第93話 暴論の完全勝利
[『どーも、千秋でーす』]
目元でピースをし、その不似合いさが作られていた空気に異物となって与えた。
空気は完全に鳳側であり、千秋が出るのは完全に場違いであるのだが、千秋はヘラりとしてそんな様子を出さない。
[『随分と好き勝手いってるね、まるでどこかの関西弁を思い出す。不愉快だからやめてくれ』]
[「負け惜しみですか?そうですよね、もう負けも同然ですから」]
千秋の言葉に鳳はそう言って返す。千秋はまだヘラりと笑っている。
[『差別制度の撤廃か……ぶっちゃけ私はそれについてはどうでもいい』]
千秋のいきなりの発言に周りは驚いた。
[『空気に踊らされた哀れな生徒がどうなるかだなんてどうでもいい。……どうせ、そんな事があっても大体は上手くいく人だっている。
意外と相性のいい人と友情を深めれるだろう。
意外と気の合う人と愛情を育まれるでしょう。
元々上流階級だの中流階級だのは、生徒ではなく親なのだから。子供は関係ない。鳳くんのいうように平等とはとても良いことで素晴らしいんでしょう』]
そこで一旦、マイクを下におろし、また喋りだした。
[『でも、そんなの出来ない人間は必ず存在する。嫌でも目立つ人間は批判や勝手な羨望に晒されて友人が出来ない人もいる。
皆で仲良し空気に入れない人間は消えてなくなる。それは素晴らしいのか?』]
周りはシーンとなる。何故ならば集団社会である以上、その経験は少なからずあるからだ。
[「だから頑張ろうと言っているんです!!環境や空気のせいにするなんて逃げているだけなんです」]
[『逃げない事は素晴らしいだろう。逃げては駄目なことだってあるだろう。結局、駄目なのは自分自身で空気や環境もただの言い訳に過ぎない。
差別制度撤廃もね』]
[「どこが逃げだと言うんですか!!両者の隔たりをなくし、差別制度の撤廃を…」]
[『そこが逃げなんだよ。差別制度なんてただ逃げているだけだ。それを理由に逃げているんだよ。
本気で関わりたいと思うなら……そんなのどうでもいいだろ』]
千秋は言い切った。そんなのどうでもいいと、そんなのは言い訳でしかないとそういった。
本気で仲良くしたい子がいるなら話しかければいい。好きな子がいるなら外で会えばいい。
差別制度なんてのはただの理由であり、逃げているだけなんだと。
[『そしてこれは差別じゃない、区別なんだ。元から差なんてない。ただ親が偉いか偉くないか。自分が世間に
自慢できるか否かです。決して自分は素晴らしくない
そこで退屈にしている貴方も、敵視して睨んでいる貴女も、空気に踊らされている貴女もです』]
一人一人指さし、自分が昨日まで自分が素晴らしいと勘違いしている生徒たちに対して、何の躊躇いも一切の躊躇もなく……
完全に、真っ向から否定した。
[『そして鳳くん、貴方も同じです。幾ら紳士だろうが、見た目が綺麗だろうが、頭がよかろうが、ハーフだろうが、金持ちだろうが、先輩の悪徳手法を真似ようが、カリスマ性に溢れようが……
醜くて愚豚で哀れで身勝手でエゴの塊で自分勝手で嫉妬深くて無関心で怖がりで嘘つきでかっこつけで素晴らしくもなければ特別でもない、数えて言い出したらキリが無い人間と同じです。皆さんも大差ない。
私の言葉は以上です。これで終わります』]
言い終えた千秋は頭を下げ、舞台袖へと帰った。
彼女が言ったのは暴論であり、暴言であり……全てにおいて図星だった。
反論しようと思えば反論できる。穴だらけで隙があって、きっと揚げ足をとるのが得意な奴ならば矛盾や反論が出来ただろう……しかし
誰も、それをしなかった。何故ならば、図星をつかれた気分になり、考えれば考える程に答えが見つからないからだ。
さっきまで完全出来上がった雰囲気や空気をぶちこわされ、守ってくれるものがいない。答えを出してくれる人間もいない。
[「……私も、これで失礼します」]
鳳はどこか悲しくも満足したかのような表情をして頭をさげ、舞台から出て行った。
舞台袖で涙を流した少年がいることを誰も知らない。真っ向から思いを寄せた人に否定され、実は自分を眼中に入いれてなかったのが悔しく、悲しかった。
それほどまでに、神埼千秋は空気をぶち壊し、どうでもいいと投げ捨て、後はお前たちで何とかしろというかのように……
荒々しく、繊細に、緻密に、ガサツに、優雅に、汚く、矛盾に矛盾をかさねながらも誰からでもハッキリと分かる位……
完全に勝利した。
空気を支配したので勝利者です。
千秋のはただの暴論と矛盾ばかりの勝手な理屈しか言ってないです『』取れてないし。でも、誰も反論出来ない何かがあったり。
鳳については...また書きます。




