第94話 ムカつく
和人視点
「お疲れさん、千秋の完全勝利やで」
舞台から帰ってきた千秋に賞賛の言葉を送る。いやはや、あんな暴言を成り立たせるやなんて末恐ろしいもんやわ。
『そんなことどうでもいいから、取り合えず胡桃のとこ行こうか』
しかし、千秋はそんな賞賛の言葉もどうでもいいとばかりに無視し、胡桃の場所へと行こうとする。また敬語忘れとるで。
「これやったら鳳も報われへんな~あんなに頑張ってたんに……」
せやのに、鳳は眼中に無いかのようなあつかいだ。結構仲が良かったと思っていたのに。
『だからだよ(ボソ』
「何か言うたか?」
『別に…』
千秋はヘラりとした笑みを崩さぬままにそういい、歩きだした。俺もつられて歩き出す。
千秋の表情を見るが、真意は分からない。一体千秋はいまどんな気持ちなんやろか……
悩んでいるんやろか、苦しんでいるんやろか?
「千秋、大丈夫か?」
『大丈夫ですよ』
いつものように笑って答える。
千秋はアレで結構ちゃんと胡桃と友達しとったからそれなりにショックやったんやと思う。
千秋は実は胡桃を好きであり、されるがままになる位には…敵に回ってショックなぐらいには友達やった筈や。
『つきましたよ』
そこまで考えているうちに、応接室の扉の前についた。千秋はやはり何時ものヘラりとした笑みで扉をあけた。
「来ると思ってたよ~神崎さん」
天使のような笑みを浮かべながら、胡桃は出迎えた。千秋のことを神埼さんと呼んでいる。
天使のようでありながら、どこか悪魔っぽくて……とにかく神秘的やった。小さいときから汚れ無き綺麗さや。
「凄かったね~見てたよ~流石神埼さんだね~、皆を黙らせちゃってさ~」
クスクスとまるで音遊びをしているような綺麗な声で胡桃はそういう。少量の毒を忍ばせた声は何かを蝕むような錯覚だ出してくる。
しかし、千秋は無表情のままである。ニコリともヘラりともせずにただただ表情を無くしたかのように無表情であった。
中に入った瞬間にこうなっとった。
「だって神埼さんだもんねぇ?何でも出来ちゃうんだもんね?私を頼りにしないくらいだもん」
嫌味を交えており、少量の毒は大量の毒になる。胡桃はニコやかだがどこか怖い。
胡桃が千秋をどれだけ好きなのかは分かっとる。千秋の傍にも胡桃の傍にもおったから痛いくらいに分かる。
「そんな言い方ないんちゃうん?もうやめたれや」
「お兄様も何も教えてくれなかったよね、酷いよね邪魔するなんて……私と神埼さんは親友だったのに」
悲しげに、残念そうに胡桃は喋る。[親友だった]それは今は親友ではないと絶交の意をさす。
本当に胡桃は全部を壊そうとしているのだろうか?差別制度撤廃は出来なかった、けれど千秋との関係は絶つ。いや、できなかったこそ千秋との関係を壊す。
千秋への歪んだ愛がそうさせるんやろう。
「ねえ神埼さん、何か言ってよぉ……」
痺れを切らしたのか、胡桃は千秋に話しかける。しかし千秋は何も言わず、無表情だ。
まるで人形のように無表情で無言で、無機物のように無やった。こんな千秋は見たことあらへんかった。
いつもはヘラりと笑っているか、どこか悲しげだったり苦笑だったりと表情があった。それがまるっきりない。
「千秋?…どないしたん?」
『………』
俺も気になって話しかけるがやはり反応はない。まるで人間っぽくない程に無表情で等身大のリアルな人形だとでも言えば納得できそうな程や。
せやけど俺は何故か、今まで見てきた千秋の中で一番……
人間らしかった
「神埼さん~無視は酷……」
バッシィィィンン!!!
詰め寄ってきた胡桃を千秋はゆっくりと見つめたかと思うと、思いっきり頬を叩いた。
音からでもお分かり頂けるぐらいの結構な力で、多分本気でぶん叩いた。
勢いが良過ぎたのか、胡桃は倒れこんでしまう。未だに何が起こったのかが理解できてないようやった。
そんな胡桃を千秋は見下ろし、シンプルでとても単純な……けれど全ての気持ちを表した言葉を吐いた。
「ムカつく
つーか、私の名字は天崎だバカ」
千秋は案外子供っぽくて幼稚です(^o^;)




