ぎだバカ」




