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ver0.02―『eh166年のこと』

「うっひゃああああああああああああぁぁぁぁ!?」


 悲鳴があがったのは概算二百メートルくらいであろう、殺伐な戦場と無縁といかないまでも安全圏に含まれる物見櫓(やぐら)の頂上。そこから生死を賭けた競り合いが続いている戦場に目を向けていた彼は、すぐ傍にいた少年に目を向けた。


「何してんのん?」


 呆れているのかそうでないのか感情が含まれてない彼の声。さきほどまで同じ声を使って移り行く戦場の情勢を語っていて、聞き手となっていたはずの少年は頭を押さえてうずくまっていた。その声を聞いて少年は頭を上げながら立ち上がるが、あくまで恐る恐るだ。


「い、い、今のって大砲ですか!?」


 灰色の髪をした少年は櫓のふちをつかみながら立ち上がりながら、腰を抜かす原因となった轟音と爆風の正体を訪ねた。目を白黒させている様はまだ幼いと言える顔が余計、実年齢より少年を子供っぽくしている。


「この《世界》に大砲は存在しない。というより火薬(パウダー)がほぼ存在しない。試験期間(テストデバッグ)である今のところでわかっている範囲で、だけどな」


 応える青年は涼しげに灰眼を細める。瞳とおそろいの灰色の髪を撫でた爆風が、まるで草原の爽風であるかのような態度だ。


「今のは魔法兵による広範囲爆撃(エリアレイド)だな」

「この『世界(ゲーム)』の魔法ってこんなに恐ろしいんですか!?」

「そんなこたぁない。むしろショボイんじゃないか。ただ、こっちの『世界』だと魔法は同時詠唱による集団運営が基本だから、一回による魔法の規模は大きい。だが、大砲というのは言いえて妙だな。待機時間(リロード)がけっこうあるから連発出来なくて小回り利かないから、まさにこの世界での大砲だな」


 眼下では未だ熾烈な(いくさ)が群青の『軍国アスター』と緋色の『無花果共和国』に別れて行われている。千、二千では足りないだろうその数は緑に覆われた《手弱女ヶ原》を埋め尽くして、一進一退でありながらも互いの数は減っていた。

 見たままのことを言葉にするならばそれだけなのだろうが、「減っていく」などと軽々しくは表現できないだろう。実際に視認できるのは人数の減少ではなく大量の死人が産まれる決闘場。首が太刀で斬り飛ばされ、脳天に弓矢が突き刺さり、一対多で滅多刺しにされる。

 どう言い繕っても人が殺し殺される戦場だ。

 数が減るのではなく、人が死んでいる。

 しかし、それにしては色々なモノが足りていなかった。


「そんな驚くほどか? 花火や可塑性(プラスチック)爆弾とか荷電光粒子砲(フォトンレーザー)のほうが迫力あると思うがな」


 片手に筒のような望遠鏡、もう片手にはストローがささった水筒を青年は持っていた。まるでスポーツでも観戦しているような気楽さである。

 それは少年も同じだ。腰を抜かしかけて驚いてはいるものの、死が近くにある戦場を目の当たりにしているとはとても思えない声の柔らかさで口をとがらせた。


「花火は綺麗ですし、爆弾はこんなに煙は出てませんでしたし、荷電光粒子砲なんて見たことないですよ………」


 ありていに言ってしまえば緊張感が足らない。

 それはこの戦場にも言えることだ。

「うおおおおおおおお」「はぁああああああああ」

 叫び声や掛け声はあれども、悲鳴がない。真剣味はあれども、緊張感がない。

 歪な戦場。何よりもこの不可思議さを象徴しなおかつ納得させる事実があった。いや、無いと言うべきか。


「そこまで怖がるものか? 別に直撃したとしても『死ぬ』わけじゃあないのに」


〝死体〟が無いのだ。

 死を賭した戦場には当たり前の、首を斬り落とされた胴体や脳天貫かれた死体など敗残者のなれ果てがあるべきだ。なのに、西洋剣や円形盾などの武器は残っていても所持者の姿がどこにもないのだ。生者に蹴飛ばされたり脚をもつれさせて転ばせながらも、墓標のようにここで戦士が討ちとられたことを示していた。




 ――――この『世界』では死ねば仮想分子(ポリゴン)痛みの火(ダメージエフェクト)を撒き散らしながら消滅してしまう。

 ――――それがこのVRMMO世界(ゲーム)、【en passant online】だ。




 VRMMOの正式名称は「仮想現実型多人数同時参加型世界」――と長ったらしいものになるが要は「ゲームの中に入れるゲーム」であり、もう少し詳しくするなら「夢の中の世界(ヴァーチャルリアリティ)」である。

 人間とは五感――触覚・視覚・聴覚・味覚・嗅覚―――を耳や目などを使って世界を認識している。林檎を見れば赤く、触ればみずみずしく、噛じると甘酸っぱい。だが、実のところそれらを感じているのは目や舌ではなく〝脳髄〟であることはご存知だろうか。


 例えば眼球。眼球は物体が反射した光を角膜、レンズ体を通して網膜に映すためのいわば動画撮影機器(カメラ)である。異物が入れば涙を流して眼球(レンズ)を洗い、物体を明確にするためレンズ体を絞り焦点(フォーカス)を合わせる。光量が増減すれば瞳孔の大きさで明るさを調節するなど、撮影機能の全てを眼球が担っている。

 だがそれで撮影した映像を見てリンゴが赤いと認識するのは人間であり、脳である。過剰な光量によって網膜が焼けることがあっても、眼球はリンゴのみずみずしさを識別はしていない。眼球はあくまで脳に「情報」を送るだけ。眼球は網膜に映しこまれた光の量と波長を電気信号に変換して脳に送っているだけだ。


 その論の通りに〈脳死状態〉―――他器官が正常でも脳機能が不可逆的な停止におちいる状態―――になれば、眼球の機能が正常でも瞳孔は開ききって視覚機能の一切を喪失してしまう。

 逆に脳さえ動いていれば眼球がないとしても、電気信号化した映像を電極などで脳に流しこむことにより視覚野と呼ばれる脳の部位は映像を認識するのだ。脳的には情報が送られてくるのが生体の眼球だろうが無機物の動画撮影機器(カメラ)だろうが電気信号に変換さえしてしまえば問題ないのである。たとえ、それが現実にはない造られた林檎(えいぞう)であったとしてもだ。


 偽物の映像。虚構の手触り。別物の音。知らない味。想像の匂い。それら現実には無い造られた感覚を脳に直接流し込むことによりどこまでも現実的(リアル)な架空の世界を脳内で体感することができる。

 別段おかしなことではない。人は誰だって夜になれば見たことのない不思議の国に紛れ込む。重力のない自由な浮遊、具体性のない素晴らしい景色、知っているはずの誰か、知りもしない怪物、唐突な物語、繋がらない展開、違和感のない理不尽。

 ソレは記憶の整理であり、中身を楽しむつもりのない事務作業。わかりやすいようにジャンルを選りわけて付箋をはるための流し読みと流れ作業。それが混沌とした世界を無意識で無秩序に勝手に創り上がっているのだ。


 ではそこに精巧な本を混ぜてみたらどうなるだろうか。流し読みできないほど興味深く、作業が終えられないほど重い本。それを創り上げて没頭させてしまえばどうなるか。

それを実現させ誰しもがリアルな夢を見ることができるそれが―――

 ――――――『夢の中の世界(ヴァーチャルリアリティ)』。





「正確には夢とは違うんだけどな。蛙の足に電気流して動かすのを人間の脳でやっているのと同じといえば同じだ。詳しく説明すると難しいから夢という理解でいいけどな」

「先生、もう既に理解できてないんですけど……」




 VRMMOとはその仮想現実(でんきしんごう)を大型電子計算処理機(コンピューターサーバー)の中で構築・制御して個人個人がそこに接続する――専用機器を使うことで脳に擬似信号を転送して(ダウンロード)、脳が発する電気信号を読み取り(アップロード)する――ことで〝共有〟、つまり同じ夢を見ることを可能にした世界である。


 同じ空を見上げて同じ青さを感じて、その空の下でお互いを感じて会話して触れあうことができる。それは夢でありながら他者が存在していて、夢のように思い通り世界を変えることは出来ない。現実ともはや変わりのないもう一つの世界で、それでもやはり仮初めの空――――『仮空世界』である。

 だからこそ現実の世界では物理法則に阻まれて出来ない現象――魔法やら宇宙飛行や超兵器の類――を起こすことができるのだが、それはあくまでも良く出来た夢。夢で死のうが現実で眠っている体に傷がつくはずもなく心臓が鼓動を絶やしてしまう心配もない。そもそも夢なので都合よく痛みは緩和(ペインフェード)される上、仮空世界(オンラインゲーム)で死んだとしても自宅のベッドの上で目が覚めるだけである。


 とはいえ、死なないから恐怖を感じないかといえば別の話。

病院送り(ゴーベッド)しなくても怖いものは怖いですよ。痛覚緩和(ペイン・フェード)あっても痛いですし……」

「痛くなくても気持ち悪いのはぬぐえないからな。この前べつの世界(ゲーム)で浮遊二輪(ホヴァーバイク)に乗って爆走しながらよそ見したらいきなり目の前に木の枝が現れてな、上半身がひっかかって胴体がぶちぶちって――――」

「やめて聞いているだけで痛い! なんでそんな話を涼しげに出来るんですか!?」

「この位は普通だ。もっとすごいのはさらに別の世界で集団戦|(GvG)に巻き込まれた時があってな、流れ弾で徹甲榴弾が当たって体の内側から爆発した時はさすがに―――――」

「本気でやめてください! 普通の人は銃器でも魔法でもそういうの恐ろしいんですよ!」

「でもあっちの狙われた本人はぴんぴんしているみたいだけどな」

「嘘ぉ!?」


 少年が割り込むようにして青年のスコープでのぞいた先は、黒煙がまだ立ち込める戦場の一角。猪武者が全身鎧との一騎討ちに見事勝利した直後に魔法爆撃によって吹き飛ばされたそこに、彼女の姿はあった。

 煙の中から飛び出て来たはずが真紅の髪の輝きは全くかげりがなく、戦場においてはむしろ欠点ともいえるほどに目を引く。同世代と比べ確実に低いだろう背と幼さが残る容貌。それには似つかわしくない、背丈ほどもある十字槍。いくら夢(ゲーム)とはいえ彼女のような背格好の人間が戦場にいるのは珍しくかなり目立つ。一番に目立つ理由は十字槍でばっさばっさと元気に敵兵を虐殺しているからだが。


「すごっ………僕だったら欠片も残ってないくらいなのに」


 少年は自分とあまり歳が変わらない少女がせっせと死体を製造する光景を、驚いたような呆れたような表情で眺めている。


「というか、あれ、このゲームってまだ開始から一週間も経ってなかったような……それにしては【高位技能(スキル)】ばんばん使ってませんでした?」

「ああ、《第0回・国奪り合戦》ってことで一部の【スキル】が解禁されているんだな。ゲームを始めようか迷っている見学者もいるだろうから、派手な戦いを見せて取り込もうとしているんだろう」





【技能(スキル)】とは夢の中の世界(ヴァーチャルリアリティ)における特殊動作のこと。

 いくら〈夢の世界〉とはいえ出来ることは意外と制限されていて、一人で見る自由奔放な夢とはかなり違う。例えば料理を引き合いに出してみよう。夢を見ればレシピを知らなくても素晴らしい料理が苦もなく出来あがるが、現実では材料の切り方・煮込み時間・調味料の量と種類に入れる順番など様々な知識と技術が必要になる。仮想〈現実〉といわれるだけあってこの世界でも変わらないのだ。


 というより夢なんてものは基本思い通りにならないもので、見たい夢が見られないというのは誰しも覚えがあるだろう。

 そこで夢の中の世界の法則(システム)の一つである【技能スキル】だ。技能補助機能(スキルプログラム)によってあらかじめ規定された動作を使用者の体に強制させる―――つまり体が勝手に動かせられることで、料理のための魚の捌き方から達人のような武器の使い方などを、修得するまでもなく使いこなすことができるのだ。


 鎧で全身を包んだ大漢を少女が槍のみで倒す、なんて現実ではほぼ不可能な事態。

 だが、夢の中の世界(ヴァーチャルリアリティ)ではそれが可能となる。

 人体には不可能な動作・速度・技量・筋力に可視の衝撃波。それらをスキルプログラムによるアシストを受けることによることで、訓練次第では出来ない事など何もなくなる。


 現実の料理が趣味の少女は、仮空世界では店開き腕をふるう料理人に。

 現実で汗くせ働く年配の男は、仮空世界では人を酔わせる演奏家に。

 現実で家に引きこもる青年は、仮空世界では動物を育てる友生者に。

 現実で大人しい少女は、仮空世界では百戦錬磨の戦士に。

 もう一つの現実。これが仮空世界(ヴァーチャルリアリティ)





「でも人がけっこう入ってますよね、このゲーム。現在進行形で減ってますけど、それでもまだまだいっぱいです。血なまぐさいというか初心者お断りの雰囲気がしているのに」

「この世界(ゲーム)は国同士の戦(いくさ)、つまり多人数の対人戦|(PvP)がメインだから数ある『仮空世界内仮想世界(クライン)』の中でもかなりハードな部類だな。ちなみに戦場にいる兵士の半分以上、システムが操作している仮想擬人(NPC)だから言うほど人、入っていない」

「あの人達の半分も、ですか………!?」


 戦場を一望できる蚊帳の上から少年はそこにいる人々に視線をやった。

 今まさに雌雄を決し勝利をおさめた剣士、その勝者へ狙いをつけて矢をつがえる弓兵、傷ついた兵士をかばって盾を構える兵士、馬(のような生物)を操りその突破力で相手の戦線を崩す猛者。誰も彼もが命がけで戦っている戦場の徒たち。

その半分が命のない造り物だなんて、誰が信じられるだろうか。





 仮想擬人(NPC)とはいわば夢の世界の住人であり世界の一部。誰かが夢見ているわけでもない、世界が用意した中身のない登場人物。肉体を持たず知能を持たず、ただ設計(プログラム)された行動だけをする歯車。どれだけ人間に見えようとも中身に詰まっているのは機械仕掛け。時計と変わらない精巧な機械人形。





「それにしたってNPCがこんなに集まってるの見るのはじめてですけど、すごっ………。じゃあさっきの鎧と女の子も……?」

「あれは二人とも戦士(プレイヤ)だ。片や面倒見が良いと有名でもう片方は戦闘馬鹿と有名だ」

「じゃあ僕らみたいな人間(プレイヤ)はあんまいないんですか?」

「試験期間(テストデバッグ)だからまだいろいろ制限はあるが、気の早い連中はもう遊んでいるから三千人はもういるだろう。だが普通に冒険も出来る上に観光もできるから、正式稼働したら武将プレイしないような人間も遊びにくるから三万は堅いだろうな」

「………………じゃあ次はお姉ちゃん連れてきたいな、最近元気ないから」

「それもいいかもな。三人でおにぎりでも持ってピクニックするか。この平原で」

「え、小鳥のさえずりの代わりに戦士の断末魔が聞こえる中で食べるんですか……!?」


 平然と会話を交わしている間にも地上では数多の人間が命を散らし―――てはいないが「ぐわあっやられたー」「えーとこれどうすりゃいいんだ?」「おのれこの恨み覚えておれえええええ」などとのん気な阿鼻叫喚を上げている。成りきり遊び(RPG)として戦場の兵士としてちゃんと酒んでいる者もいればスポーツの延長線で緩く戦っていたりと様々だ。

 共通しているのは真剣具合を問わず皆、遊んでいるということ。死亡したとしてもすぐ復活して数分間だけ復活時間として戦闘に参加できないくらいであり、試験期間(テストデバッグ)では装備品がなくなる・罰金などの実質的な死亡失点(ペナルティ)らしい損はないので気軽なのだ。


 片目をつぶり望遠鏡で戦場―――というより試合場の方が適切かもしれない―――を観覧していた少年の視界に飛び込んできたあるモノを見て呆れとも感心ともつかない声を出した。


「しかし………それにしても超人すぎませんか、あの人」


 丸い視界の中央にいるのは真紅の少女―――猪武者だ。ハナナシ国の兵士たちがしている緋色よりもなお赤い髪は遠くからでもよく目立つ。髪の色や肌の色を着替える感覚で変えることができる仮空世界(ゲーム)とはいえ、戦場で目立つ姿をして自分から的になりたがる人間はなかなかいない。

 だがそれより目立つのは芋を洗うような戦場の中で彼女の周りだけぽかんと穴があいているからだ。さらに言うなら周りに人がいない。原因は考えるまでもないだろう。考えるまでもないのは彼女が現在進行形でばったばったと空白地帯を生み出すことにいそしんでいるからだ。

 当たり前だが遠くの観客に気付くことなく、遊んでいるというには真剣すぎる気迫で兵士たちを斬り殺しているのも目立っている理由だろう。


「アレ一人だけなんか世界観ちがいませんか? 勇者の血をひいてるとか体に機械を埋め込んでるとかそんな世界の人っぽく虐殺してるんですけど。ほら今もあっさり二人も脇役っぽくやられちゃって……こんなんじゃ戦いになってないような」

「この世界を遊びながら調べた人間によると戦士と雑兵―――有人(PC)と無人(NPC)の戦力差は3対1程度だそうだ。NPCは基本的に装備もスキルも低級のモノしか使えないらしく戦力差がはっきりする―――まあ聞いた話だが平均的な人間でそうだから一人が二人を軽々切り捨てるってのもできるだろう」

「NPCより鍛えたPCが強いのはどんな世界(ゲーム)でもありますけど。

 でも、ほら、いま明らかに戦士(PC)っぽいのが後ろから襲いかかったのに斬られちゃいましたよ。あ、さらに串刺しにされて残り星(スペクトル)になった。

 いくらなんでも差がありすぎでゲームにならないんじゃないですか? まあ、レベルが違いすぎれば傷すらつけられなくなるのもゲームのお約束といえばそうですけど」

「単純にイノシシ娘が体を動かすのが他の奴らより上手というのもあるが、仮空世界は何でもアリだからな。鍛えまくれば銃弾を脳天に十発食らっても死ななくなったり人肌が鉄みたいに刃物を弾くようになるが、この世界(ゲーム)ではそこまで差はできない。むしろかなり差が出にくい部類だ」


 はるか先であろうが裸眼でもしっかり見える戦場の紅一点が、剣よりも酒瓶を持たせた方が似合いそうなオッサン兵士を蹴り飛ばすのを見ながら青年は続ける。


「この世界(ゲーム)で『仮想体力値(ヒットポイント)』―――知っているだろうが怪我したりすると減って、ゼロになると死ぬ、この世界での命のことだ―――いわゆるHPが低い数値に設定されているからだ」

「低く、ってどういう意味ですか? いやよく考えると夢の世界なのに死ぬってのも変な話ですけどねぇ」

「死なないゲームなんてつまらないだろ」

「端的で見もふたもない回答ありがとうございます………」

「そう、〝死なないゲームはつまらない〟というのが、この仮空世界(ヴァーチャルリアリティ)でHPが設定されている理由だ。基本的にこれがゼロにならなければ矢で脳天撃ちぬかれようが刺さったまま戦闘を続けようが〝死〟なない。現実では出血多量やショック死しそうな怪我をしようとも〈ゼロ〉にならなければ〈死〉なない。痛覚緩和(ペイン・フェード)もあるしな。

 そしてこの世界(ゲーム)では多人数対人戦(PvP)である『戦(いくさ)』がメインコンテンツだ」

「つまり戦争の緊迫感を出すため、〝死〟にやすいようにHPを低くしてるんですか……うーん、この世界(ゲーム)じゃどんくらいHPは低いんです?」

「基本的に現実的な致命傷―――急所にいいの食らったら一撃でもHP全損―――つまり即死するそうだ」

「えー………それってかなりシビアで緊迫感でる前に死んじゃいませんか? でも、あのポニテの人は無双してますけど、どうゆうことですか」

「アレは―――――まあいいか、見ていろ」


 戦場に向けていた視線をはがして青年は口の中で二言三言つぶやいた。すると彼の手元に長方形の仮想情報画面(ウィンドウ)が虚空に現れ、それに対しても二言三言告げるとまたもや虚空に戻った。


「今のは………?」

「【伝達】の魔法。下にいる奴らに連絡したんだ。攻撃に使えない魔法なら意外と種類が多くてな………と、動き始めたぞ」

「お」


 慌てて望遠鏡をのぞくと変わらず赤い戦士が容赦なく兵士を残り星(スペクトル)に変える仕事に精を出している―――前に立ちふさがる者達がいた。人数は3人。全員がバケツのような鉄兜と素肌が見える簡素な鎧ともいえない装備という今まで蹴散らされてきた兵士たちよりも貧相な格好である。

 赤き猪武者は敵を探す手間が省けたとでもいうのか何の迷いもなく襲いかかった。

 貧相な兵士たちと淒腕の武者。3対1とはいえ勝敗は明らかすぎた。いや、力量差よりも以前に彼らに勝ち目、というより勝つための手段がなかった。彼らは武器をもっていなかったのだ。

 持っているのは剣などの武器ではなく長方盾。体を縮こませれば隠せてしまいそうなくらいの大きさ。兵士たちはそれを両手で持ち襲いかかってくる武者に向けた。


「おー、あの槍の突きを防ぎましたよ。さすがに盾持ちじゃあ貫けませんよね。

 うひゃあ見てるだけで手がしびれそう。でもこれ時間稼ぎにしかならないような…………あ、やっぱり強行突破されて後ろをとられた」

「違う、あれは突破されたんじゃなくて突破させたんだ」


 槍を巧みに使って盾持ち兵士の体勢を崩すと、猪武者はすぐさま脇を通って背後をとろうとした。いくら両手持ちの大きな盾を正面から突破するのが難しいとはいえ後ろから崩すのは訳がない。狙い通り彼女は背後をとることができた。

 そして正面には敵兵士の集団ができていた。慌てて後ろに逃げようにもついさっき突破した盾兵士がこちらに向いて道をふさいでいた。いつの間にか包囲されていた。敵が殺到してきた。応戦したが左右前後から刃物を突きたてられ猪武者は死んだ。




【以下、現在執筆中】

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