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折り目は水に沈む

折り目は水に沈む

作者:時任 理人
 佐伯美沙、高校二年生。外から見れば目立たぬ、ごく普通の女子生徒。しかし彼女の日常は、常に「観察」と「確認」で満ちている。
 朝のサイレンの回数、トーストを噛む平均回数、教室の余白に引いた鉛筆の線の太さ。美沙にとって世界は常に「データ」と「仮説」で組み立てられる。

 彼女の居場所は、放課後の理科準備室だ。乾燥器から取り出したフィルムの波形を記録し、表面張力の歪みを測り、光の角度で時間を知る。誰にも理解されないその細やかな作業は、美沙にとって「安心」と「存在証明」であった。
 ノートの片隅に彼女は小さな折り目をつける。浅い折り目は戻る。けれど折られた紙は決して元通りにはならない。その事実は、美沙に奇妙な安堵を与える。

 川沿いの帰路で彼女は思う——「表面は拒絶ではなく猶予」。水滴が落ちるまでの時間、音が反響するまでの遅延、確認の繰り返し。日常はすべて実験の延長だった。
 夜、ノートに重ねた線は微妙にずれ、完全には一致しない。その揺らぎを「生の証拠」として受け入れ、彼女は眠りに落ちる。

 まだ何も壊れてはいない。ただ、ひとつの折り目が静かに刻まれただけ。やがてそれが、重い扉を音もなく開く蝶番になることを、美沙自身はまだ知らない。
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