彼氏と彼女 後編
《》はヒソヒソ話です。
comicoで『椿の如く』今日更新です。
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告白というのは、何故か定番として体育館の裏である。
《よく考えたら、部活の連中とかよく現れるスポットの筈なのに、どうして皆、ここを選ぶんだろうか?》
よくある定番の草むらで、身を隠しながら、千秋は吐き捨てるようにそう言った。
《なんや、意外と冷静やな》
《一周回って冷静になってきた》
とはいっても、緊張のピークを振り切り、若干ヤケクソ気味になったが故の冷静さなので、結構、危ない状態なのだが、千秋にとってはどうでもいい。
《お、来たで》
和人の向けた指に千秋は視線を移した。
「貴方が、淡島 刹那さんですね?」
「は…はい!」
《めっっっっちゃ可愛いじゃん!》
思わず、千秋は驚いた。
淡島 刹那という少女は、身長が140あるかないか位の小柄で、黒髪ショートに赤いピン。栗色のセーターを着ている、清楚系の正統派美少女だった。
《あいつ…風紀委員の後輩の子や、最近、交流あったからな》
鳳は性格は悪いが、紳士的な人物なので、その時に好きになってしまったのだろうと、和人は考察する。
「今日は、どうしたのですか?」
なんとなく、呼び出された理由は分かっているが、鳳はさっさとすませたいので本題を促す。
「あの…好きです!付き合ってください!」
女の子は、目をキリッとさせて、叫ぶようにそう言った。
《ストレートに言うた!めっちゃストレートに言うたで!なあなあ見て見て!》
草むらで、楽しそうに、愉快そうに、声を跳ねさせてグイグイッと千秋の腕を引っ張る和人。
《テメーは、何でそんなに楽しそうなんだよ!?》
涙目で抵抗する千秋。
そんな二人のやり取りを知る由も無い鳳は、アッサリとした声色で返事をする。
「付き合いません。はい、これで終わりですね」
さっさと終わらせたいとでも言うような態度で、帰ろうとしたが、それを刹那が呼び止める。
「待ってください!そんなに千秋さんがいいんですか!?あの人、男癖凄く悪いんですよ!」
どうやら、鳳の彼女が千秋であると知った上での告白だったようだ。
案外、気の強い女の子らしい。
「確かに、千秋さんは男癖は悪いですが、魅力的な人です」
《男癖悪いって、否定しないのね》
《実際、男癖悪いねんから仕方ないやろ》
千秋は八つ当たり半分で、和人に蹴りを入れた。
そうこうしている間にも、二人は会話を続ける。
「男癖悪い上に、目も腐っているんですよ!」
「男癖は悪いですが、顔の作りはとてもいいんですよ」
「男癖悪い上に、凄くデカイですよ!」
「男癖は悪いですが、千秋さんはモデル体系ですよ」
「男癖悪い上に…」
《ねえ!?何で冒頭にずっと男癖悪いってつくの?私のイメージってそんなの?》
そんなのである。
《まぁ、千秋の男癖の悪さは有名やからな…》
パーティー編の時に、大量に知り合った男達との物凄い修羅場を繰り広げたのは、学園に残る伝説だ。
実際、千秋が沢山の年上男性と付き合っていたのは事実だし、普通に考えれば、余りいいものだとは思われないだろう。
だからなのか、納得がいかないとばかりに、刹那は泣き叫ぶように、けれど真っ直ぐな目で言った。
「私の方が…絶対にいいと思います!身長は小さいし、家柄もいいです!顔も悪くない方だし、処女です!先輩の事、大好きだから…いっぱいいっぱい努力します!」
その言葉が、千秋にはズドンと、重くのしかかる。
自分みたいな不細工で根暗で、家庭も面倒で、重くて、非処女で、男癖わるくて、身長がただただデカイ女より、彼女の方が、いいのではないか?
彼女の方が魅力的で、可愛らしい。
「それでも、千秋さんが好きなんです」
しかし、千秋の心配など、刹那の不満など、知った事ではないとばかりに、キッパリと鳳はそう言いきった。
「千秋さん以外、考えれません」
取り付く島もない。
付け入る隙も無い。
そんな、男らしい、言葉だった。
「そう…ですか、ありが…まじだ…」
涙をこらえ、少女は目元を押さえながら、逃げるように走り去っていった。
「いやぁ~ええもん見せて貰ったわ~」
空気の読まない和人が茂みの中から現れ、拍手した。
「会長!?一体、いつから」
「最初っからや、千秋もおるで」
「ぇえ!?」
ガザッと茂みから、千秋が現れた。
「さーて、後は若い奴らに任せて俺はどっか行くな~あ、変なことはするなや」
ニヤニヤと笑いながら、和人は走って逃げるように退散した。
残されたのは、鳳と千秋だけとなった。
「ごめんね、鳳くん、見させてもらったよ。ていうか、酷くないか?男癖悪い言いすぎだよ」
さっきまでの弱腰は何処へやら、千秋はいつものヘラリとした笑みを浮かべながら、拗ねる様にそう言った。
「い、いえ!そんなつもりで言ったわけでは…!」
弁明しようと、慌てた鳳の姿をクスリと笑って、千秋はギュウゥっと抱きしめた。
「冗談だよ。すっごく嬉しかった」
嬉しそうに、デレデレと、普通の女の子のような、凄く可愛らしい笑顔で、千秋はそう言った。
「…それは、よかったです」
鳳は、そんな千秋を愛しく見つめながら、優しく、けれどしっかりと抱きしめ返した。
「さて、そろそろ戻ろうか」
「あの…千秋さん」
「何?」
「キスしてもいいですか?」
「それは、いいんだけど……何で私、押し倒されてるの?叫んだほうがいい?」
「すぐに、終わりますから」
「ちょっ…待っ…誰か!誰かー!」
本当は、この続きも書きたかったんですけど、アウト中のアウトになってしまうので、やめました(^o^;)
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