スッキリ
琴音さんが叔母を平手打ちした衝撃に私は呆けてしまっている。
いや、だって...あの琴音さんだよ!?繊細で優しくて、争い事が嫌いな可愛い少女のような、胡桃の弱体化バージョンのような琴音さんだよ!?
それが、ぶっちゃけ私の印象なのである。
だけど確かに今、私を娘といって叔母を叩いたのは、少女のような人とかじゃなかった。
「痛っ...何をするのよ!?」
叔母は案の定、こっちを睨み付けている。
正直、今は絶対に謝る時なのは分かる。これは暴行罪になると思うし....まぁ、御託を抜くと
スッキリした。
なんだろ?鎖や重石が外れたような気分で、重圧に苛まれていた心は羽のように軽い。
宙ぶらりんで何処に向かっているのか分からない言葉が地面にしっかりと足がついたような気分だ。
「叔母さん、大丈夫ですか?どうも大きな音がしましたよ」
括弧つけるのも格好つけるのも、二重の意味で面倒くさくなり、バカらしくなり、私は喋る。
そんな私の態度に叔母は真っ赤になって怒る。
「大丈夫じゃないわよ!凄く痛いじゃない!」
叔母は当たり前のようにそういう。普段の落ちついて、遠回しに嫌味をいう姿からかけ離れている。
「でしょうね。いい気味だ
でも許してください☆」
テヘペロっとそう言ったら益々叔母さんは怒ってきた。そりゃそうだろう。私もやられたらムカつく
「何でよ!?貴方、謝る気あんの?」
「ないよ。でもさ、叔母さんも謝る気ないでしょ?
それを許してやるって言ってますし、そっちも許せよ。手を出した方が負けなら、もう私は負けでいいし、なんだったら、もう許さなくていいですから~...
お母さん泣かせたことは謝れ」
「.....千秋....」
私の後ろで泣いている母は、よく頑張った。
もういいよ、お母さんは悪くないよ。ありがとう。
何か、もう不思議だね。絶対に好きになれないタイプで、歪み会う存在だったのに、なんか今は素直に母と呼べる。
「叔母さんにも、何か事情はあるんでしょう。それは後で聞いて、私の方が悪かったら謝りますから、今は母に謝ってください」
「ちょっ...な!?...やめてよ!」
私は、叔母の頭を付かんで下に向けさせる。葬式でこんな事したらバチ当たりだし、完璧に厄とか付くだろう。それでもいいから、今はコイツに土下座させたい。
「そこまでだ千秋。もうやめろ」
若干暴走しかけた私に抑制の声がかけられ、誰だろうと思ったら父だった。
「もういい、やめろ」
そう言われて手を離す。
冷静になって、辺りを見回すと色々見えてきた。
呆然とする人、驚愕する人、怖がる人、涙を浮かべている母、若干笑ってる父、怒りで真っ赤になっている叔母。
「娘が迷惑をかけてすまなかった」
「ま、まったくだ!!一体どんな教育をしているんだ!?」
父が頭を下げると一人の男性が、すごい剣幕で怒ってきたが、営業で百戦錬磨の父が怯えることはなかった。
「では、何故このような状況に陥ったのかわかりますか?客観的に見て、貴方から見て、皆さんから見て、どうでしたか?自分は何も悪くありませんでしたか?この家の為というのは免罪になりますか?」
父の言葉に誰も何も言えない。
何故ならば、全ては暗黙のルールだったから。誰かが指摘すれば、無くなるルールだから。だから、誰も何も言えない、言わない。
「これ以上、娘や妻に『よろしくない』言葉をかけないでください。
本当に、お願いします。
大人として、子供にそんな言葉を言わないでください。貴方達のやってることは良いことだと、そんな誤った知識を....植え付けないでくれ」
最後に父は頭を下げた。
次で終わりになります。




