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 ◆テストプレイ1 シブヤ・ザ・ワールド

 時給九八○円。八時三○分から十七時三○分までの八時間勤務。月火木土の週四勤務だが、変則勤務あり。

 僕はそんな条件で、晴れて採用となった。仕事の指示はメールやチャットによるもので、僕はアルバイト仲間くらいとしか顔を合わせることはなくなった。カノーとも、面接以来会っていない。

「おはよ」

 隣の席から声が掛かる。僕は面接の時と同じ、部屋中央部に並ぶ机群の最後尾に居た。

「おはようございます。今日、バイトだったんですね」

「今日で五連勤最後だよ、早く帰って寝てーわ」

 短髪にして金髪の男が気だるげにあくびをした。僕はそれにつられて漏れるあくびを噛み殺す。

 来る前に買っておいたマウンテンデューの缶をデスクに置く。僕はチェアに体を沈め、一息ついた。開始の時間までまだ十分はある。

「今日、そっちはどこだっけ」

「僕は当分、『シブヤ』みたいです。ナカタさんは?」

「俺はソージ。『ソード・オブ・マジック』」

典型的な、王道系剣と魔法のファンタジーMMOだ。VRMMOという性質上、むしろそういったゲームのほうが人気や支持が高い。

 もちろん、シブヤの人気が低いわけではない。こっちはその実、非日常的にモンスターが出現し数多の建築物や地域がダンジョンと化しているTPSである。

 種族タイプのように、キャラメイクの際に選べるタイプが三つある。軍人タイプ、超能力者タイプ、そして凡人タイプ。それぞれ特色があり、どうやら僕は凡人タイプのようだった。

「うらやましいな。僕、ドラクエとか好きなですよ」

「何回も聞いたぞ、その話。俺はむしろFPSの方が好きだったけど、まあこっちもかなりイイぜ。なんていうかな、青少年の夢や希望を詰め込んだ感じがするわ」

「僕は中でも七が好きなんですよ。世間の評判がどうだろうと、僕は好きなモノは好きだと言いたい」

「聞いたって。そういや、そっちの人口比ってどんなもんなんだ? ソージはβのプレイヤー入れて二百人はいるけど」

「げっ、マジでそんなに人いるんすか。こっちなんか五十人がいいとこですよ」

「いや、βテストなんだから少ない方だろ。普通は五百、千だ。しかも実質的なデバッグは終わってるから、俺たちもテスターの一人としての作業になる。まあ、アレだな」

 ナカタが言った。

 既におおまかなデバッグは終了している。あとはおさらいのようにこれまで問題のなかったシステム面をツールで確認し、込み入った条件で人の手でなければ難しい場所を、僕らが再確認する。

 つまり、シブヤもソージも、MMOとしては大きな欠陥も問題もない状態にまで完成しているということになる。既にオープンβ……誰でも参加できるようになっている。

 それで、参加人数五十人。

 僕らのようなデバッカーからの引き継ぎでテストをしているのも含めれば、何割くらいが純粋な参加者だろうか。

「ま、正式サービス開始すれば増えるだろ。どのみち、今の御時世VR装置でも十万近くするだろ」

「ああ……それもそうですね。こんなしっかりした設備で忘れてましたけど」

「どのみち、主流になってくだろうジャンルだ。何十万人って稼働の準備はあっても、想定はしてないだろうよ」

 そんな雑談もそこそこに、仕事の時間だと告げるように、モニタにポップアップが出現する。可愛らしいメイド服姿の少女がデフォルメされている。そんな彼女が、「お仕事の時間ですよ」と告げているページだった。

「さて、お仕事だとよ」

「まずは三時間。昼は、外のイタリアンどうです」

「イタリアンったって、サイゼじゃねえかよ」

「いいじゃないですか、サイゼでも」

 言いながら、僕たちは大げさなVR装置に身を沈めた。

 そうして旅立つのだ。この錆びた現実世界から、鮮やかに輝く仮想現実へ。


 僕は、日常になりつつある世界での仕事をこなしていく。

 アイテム使用によるデバックはもう無いし、アクションについても特にこれといった問題はない。

 ただ、その日は一つだけ特別な指示があった。

『そのダンジョンの奥に、実装予定のアイテムを置いておいた。攻略ついでに、そのデバックを試してくれ』

 珍しくカノーから連絡があったと思えば、そういう仕事の指示だった。

「僕でいいんですか? 新人の中の新人ですよ」

『新人だから押し付けられるんじゃないか』

「しかも種族タイプは決まってるのに、初期ステータスからじゃないですか。ダンジョン攻略も一苦労ですよ」

 文句を垂れる僕に、カノーは苦笑しながら一撃で屠る口撃をする。

『成長と攻略はゲームの醍醐味じゃないか』

 それもそうだ、と頷いて早速仕事にとりかかる。

 ちなみに、僕以外がダンジョンを攻略し先にアイテムを入手しても問題はないようだ。それは仕方がないとして、僕はひとまず手に入れて、不具合がないか確かめるだけ。

 なんとも適当ではないか、と思う。先に手にした人にバグが発生したら申し訳ない。

 ダンジョン『道玄坂』は、109と大きくロゴが掲げられる共同ビルを正面に据えて開始する。

 現在の僕と言えば、レベルは十二と平凡なもので、装備も右手に血塗れのドス、左手は素手。体はユニクロの服。いかにもな凡人タイプで、リアルでの身体能力を何かに例えるとすれば、体育祭で活躍できる男子中学生といったところだろうか。

 道玄坂は、基本的に薄い霧に包まれ閑散としている。執拗なまでに常時ネオンが輝き、道を示しているのがありがたいところだ。

 決して新緑が萌える事のないビルの左側を歩きながら、いつ出現するかもわからない敵に備える。

 敵は、人間がブリッジしたような形の化物だった。僕たちはエクソシストと名づけているが、正式名称は『ブリンガー』だそうだ。薬物か異常遺伝子だかなんだかによる影響で異形化した元人間とかいうのが設定だが、正直気持ちが悪いので覚えていない。

 個室ビデオ店の大きな看板に目を奪われながら、右手側にある小路を進む。この先は居酒屋と風俗店が乱立するエリアだ。その手前に、レンガ仕立ての建築物がある。

 ここが、今のところ賑わっている狩場だった。ここによくブリンガーが出現する。

「うっ……」

 お出ましだ、とおもった。

 あいにく、朝のこの時間、ただでさえ過疎ってるネトゲでは初心者の狩場にさえ人が居ない。そこにブリッジしてる人間のような形の黒い塊がうごめいてるのを見ると、吐き気をもよおすどころの話じゃない。

 僕は短く息を吐いて腹を据える。いやはや、スライム程度の実力でも、スライム程度に苦戦する勇者の気持ちがよく分かる。

 異形、そして未知の化物が等身大で目の前に現れるというのは怖い。

 野生動物でも同じことだ。

 敵の警戒範囲内に入り込む。ブン、と羽音のような反応音が響き、五体ほどのブリンガーが一斉にこっちを向いた。おいこっちを見るな、パニック系のホラーゲームかこれは。

 顔が逆さなわけじゃないから、こっちを向いた顔はしっかりとこっちを見ている。紅玉というよりは赤いビー玉のような目が黒い顔面に無数に埋め込まれていて、細い錐状の歯が剥き出しになりカチカチと音を鳴らして合わさっている。

 わさわさという音がよく似合う挙動で、四肢を駆ってこちらへ走ってくる。

 僕は挙動によりセットできる短縮キーを叩き込む。腰を落とし、ドスを構える右腕を軽く引く――その動作で、スキル『カンツォーネ』が発動。

 短刀用スキルで、予備動作が○・五秒。

 僕の右腕は自動的に前方へ突き出され、血塗れのドスが真紅に輝く斬撃を穿つ。

 ドスの切っ先から数メートル分だけ斬撃が軌跡を描く。その軌道上に居たブリンガーが、赤い輝きに貫かれた。

 ぶしゅん、と重い破裂音が反響して、二体のブリンガーの動きが止まる。ついでに僕は三秒ほどそれを眺めてから、ゆっくり体勢を整えた。

 貫かれたブリンガーは緩慢な動作で、体の肉という肉をズブズブと崩壊させていく。

 初心者でも簡単に手に入る高火力のスキルは、それ故にリスクが大きい。だから雑魚専用と言われるものだった。

 残るブリンガーは三体。距離を確かめ、僕は直線上に居る敵を同じように斃した。

 距離や配置的に見て、最後の一体は既に攻撃射程内に入り込んでいた。三秒間の硬直の間に、攻撃が来る。

 腕が下から放り投げられるように伸びる。ゴムのように勢い良く弾け、僕の喉を掴みあげる。ブリンガーは力任せに僕の喉笛を抉り取った。

 パチリ、と静電気のような衝撃。それでも攻撃動作故に、精神的なダメージが大きい。

 僕は大きく一歩踏み込んで、縦にブリンガーの頭を叩き割る。割れた頭はゆっくりと再生するが、立て続けに放つ逆袈裟、袈裟斬りの連撃がブリンガーの体力ゲージをゴリゴリ削る。そうして、たった三撃ばかりでブリンガーは屠られた。

 他と同様に、肉体を崩壊させて跡形もなく消えていく。

 これが現実ならば、汚臭や残骸などで酷い有様なのだろうが、僕の見る現実にはなにも残らなかった。

 ドロップアイテムは、『ひしゃげた骨』と『異質な肉』が二つずつだ。

どちらもゴミみたいなアイテムだが、異質な肉は調理により料理として精製できる。それでも、体力を五パーセントだけ回復させる『男の肉料理』なのだが。

 敵を殲滅した僕は、そのまま先に進む。一度大通りに出て、正面にある小路に再び入る。

 その後も、何体かのブリンガーが出現するが、僕は持ち前のカンツォーネで効率よく倒していく。敵の強さに問題はない。だってブリンガー自体は、僕のレベルでは少し不満なくらいの強さだから。

 小路の先は行き止まりになっている。しかし壁よりやや手前の地面に、四角い仕切りがあった。わずかに浮かび上がっていて、どうにかすれば開きそうだ。

 僕は血塗れのドスを隙間に差し込んで、テコの原理で少しだけ浮かびあげる。ここは蓋になっているのだ。

 僕はそのまま作業を続けると、二、三秒で蓋は完全に開いた。マンホールのようなそれを横にずらして、暗い中を覗き込む。壁にハシゴが設置されていて、中に入れるようだ。

 ダンジョンの最奥は、この先だ。

靴底がハシゴを踏むカンカンという金属音が、あまりにも静かな空間に響き渡る。ハシゴを降りる時は、歩く時と同じようにしっかりと体が下に落ちていく感覚がある。何かに触れたり、攻撃をされた時だけが、ふんわりとしたやわらかなものだった。

 ハシゴが無くなって、靴底が床に触れる。僕はゆっくりと下に降り立ち直ると、辺りがぼんやりと明るくなった。手を伸ばせばちょうど指先が見えなくなる程度の明るさだ。ランタンや松明などのアイテムがあれば、これが外と同じ程度の明るさになる。僕は持っていない。

 だけれど、僕にはそれで十分だ。

 アイテムボックスの中から、方位磁石のようなアイコンの『サクセスレーダー』を使用。瞬間、常時右上の方に表示されているマップが、一秒ごとに青く明滅する。明滅するごとに白い先でダンジョンの構造と、散りばめられている白と、赤の光点がそれぞれ示される。

 僕は二、三度ほどで構造を確認する。既に何回も来ているところだから、把握しているのだ。

 地下鉄の関係者用の通路のような場所は、入り組んでいるようで単純な構造だ。ひたすら、分かれ道を右、左、右の順で進めばいい。そうすれば、奥へつながる。

「ひぃいっ、だ、誰かぁぁ~」

 地下の構造を確認したその時だった。ひどく気の抜けるような、甲高い悲鳴が奥から響いてきたのは。

「先駆者か」

 先に居る者たちがみな勇ましいとは限らない。僕は嘆息しながら先へ進む。白の光点が、他プレイヤーを示す印だった。

 声の主が居るのは、曲がり角をまがってすぐの所。ちょうどモンスターを示す赤の光点も前後に二体ずつあった。

 低いレベルで強引に進めばここまで来れるだろう。だがそれ故に、囲まれれば死ぬ。そんな場所だ。もっとも、どこでもそんな場所はあるけれど。

 急ぎ足で道を曲がると、途端に空間に光が広がる。真昼間のように、地下が明るくなっていた。

 そして目の前には蠢くブリンガーの姿。その向こう側に、何かに群がるブリンガーの姿。おぞましい、と僕はつぶやいた。

 虚空に表示されている体力ゲージが、徐々に削られていく。ゴスゴスと音を立てて、そのたびにゲージが減っていく。

「た、助けてっ」

 女の声が叫んだ。その声を聞きながら、アイテムボックスから『ミニッツ・マインド』を使用。これは一定時間、スキル、アイテム発動前後の硬直時間を十分の一に変える。

 僕はやれやれ、なんて格好つけた動きで血塗れのドスを構える。スキル・カンツォーネを発動。

 僕の腕は瞬間的にドスと同化し、刹那にして虚空をぶちぬく。真紅の閃光がプレイヤーに襲いかかっていたブリンガー二体を真後ろから貫いた。

 ズブズブと崩れていくブリンガーを眺めながら、僕は走りだす。

 すぐに、へたりこんでいるプレイヤーに馬乗りになるブリンガーが見えた。僕は敵が重なる位置を背後からとり、カンツォーネを発動させる。

 ほとんどビーム攻撃のような感じで、残る二体も瞬殺された。悲鳴を上げたプレイヤーに肉塊が落ちていくけれど、それによる特別な演出や肌触りなどは無い。

「うぐう……」

 そういう唸り声を上げて、彼女は少ししてから立ち上がった。

「大丈夫ですか」

 大丈夫ではないだろうが、ひとまずそう訊く。多分大丈夫です、と答えるはずだ。

「大丈夫だったら、助けなんか呼ばないですよぅ」

 素直な女だ、と僕は思った。そして無謀でもある。

「まあ、とりあえず急がないと、またブリンガー出てくるから。すぐに出口に向かったほうがいいよ。外に出れば逃げ場多いし」

 お疲れ様、と言おうとした時、彼女の手は僕をしっかりと掴んでいた。

 シャツに、黒のプリーツスカート、黒タイツといった軽装の少女らしい格好をした少女だった。

 もっとも、体力ゲージの減少による演出のため、所々衣服が引き裂け、生々しい傷口が見える痛ましい姿だったが。

 黒髪を後ろで一つに縛り、琥珀の瞳を持つ少女。体力ゲージの上には、『tamiya』

とプレイヤーネームが表示されている。

「何ですか、タミヤさん」

「今のこの時間、道玄坂って人コないんですよ」

「知ってるよ。お疲れ様」

「いやいやいや、ここで会ったが百年目ってやつじゃないですか」

「意味が違うよ、恨みがましさを感じるね」

「エンじゃないですか」

「現金なもんだね」

 いい加減離してくれる様子がないから、僕は仕方がなく『処方された回復薬』を使用する。これは通常の『回復薬』に比べ、体力ゲージの回復速度と量が二倍に上がっている。

 瓶が手の中に出現し、蓋をあける。内容液を、ドラマでもなかなか無いくらい勢い良くタミヤの顔にぶっかけた。だが液体は触れる前に大気中に霧散し、タミヤの体を包んでいく。彼女の周囲に螺旋を描いていく光景は、湿っぽくかび臭い地下には無いくらい幻想的だった。

 その霧が、またたくまに彼女の体に刻まれる傷を癒していく。同時に、ボロ布をまともな衣服に戻していった。

「あ、ありがとうございます」

 タミヤは戸惑うように頭を下げる。

「気にしないで。ヨコシマな気持ちが無かったわけじゃないから」

 大概、僕も素直なものだと思う。日頃のストレスを緩和するには、何事も素直なことが必要だ。素直すぎて、必要のないところで怒られることがあったとしても。

「よくわからないですが、助かりました。お礼に、奥までご一緒します」

「気にしないで」

「いやいや、そもそも援護が得意なんですからね。わたし。むしろ援護しか出来ないものと思って頂いて結構です」

 彼女は必死に取り繕うようにわたわたと手を動かして、やがて最初から口にすべきことを思い出したように、大きく深呼吸をして落ち着いた。胸を張って、彼女は告げる。

「わたし、超能力者タイプなんですから」

「そうなんだ」

 淡白な返事だけれど、僕はその言葉の意図をしっかりと理解していた。

 だから、敵に囲まれて為す術もなかったのか。僕は納得する。

 超能力者タイプは、いわゆる魔法使いのようなものだ。非力だが、魔法が強い。魔法の発動に時間が掛かるから、距離が必要。さっきみたいに囲まれてしまえば術を出す前に殺される。

「ちなみに、レベルは?」

「わたしですか? って他に誰も居ないですよね。わたしは、三五ですよ」 

「ん?」 

「だから、三五です。レベル三五。INTとDEXに極振りしてたらこうなりました。うひ」

 僕は何も言えなかった。特に言うこともなかった。僕よりレベルの高いプレイヤーはごまんと居るだろうし、こういう育て方をしているプレイヤーも大勢いるだろう。僕もその一人だ。

 しかし、だからといってレベル三五になるまで育てておいて、ブリンガー相手に死にかけるような戦い方しか出来ないプレイヤーが居るとは。

 だから僕は、少しだけ惹かれたのだと思う。ゲーム内だから可愛いのは当然として、彼女には愛嬌があった。心からゲームを楽しんでいる雰囲気があった。

 効率のよいステータス割りに、効率の悪い攻略方法。僕と相容れないプレイだが、だからこそ彼女とはゲームが楽しめそうだと思った。

「つーか、それならこれから一人でも攻略できるんじゃないの。敵との距離を気をつければいいくらいだし。ブリンガーは遠距離攻撃ないし」

「寂しいじゃないですか」

 タミヤは後ろ手を組んで言う。

「一人でここまで来れたのに何言ってんの」

 僕は腰に手をやった。ここまで来て寂しいも何もないだろう。誰かとプレイしたいなら、もっと人口比率の高いサーバーで遊べばいい。もっとも、このゲームではなくなるけれど。

「みんな死んじゃったんですよ。あっという間に。というかですね、わたしは逃げてる途中だったりして」

「平均レベル五の弱小パーティかなにか?」

「まあそんな感じ。レベル上げ手伝ってって言われたんですけどね、まさかのボス部屋で全滅未遂ですよ」

「ボス部屋?」

 僕は思わず口にした。

 以前来たときは、このダンジョンにボスなどは居なかったはずだ。

 そもそも、開放されてるダンジョンが少ない割にフィールドが広い。それ故に、ボスが限りなく少ない。

 僕でさえ、シブヤ駅構内二階のボスを斃したくらいの経験しかない。

「そう。新しく導入されてるみたいで、そこそこ強いんです」

 彼女は、こういう形です、と両手を上に上げる。可愛いなあ、というのもあったが、それよりもなんだか想像がついて辟易した。

「ブリンガー亜種って感じで」

「名前はなんて?」

「ブリンガー(亜)ってありましたよ」

 亜種じゃん。感じじゃなくて確定じゃん。

 僕、嫌いなんだよなあ、正直。生理的に受け付けない感じがする。リアルな質感よりも、どこか古臭いプレステ初期のホラーゲームの方が怖いっていうような感じだ。

「……まあ、行こうか。一緒に」

「ですよね。行きましょうっ」

 彼女は元気に大手を振って歩き出した。僕はゆっくりとその後に続く。

 僕が初めてパーティを組む相手となったタミヤとの出会いは、そんな感じだった。

 タミヤは突き抜けて明るく、人懐っこく、一緒にいて楽しい女の子だった。 

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