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第95話 届いていなかった

和人視点です。

「ムカつく」


千秋はそういって胡桃を叩い…ってぇぇぇええ!??何しとるねん千秋!


「……!何するの、いきなり……」


バッシィィンン!!!


反論しようと詰め寄った胡桃の頬を千秋はまた勢いよく叩いた。……何しとるねん


「つーか、私の名字は天崎だ」


えぇ!?コイツの名字って神崎やなかった?

アレ?天崎?えっと、確か……前の名字が神崎で今は天崎で

面倒やから適当にしてるとかいってたな…


「もう!神埼さん、ほんとうに……」


バッシィィンン!!


再び千秋につめより、襟をもって必死で反論しようとする胡桃に遠慮なくビンタをかましとる。


「もお!!私だってやり返すよ…」


バシッ!!バッシィィンン!!


涙目になり、ようやく反撃しようとする胡桃の手を振り払い思いっきり頬を手で叩く。頬は真っ赤に晴れ上がり物凄く痛そうや。


多少歪んでいたといってもそこそこ長く傍にいて、友好を深めていたにも関わらず千秋はそんなの気にしないかのようにただビンタしていた。


「もう!神埼さんやめて!……痛っ…」


何のためらいも遠慮も躊躇もせずにただ一つの感情に付き起こされたかのように動いている。まるで……


その感情は誰しもがあるもので、あるのが当たり前で誰もが抱いている普通の感情の筈……せやけど、千秋にはこれまで無かったもの。


あったとしても色々な理由をつけて放棄したり、それを特に表に出そうとはせず、一定以上はあふれ出そうとさせなかったものであり……


決して胡桃には向けなかった物


それはきっとままならない物に向ける抗いの感情…いや、激情やな……


「怒ってるんか?……千秋」


声に出しては見るものの、小さくて聞こえない。仮に聞こえたとしてもこの二人はそれどころじゃないやろう。


千秋は相変わらず無表情やけど、若干眉をひそめ苛立っているのが分かる。


バッシィィンン!!


何度目かの叩く音がした。叩く音は変わらず大きくて、それが千秋の感情を表すんやろう。


「ヒック……うぅ!…グスン!…も、文句があるなら言ってよ……



千秋ちゃん」


無意識からだろうか、胡桃は[神崎さん]から[千秋ちゃん]呼びに変わった。大きい目からはまるで真珠のような大粒の涙がポロポロと落ちている。


普段は余り感情をストレートに出さない千秋の怒りが怖いのだろう。決して自分には向けなかった感情が胡桃には重くて苦しいのだろう。


いや、それだけやない。それだけやったら俺に助けを求めるなり出来るはずや。


必死で視線を合わせる胡桃へ千秋は口を開いた。


「知られたくなかった恥を勝手に調べられた。意味の分からない事をしだした。長年の苦労を壊そうとした。しかも鳳くんを利用した。勝手に絶交された。何も言ってくれないから何に怒ってるのか分からない。会長のことも分からない。誰も教えてくれない。そもそも何で胡桃と友達やってんのかわからない。何もかも不愉快で……


ムカつく」


最終的にその一言に収められた。ぶつぶつと文句をいい、まだ言い足りないかのような表情。


千秋は悩んでなんかおらへんかった。喋りが若干可笑しかったり、口数がすくなかったのは怒りで頭が一杯やったから。


悩んでいるフリをしてたんは自己防衛というより、そんな行動をせーへんかったら今にも抑えきることなんて出来へんと悟ったから。


会長選挙も差別撤廃も実はどうでもよくて……ただ単に勝手な行動をして勝手に絶交してきた胡桃に文句を言いたかっただけ。


結局……胡桃の思いなんて千秋にはどうでもよかった。というか伝わってさえおらんかった。


千秋にとっては悩ます価値もなく、ただ苛立ちの対象であり、怒りのままに行動しただけやった。


「やっぱりなあ……」


なんとなく、俺はわかってた。というより辻褄があった気分や……物語のネタはとても呆気なくて…単純なものやった。


千秋には胡桃の真意も言葉も思いも愛情も思惑も……何一つ届いてなかった。ただ…それだけや。


それに気付いたであろう胡桃は、真っ赤になった頬を手で押さえながら、目から大量に涙を流し……


「うぅぅう……!うわぁぁあああんん!!!あ゜ぁ゜ん!ふぇぇえんん!」


大きく大きく、天に届くかのように大泣きした。


その姿は背中に翼が生えた天使でもなければ、ましてや尻尾の生えた悪魔でもあらへん。


泣きまくって泣きまくって、途中から何で泣いているんかが分からへんようになって、また千秋をみて理由を思い出して泣きまくる。


ラスボスなんて……最初っからどこにも存在せえへんかった。


いるのはただ友達に嫌われることが怖くて仕方が無い……普通の女の子や。


それでも少女は顔を上げ、涙を必死で拭きながら訴えかける。


「うぅ!……だって!千秋ちゃん何も言わなかったじゃん!…何があったのか言わないままで……私ばっかり千秋ちゃんが好きで…どうせ千秋ちゃんは…ヒック…頼ってくれなくて…グズン…


頼ってよ!!千秋ちゃんは私を嫌いかもしれないけど私は千秋ちゃんが大好きなの!!!何でも背負いこまないでよ!今みたいに言ってよ!!


わかってよ!!分かってよ!届いてよ!」


届け、届けと胡桃は思いのたけを今度こそぶつける。涙を流し、途中で言語が怪しくなっても言葉を吐き出す。


そして、それを見たであろう聞いたであろう千秋は……


最早怒りの化身となった千秋はゆっくり…ゆっくりと……声をだした








「胡桃ちゃん...ありがとう」

出した思いはちゃんと届いた。


最初っから話し合えば簡単に解決した問題なんでしょうね。

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