1.きっかけは喫茶店⑩
♦絶対、守る
平日の夜。
残業が長くなってしまい、いつも喫茶店へ行く時間が押してしまった。
綾(蓮さんは仕事が忙しいから、私のことは待っていないだろうな)
喫茶店は閑散としていた。
案の上、蓮の姿はなかった。
亭主「おや、綾さん。先ほどまで蓮さんがお待ちでしたよ」
綾「そうですか、仕事が長引いてしまって…」
残念な気持ちと共に、カウンター席に座る。
カフェオレが無くなり、そろそろ帰宅しようと思った時。
喫茶店のドアが鳴る。
綾(蓮さん…?)
振り向くと、見知らぬ男が2人。
男A「お久しぶりですね~、相変わらずの廃れた感じ」
亭主の表情が強張る。
男B「ここに長岡組の連中が出入りしていると噂で聞いてねぇ。一度挨拶と思って来たんだよ」
男たちは店内を見渡し、カウンター席にいる綾に視線を止めた。
綾の後ろを囲う様に立ち、カウンターに腕を伸ばし、綾の顔を覗き込む。
男B「あんた、まさか長岡組と仲良しの女?」
綾(そこまで情報が広まっているなんて、裏の世界は怖い…)
蓮には迷惑をかけたくないため、
綾「何ですか…?」
震える手を隠すように両手を握る。
男A「おい、あんま近づくなよ。可愛く震えているじゃねぇか」
綾(この場をどう切り抜けようかな…)
男B「よく見ると、べっぴんさんじゃね?」
男が綾の顎を持ち、自分の顔に近づけた。
お互いの息が感じられる距離。
綾の手の震えが止まらない。
「汚ねぇ手で触ってンじゃねえよ」
男の腕を掴み、綾と男の間に入った。
いつもの香水の香りだ。
綾「…れんさん…」
ドラマの様な動きで、理解に追い付いていない綾。
蓮「お前ら、ここを“誰の”馴染みの店だと思ってンだ?」
掴んだ腕がミシミシと鳴りだす。
男A「お、おいっ…、まさか若頭…?」
蓮が冷たい威圧的な視線をし、男Bが急いで店を出て行った。
蓮「仲間を見捨てることは、私の組では許していない…。
この腕、使い物にならなくしてやってもいいぞ」
男Bの頬に汗が滴る。
すみませんでした、と聞き取れない位の声量で男Bは腕を離され、姿を消した。
綾はずっと蓮の肩越しに表情を窺っていた。
綾の心臓は以外にも静か。
蓮は綾の肩を抱き、
蓮「怖かった?」
キスができる距離まで近づく。
綾「…だ、大丈夫です」
蓮「大丈夫じゃないでしょ。あんな汚い手に触られて」
綾(そっち⁉)
蓮はにこりと微笑み、綾の頬を撫でる。
蓮「ごめん、こんなことになるのは想定していたけれど、実際に起こってみると腹が立つ」
綾の頬を撫でる手付きが優しい。
蓮「綾さんを巻き込みたくない、
私の世界に踏み入れさせたくないと
何度も考えていたんだ」
蓮の指が綾の唇にそっと触れる。
さっきまで男の腕を強く掴んでいたとは思えない程優しい。
蓮「綾さんに会う回数が増える度、欲しくなる…」
綾はずっと蓮の顔を見ている、微動だせず。
蓮「もし綾さんと一緒に居てもいいなら、裏の世界に綾さんを巻き込まない。
俺が、絶対守る。この命に代えても…」
蓮は綾の手を取り、祈るように額に当てた。
その姿が切なく、愛しく思える。
綾「蓮さんが守ってくれると心強いね」
綾の言葉に蓮は顔を上げ、
蓮「…あ…、綾さん…」
綾は自分が言ったことが恥ずかしくなり、顔を背ける。
蓮「触っていい?」
綾(許可取るんだ)
綾は恥ずかしそうに蓮とは目を合わせずに、頷く。
蓮の手が綾の頬に触れる。優しく、そっと…。
蓮「綾さん、俺の傍にいて…」
綾「…はい」
蓮の指が綾の唇に触れる。
優し過ぎて、触れたか分からない程。
綾は蓮の澄んだ瞳を見つめている。
蓮が綾の額にキスをした。
…ちゅっ
蓮「綾の唇は次回に取っておく」
綾は恥ずかしそうに顔を上げ、蓮の顔を見上げる。
心臓の鼓動が聞こえてしまうのではないかと心配になった。




