1.きっかけは喫茶店⑭
♦表現がストレート
≪組の論争が落ち着いた。
食事に行こう≫
前回の喫茶店騒動から3日後、蓮からの連絡。
綾は仕事を終え、病院の自動ドアを通り過ぎた時、
蓮「綾」
入り口の端に蓮が立っていた。
黒いロングコートに身を包み、襟を立てて、綾の方へと向かってくる。
綾「すみません、待たせてしまいましたか?」
蓮「待ってねぇよ。ほら、行くぞ」
手を繋がれ歩き出す。
蓮の手が冷たい。随分と待っていたのではないかと綾は心配になる。
蓮の顔を覗き込むと、目が合った。
蓮「そ、そんなに見るなよ…」
恥ずかしそうに眼を逸らす。
綾(ヤクザなのに、可愛い…)
高級なレストランは苦手だと、食事をしたお店は定食屋。
洒落た店内ではなく、家庭的で昔から愛されているという店構え。
他のお客さんは蓮を見るなり、察してすぐに視線を逸らす。
メニューは壁に描かれている。
蓮「綾はなにがいい?」
綾「う~んと、アジフライ定食」
蓮「可愛いな」
さり気無く言われると恥ずかしくなる。
蓮は自分と綾の注文をし、綾の顔を覗き込む。
蓮「顔、赤いよ」
綾(誰のせいだと思ってるの)
「そんなストレートに言わなくても…」
蓮の手が綾の手を捕える。そっと重ねる。
蓮「気持ちを押さえられるほど、大人じゃねぇ」
蓮の親指が綾の手の甲を撫でる。
綾
食べている最中も、蓮は綾から視線を外さなかった。
何を口に運び、喜ぶのか。
どのくらいの量を口に入れるのか。
母親が我が子の食事介助を行っているかのように。
綾「あの…」
たくさん口に含んでいるため、言葉が出せない。
蓮「ん?」
綾「そんなに私を見なくても…
何か変なところありましたか?」
蓮は食べ物を飲み込み、
蓮「食べる姿が可愛いから見ていた、ダメ?」
綾「…ダメというか、恥ずかしいというか…」
蓮「ずっと見ていたい」
こんなにストレートに気持ちを表現する人間に会った経験がないため、
綾は緊張とドキドキで困惑した。
その後の食事も、蓮は綾から眼を逸らさないで店を出た。
蓮「ん、」
蓮が綾の前に手を差し出す。
その行動が可愛くて、綾は微笑みながら手を重ねる。
しっかりと握り返されると安心する。
夜風は冷たいが、二人の手はずっと温かかった。




