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スパゲティを巻けない男

作者: 啝賀 絡太
掲載日:2026/02/28

 スパゲティが上手に巻けない。


 フォークをくるくると回して絡め取る、あの動作のことを言っている。


 アレが出来ない。あまりにも下手くそ。おかしいくらい麺がすり抜ける。スプーンを添えてもあまり効果はない。



 これは愚痴であり、弱音である。

 


 提供されたばかりのスパゲティを食べようとフォークをさし、回す。三回くらい回して、フォークが少しだけ見えるくらいの量まで巻き取る。人差し指と、中指をくっつけたぐらいの太さだ。それくらいが口に運ぶにはちょうど良いと思っている。


 だが実際は親指も加わるくらい太くなる。自分等も行きますよと言わんばかりに。


 そのせいか、外周部分の麺がテロンと垂れ下がる。これだと大きくあけても口の周りが汚れてしまう。非常にスマートじゃない。


 残りが少なくなれば、誰も絡まってくれない。さっきまでの熱意が嘘かのように。どんなに回しても、フォークに絡まってくれない。


 昔からそうだ。昔から上手に巻けない。


 小学生の頃、機嫌が良い時は親友と呼び、癇癪を起こせば絶交だと言う、非常に自分都合な友人がいた。


 そいつだって、給食の時には綺麗にスパゲティを巻けた。


 かたや僕は昔からスパゲティを巻くのが下手くそだったので、てろんとした面を見てアイツは笑っていた。


 僕はそれが恥ずかしくて仕方がなかった。あいつは機嫌が悪ければ僕の文房具を盗んだりするような酷いやつなのに、箸はしっかりと握れた。それなのに僕は、スパゲティを上手に巻くことが出来ない。


 小学校高学年のころ、そいつの嫌がらせが激しくなって、学校に行くのが嫌になった。けれど家には不登校の兄がいて、とても気まずかった。


 体調が悪いと言っても仮病だと揶揄され、自分のことを棚に上げて僕に対し講釈垂れてきた。最悪なのは、共働きの両親が返ってくると大体いつも喧嘩するのだ。そんな家庭だったので、不登校も三日程度で終わった。


 居場所がなかったと思っていた。どこにいても居心地悪くて、嫌な気持ちになるばかりで、苦しかった。


 担任の先生にそのことを話したら、学校にくるカウンセラーを紹介された。週に二回、放課後にだけ会える人だ。 


 僕はありのままを話した。友達が嫌がらせをしてくる、家族は喧嘩ばかりで辛い、誰かと一緒にいるのが楽しくない、と。


 悩みを聞いたカウンセラーが開口一番に告げた言葉は「でも、話してみたら何か変わるかもよ」だった。


 それが出来りゃ苦労はしてねぇ!


 僕はカウンセラーに叫んだ。それでもカウンセラーは言葉を変えなかった。話してみないとわからないことばかりだと。


 確かに言葉を交わさない限りは理解されないのかもしれない。だが、そのとき僕はあまりにパワープレイな意見だと思った。


 カウンセリングしてねぇだろと心の中で思いながら、そうですね頑張りますと敵層に返した。


 だがあのカウンセラーも、スパゲティを上手に巻くことが出来るのだろう。


 偏見なのかもしれないが、僕みたいに苦労なんてしないで、スパゲティを容易く巻いて、口に運ぶのだろう。


 そして言うんだ。とりあえずやってみたらできるよって。


 僕はできないと、言っているのに!!!


 からかってくるやつはもう一人いた。会社の上司だ。


 普段は大声で下ネタを話して、仕事の命令をする時も目を吊り上げて大声で、僕のことを卑下しながら命令してくる。おい、うすのろだとか、期待しない程度に待ってやるとか。


 電話が終われば電話先の愚痴を言い、ガハガハと下品な笑いをする。


 同僚の皆から陰口を叩かれ腫れ物みたいになっているだけどあいつも……!


 上手に巻けるんだ……!スパゲティを……!


 飲み会の時、見てしまった。


 食事のマナーについて偉そうにうんちくと仕事の有難い言葉を言ってくる。お前はいつもとろいんだとか、ワインはグラスを回すんだとか、おまえはこえがちいさいだとか。


 そして僕の食べ方を見てあざわらうんだ。


 皆、笑うんだ。僕のことを。


 スパゲティを上手に巻けない僕のことを……面白おかしく……おかしいのは、アイツらなのに!!!









 















 





 わかってる。


 周りが出来ているのに、出来ないまま成長していない自分の方がおかしいって。


 都合の良いあのクラスメートも、カウンセラーも、皆当たり前のようにスパゲティを巻いてた。


 なのに俺だけ……どうしようもない人間だ。


 スパゲティは上手に巻けないし、ラーメンを啜る時に音がならない……


 今月で三十歳になって、当たり前のことが出来ない。非常に情けない。


 成長せずただ、老いていくだけ。将来が不安になる。


 あの日以来、僕は他人に打ち明けることをやめてしまった。助けてもらう方法なんてわからない。


 周りが一歩一歩確実に歩いていく一方で、僕は同じ場所で喚き続けることしかできない。


 ひとり。


 僕はこのまま、スパゲティを上手に巻けない男なのだろう。

スパゲティを巻くのが下手なのと、ラーメンを音立てて啜ることが出来ないのはノンフィクションです。


どうか笑ってください。


惨めだと思うので。

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― 新着の感想 ―
ラーメンを静かに食す技を誇れば(女性受けはきっとそっちのほうが)いいと思ったのですが、そうですか貴方のために探してみました、アドバイス×な人ですか? https://note.com/fen_shim…
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