一人称があっし系転生ヒロイン
「姫!こんな寒い日もあろうかとヒールを温めておきやした!
さぁさぁ、どうぞお履きに!」
腹の布地を大きく広げ、中からハイヒールを取り出す少女。
いや、止めなさいな、仮にもレディがはしたない。
私はメイリーン・スノーメイア。
スノーメイア公爵家の令嬢にして前世の記憶を持つ転生者。
そしてここはとある乙女ゲームの世界。
当然私はヒロインを警戒したし、私自身は婚約破棄されないよう……または婚約破棄されても良いように、真面目に勉強とレッスンを続けて来た。
まぁ、成績は高位貴族としては可もなく不可もなく。
前世平均をガチで行く女だったのに、多少真面目に努力したからって優秀な才女にはなれませんわよ。
王子との仲も可もなく不可もなく。
婚約者の王子は第二王子で、将来結婚しても婿入り公爵の嫁という立場だ。
平凡な私に王妃なんて務まらないし、それは幸いだった。
まぁ、王子はどうでもいい。
問題は目の前の女だ。
「はぁ……冷静に考えて、人様の肌で温められた靴って気持ち悪くないですか?」
「っ!そ、そいつぁ盲点でした!しかし今は雪も降る真冬、そんな薄っぺらいストッキングにだけ覆われた御御足で中庭に出ちゃあ爪先が冷えるというものでっせ!」
「安心なさい、ストッキングは意外と暖かいの」
……確かに、冬場は結構冷えるけれど。
「ですがね、ネリスさん、そもそもこの学園、土足禁止の畳とかではなく、元より土足が当たり前の洋風床なのですわよ?」
仮にも洋風世界観で、学校内だからと靴を履き替えるなどありえないから。
「ハッ!な、なるほど……!
あっしは草鞋派だから気づきやせんでした……!」
「洋風世界に草鞋の概念を持ち込むな」
確かに貴方、学校に入る度に草鞋で登校してましたわね。学校に入ったら上履きに履き替える感覚でヒールを履いていましたわね。
「それと……」
「はい?」
「私は姫ではありませんわ。
この国の姫は第一王女がいらっしゃいますもの」
「ですが、姫は高貴なお方っしょ?
下級貴族……しかも庶子のあっしにとっちゃあどちらもやんごとなき姫でっせ。
そもそも、王族でなくとも高貴な身分の女性を姫と表現する事はよくあるのでは?」
……まぁ、そりゃそうだけど。
平安貴族とか、貴族の娘=姫って呼ばれるイメージだし。
「それと……貴方、いつまで頭を垂れて跪いてらっしゃいますの?」
「姫の前であっし如きが対等な目線になるなんて事ぁは出来やせん。
そもそも……あっしの方が身長高いんで、立ち上がると姫を見下ろす事になってしやいやす」
「その理屈なら国中の大半の殿方は姫より背丈が高くならないよう足を切らなければなりませんわね。
別に、身長差で見下されるぐらいで文句など言いませんわよ」
「足……切りやしょうか?」
「怖い事を真面目に検討しなくて良いですわよ!」
はぁ、つい声を荒げてしまった。
淑女は声を上げるべからず。
分かっているけど彼女を前にするとツッコミが抑えきれない。
駄目ですわね、私も仮にも公爵令嬢。
下位貴族ですら心得ている初歩的な部分を忘れては、誰に陰口を叩かれるか分かったものではない。
「とにかく……こんなところでアホな事をやっている暇があったら勉強でもしていなさい。
貴方、成績ドベから数えた方が早いんですか」
「っ!あっしみたいな有象無象の猿に気を掛けてくれるたぁ嬉しい限りでっせ」
「……とっとと私の前から消えて教室に戻れという意味ですが、分かりませんでしたの?」
「それならあっしはこれで退散しやすが、何か必要な事があればいつでもお呼びくだせぇ。
姫に呼ばれりゃあ、あっしはどこへでも駆け付けやすぜ」
そして思いの外あっさり退散していくネリス。
ふぅ……ようやく静かになった。
……誰にも見られてないわよね?
全く、貴族社会なんて本当に息が詰まる。
前世なら昼休みと言えば教室の机の上でスライム化しながら弁当もしゃもしゃして友人とゲーム談義で盛り上がっていたのに。
今はそんな事出来もしない。
こんな前世より文明の後退した世界で貴族に生まれられただけで幸運なんだけどさぁ。
「息が詰まるなぁ」
僅かに吐いた息は白く染まった。
転生ヒロインという存在を私は警戒していた。
テンプレでは、転生したヒロインというのは自分が世界の主役だと勘違いし、逆ハーレムを狙ったり王妃の座を狙ったり、ロクな事をしないから。
私も婚約者を奪われたり、濡れ衣を被せられるんじゃないかと思った。
しかし、実際に学園でヒロインと対面し言われた事は
「おたくがメイリーン・スノーメイア姫っすね?
あっしはネリス・シトリン、前世の名前を豊田秀子と申しやす。
どうか、あっしをおたくの猿にしてくだせぇ」
それが第一発言だった。
見た目は小柄な(私の方が小さいとか言うな)小動物系美少女。
ピンクブロンドの髪は短く切り揃えられ、それを後ろで無理やりチョコンと結んでいる。
そう、見た目だけなら庇護欲を唆る非常に愛らしい少女が、自分をあっしと言いながら人前で跪き、「猿にしろ」と言い出すのだ。
端から見たら意味不明だわ。
脳がバグる。
それからというもの、ネリスは私の行く先々に現れた。
何で何も言ってないのに私の行動パターンを把握してるの?
怖いのだけど。
知らない、こんなテンプレじゃない転生ヒロイン知らない。
どうやらネリスの狙いは私だけのようで、王子やその他攻略対象には手を出していない。
私すら、王子と一緒にいる間は姿を見せない徹底ぶりだ。
何がしたいの?
友情エンドをご所望?
残念ながらこのゲーム、友情エンドはないですわよ?
逆ハーレムエンドはあるくせに他の女とのイベントは婚約者による妨害しかないという、「女は邪魔!男を落とす事こそ我が使命!」と言わんばかりでいっそ清々しさすら感じたから。
尚、男を落とせないと父である男爵当主の命令で辺境のキモデブ貴族の元に無理やり嫁がされるバッドエンドである為、それを回避する為なら略奪愛も辞さないというヒロインの考えもまぁ……全く分からないわけではない。
「姫、こちら献上品の団子でさぁ。
どうかお納めくだせぇ」
人が時計塔の屋上でのんびりしているのに、どうやって見つけたんだ?この女。
もぐもぐ……あら、美味しい。
「貴方、何がしたいんですの?」
「姫に仕える事があっしの望みでっせ」
「ではなく、貴方このままでは、キモデブジジイの婚約者ですわよ?」
「でしょうねぇ、うちの当主は合理的な方でせぇ、跡継ぎにも出来ねぇ遊びで作った小娘なんざ売って金に変えようとしか考えておりやせん」
「なら……」
「だからって、他所の貴族様の男を狙えば破滅するのも分かってやすからねぇ。
不思議ですよねぇ、昔の世の中って医療技術なんてまともに発展してなくて、子供の死亡率も特に高かったんでっせ?
貴族の子供でも代わりやせん。
だからもしもの為に子供はたくさん作り、いつ死んでもおかしくないから子供の内に婚約なんてまずありえない話だったってぇのに」
「……確かに、この世界、妙に死亡率は前世並に低いですわね。
まぁ、魔法で医療技術が発展したと言えばそれまでですが」
「そもそも貴族の情勢なんて日々変わるもの。
今日の豪族、明日の貧民、なんて可能性もゼロじゃありやせん。
幼い頃からの婚約なんてリスクが高いばかりのギャンブルでさぁ。
多くは、年頃まで婚約者なんていないのが当たり前で、都合の良い相手が見つかったらそのタイミングでさっさと輿入れしちまうもんよ。
形ばかりのお見合い程度はあるかもしれやせんが、貴族の結婚なんて基本は身売り同然ですからねぇ」
それはその通りだ。
貴族の結婚……政略結婚に子供の意志は関係ない。
戦国時代を見れば良い。
大きな国に媚びを売る為、自国の姫を結婚という形で売り飛ばすなんてザラとある。
ある意味、小さい頃から親睦を深めるチャンスのある乙女ゲー貴族よりも酷い扱いだ。
女の人権なんてない。
結婚後に愛が育まれる可能性?
そもそも相手の機嫌を損ねれば自分の国と首が飛ばされるかも知れない中で愛を育める強心臓なお姫様とか普通いないと思うけど?
あぁ、そんな恐ろしい旦那に恐怖し続ける事に疲れて、「自分はこの人を愛している」と自己暗示を掛ける姫は少なくないかも知れないけれど。
「まぁ、乙女ゲームなんて、平凡な小娘に男どもが惚れるって時点で非合理性の塊ですし、あれこれ突っ込んでも仕方ないんですが」
ある意味貴方は平凡な小娘ではないけれどね。
「とにかく、こんな世界じゃ略奪愛なんて破滅フラグですし、愛人の座すら狙うのが難しいでしょう?
貴族の男なんて嫁の人数がステータスでもおかしくないものを、そこのところも不自然にストイックというか……」
「……半端に女性の人権が尊重されてますからね。半端に」
半端に尊重するくせに政略結婚は強制というおかしな国だ。
「男を口説けば破滅し、何もしなければ好色ジジイの性奴隷、転生ヒロインなんて現実逃避の馬鹿が多いと思ってやしたけど、案外現実逃避でもしなきゃ絶望的な未来すぎてやってられなかったんじゃないんですかねぇ。
力のない無教養な小娘には、力ある者に媚びる事でしか我が身を守る事は出来ないんですからね」
「……」
何も言えなかった。
私は公爵令嬢だったから、幼い頃から英才教育を受けられた。
でも、ヒロインは違う。
元々平民だから教養なんてなくて、精々男爵家で付け焼き刃の詰め込み教育をされる程度だろう。
この世界で勉強というのは金持ちの特権だ。
貧民や平民は、勉強する事すら出来ない。
のし上がる為の努力を許されない。
その機会を与えてすら貰えない。
勉強の価値が前世とは違う。
努力したから優秀、努力しないから下等と持つ者は罵るが、そもそも努力出来る機会が下の人間には与えられないのだ。
「なのであっし、高位貴族の男じゃなく高位貴族の女を口説く事にしやした」
「うん、今までのシリアスの空気を返して頂けませんこと?」
「いやいやいや、こいつが我ながら合理的な考えだと思うんですわ。
男を女が口説けば女の顰蹙を買うけど、女が女を口説いても女の顰蹙は買わない、つまり同じ媚売りなら女にする方がお得だと気付いたわけなんでさぁ」
「私、口説かれてましたの?」
「いや、アピールしやしたよ?
下位貴族が高位貴族と結婚なんて貴族ハードル高いですが、高位貴族が下位貴族を使用人にするのは自然でしょう?」
「……使用人になろうとしていましたの?」
「ですから、最初に猿にしてくだせぇと」
「素直に頼めませんこと!?
秀吉ネタなんてこの世界の人間には分かるはずないんですから、貴方頭の変な人と思われましたのよ!?」
「お陰で変な男も寄らなくなりやしたねぇ」
「……まさか、それを狙って?」
「いえ、あのセリフはガチでっせ」
そう……ガチなんだ……。
とはいえ、確かに彼女は美少女なので、初対面の人間に猿にしてくださいと頼む頭チンプンカンプン発言をしなければ良くない男に狙われていた可能性も否定出来ませんわね……。
「あとほら、主人って従者や使用人の結婚方面も世話するもんでしょ?
姫の家来になれりゃあ、いずれそこそこ高物件の男を紹介してくれる可能性が高そうだなぁ、と」
「意外と打算的ですわね!?」
「それに公爵家の使用人ともなりゃあ高給取りばっか。下男すらそこらの平民よりは給金貰ってるでしょうし、安牌しかいないんでさぁ」
「はぁ……それで、私が貴方を雇うメリットがありますの?
あいにく、うちは使用人には困っていませんし、男爵家の庶子を雇う義理はありませんわよ?」
とはいえ、ここで私が拾わなかったら金持ち豚と結婚するのだろう。
いや、もしかしたら別の令嬢に媚びるだけかもしれない。
だけど、お父様に口添えメイドを1人増やしてもらう程度なら訳もない。
私も同郷の人が不幸になる様を好き好んで見たい訳ではない。
人様の婚約者に手を出して来るならまだしも、むしろ彼女、男性貴族は積極的に回避しているし。
「あっし……和菓子が作れやす」
「……普段から持って来るものね」
「草鞋も編めやすし、風呂敷使いこなせやす」
「は、はぁ……」
それはアピールになるのか……?
「残念ながら着物はまだ作れやせんが、いずれ作れるようになるつもりです。
どんな一流使用人だって、あっしの和の心には敵わないという自負がありやす」
……そもそもこの世界に日本人の魂持ってるの、今のところ貴方と私だけだもの。
「あっしがいれば、いつでも日本の風情を感じさせてご覧にいれやしょう。
姫だって元が日本人なら、日本が恋しくなるでしょう?
転生したって、魂はいつだって和を求めるものだとあっしは考えてやす」
和、と言われても……私、前世はガッツリ洋物派だったのよね……。
朝はパン、お菓子はケーキ、夜になればハンバーグ。
外国産ハイブランド雑誌を羨ましく眺めながら、結婚式は洋式ウェディングドレスに憧れ、成人式もガッツリスーツ。
他国文化を取り入れた事で日本独特の和文化なんてほぼほぼ衰退したと思っているし、それでも問題ないと思っていた。
…………。
でも、異世界に転生して、米も全然食べれなくなって、おやつはケーキやスコーンばっかになって、肉じゃがなんてそもそも概念すらなくて……口寂しくなった。
普段はパン派でも3日に1回は米を食べていたし、みたらし団子はスーパーで安売りしてれば必ず買っていたし、お母さんの肉じゃがは月に1回は食べるのが当たり前だった。
どれだけ他国に浮気をしても、最後には自国に帰らざるを得なくなるのだ。帰りたいと願うのだ。
「……まさかだけど、その変な口調も、和っぽいイメージだからって理由で使ってる訳じゃないですわよね?」
「あ、その通りでっせ」
図星かよ。
いや、日本思い出せ、そんな話し方する人間が貴方の人生にこれまで1人でもいたんですの?いたらビックリしますわよ?
「……今後は普通に喋りなさい」
「?あっしは気に食わなかったですか?
なら、これからは某と……」
「一人称の問題じゃないですわよ!
公爵家のメイドが平民ですらやらない変な喋り方をしていたら馬鹿にされるでしょう!?」
「ッ!姫、あっしを雇って頂けるので!?」
「……まぁ、まずは厨房見習いからでも始めなさい。
残念ながら……うちの優秀なコックでも、みたらし団子を作れる方はいらっしゃいませんのよ。
貴方には期待してますわ」
私が教えれば良いと?
生憎、前世の私は料理なんてほぼしなかった。
母親に作って貰ってたし。
ましてやお菓子なんて作った事ないし、和菓子なんてもっとどうやって作れば良いか分からないのだ。
その後、公爵家のおやつに偶にみたらし団子が出るようになり、やがて公爵夫人の好きなスイーツという事で市井にも広まる事となるのだが……それは、10年も先の話である。
〜10年後〜
「メイリーン様、みたらし団子と抹茶お持ちしました」
畳の上で茶を啜る。
草鞋を自作していたと聞いた時もビックリしたけど、まさか畳まで自作出来るようになるとは夢にも思わなかった。
というか、前世は畳よりフローリング派だったくせに、今では畳の上の方が気が休まるというか、精神が集中するのだから、私も所詮は日本人らしい。
「……ねぇ」
「なんでしょう?」
「あんたの喋り方違和感あるんだけど。
なんで普通の敬語使ってんの?」
「え?元々普通に喋れって言ったのメイリーン様じゃないですか。
そもそも前世20代女性があっしって、結構恥ずかしかったですからね?
あと、公爵夫人の侍女があっしとか言い出したら頭イカれてますよね?」
「あんたが正論語るな!」
てか、前世20代なの?
へぇ、ふぅん……つまり精神的にはコイツの方が年上…………気にしない事にしよう。
今は同い年だし。
「それに、メイリーン様も最近言葉遣い荒れてますよね?
昔の方が丁寧で令嬢らしい喋り方でしたよ?」
「そりゃあ、周りに馬鹿にされないようにめっちゃ作ってたし。
うっかり変な言葉が漏れないように心の中ですらお嬢様言葉にしてたし」
前世平凡女子に公爵令嬢は辛すぎる。
それでも立場は捨てられないから私なりに努力して、高位貴族令嬢としては平凡と認知される程度にはなって。
でもそれすら私には背伸びだった。
疲れていた。
正直、ネリスが家に来て助かったのは和菓子が食べれる事より、自然体でいられるようになった事だ。
彼女は前世の話が出来る唯一の存在だし、彼女の前では令嬢ぶらなくても許された。
……だから……公務ではちゃんとするからプライベートでぐらいだらけるのは許して欲しい。
「……私、最近旦那様に呼び出されたんです」
「は?なにそれ、アイツに何かされた?
政略相手と子供作って手が掛からなくなってきたからそろそろ愛人作ろうかって事?
にしても妻の侍女とか普通手ぇ出す?
処す?一先ずち◯この病気とか言って医者に切らせる?」
「落ち着いてください、そんな話じゃないですから。
ただ……『何故侍女のお前が夫である私より妻と仲が良いのだ?』と」
「……別に、旦那様を蔑ろにした事はないですわよ?」
うん、ないはずだ。
最低限、挨拶と社交辞令と家族サービス程度の付き合いはしているはずだ。
ただ……ほら、仮にも元王族で、公爵当主……つまり夫人よりも立場が上な旦那様相手に、畳に寝そべって膝付きながらみたらし団子食べる姿とか見せられないじゃん?
飾らなきゃいけないんだよ、貴族夫人モードを作らなきゃいけないんだよ。
政略結婚における旦那様って上司だからね。
部下である夫人が雑に接して良い相手じゃない。
夫婦だから対等なんて、民主主義の自由恋愛主義世界でのみ言える事だ。
少なくとも貴族社会において、身分の高い結婚相手は上司であり、低い方は部下である。
だから……前世が同郷で、ゲーム話もオタ話も付いてきてくれる侍女との方が仲良いとか、そんなの当たり前だろ。
旦那様だって私と接する時より側近の騎士様と2人きりの時の方が砕けてるし。
……まぁ、残念ながら私は腐女子ではないので、そんな様を見てもムフォー!!!とはならない。
ならないったらならない。
まぁ……仲良き事は美しい事じゃないですか?
「そういえば、貴方に縁談話があるわよ」
「え?縁談ですか……?」
ネリスは微妙そうな顔を浮かべた。
「あの……ぶっちゃけ私、今は仕事に集中したいっていうか……男と子供に時間取られるのダルいっていうか……。
ここで働いてれば独身でも食いっぱぐれないぐらい稼げますし、あんまり結婚願望ないというか……」
あらあら、昔は良い男紹介してくれと言ってたのに。
人って変わるなぁ。
「安心なさい、縁談相手は旦那様の側近よ」
「え?あの人?
好意を寄せられた覚えがないんですが、なんでまた?」
「側近様曰く、『私はクリオロ様の従者という仕事に満足している。クリオロ様に仕える事が我が生き甲斐であり、女や子供にうつつを抜かす時間が勿体ない』らしいわ」
「いや、結婚願望ゼロじゃないですか!?
見合い話とか、持って来る側じゃなくて蹴飛ばす側ですよね!?」
「でもあっちも年齢が年齢だから周りにせっつかれてるみたいでね。
そこで、あんたであれば同じ結婚願望なし、子供いらない、仕事第一ってところで結婚しても共存出来ると思ったみたい」
「愛の欠片も見当たらない……」
「アレの愛は旦那様に全投資でしょうね」
あ、愛って言ってもラブではないわよ?
まぁ……男の愛人なら、万が一の時子供が出来てややこしい事になるリスクがないから、実は都合が良かったりするんだけどね。
興味ないけど。BLなんて興味ないけど。
でも多様社会日本の転生者として、アブノーマルな愛も応援して行きたいとは思う。
「あんたも周りがウザいでしょうし、話だけでもしたら?」
「……そうですね。
にしてもあの人、確か侯爵令息でしょう?
私と結婚とか、周りが黙ってないんじゃないですか?」
「元々跡取りって訳でもないし、このままだと生き遅れ待ったナシだからね。
あんたの後見人には私がなるし、そうすれば意外と文句は少ないと思うわよ」
「……もう結婚してくれれば誰でも良いって感じなんですね」
「そういう事」
相手に対して失礼な事だけど、それはネリスも似たようなもんなので関係ない。
その後、見合いは穏便に済んだ。
その時、ネット小説定番句「お前を愛する事はない。私が心を捧ぐのはクリオロ様ただ1人」という言葉に対して「奇遇ですね、私も貴方を愛する事はありません。私の心はメイリーン様への忠誠だけで他に割く余裕はないので」
何がヤバいかって、そのお見合いの場に何故か、私と旦那様も同席していた事。
愛を捧げる相手がちげぇよ。
互いに、これから結婚しようか考えている相手への対応とは思えないのだが、婚約自体は問題なく締結してしまった。
それから間もなく結婚も終える。
式も開いたけど……まぁ、政略結婚で子供の頃から相手をさせられる令息令嬢よりも冷めた目をしていたとだけ、言っておく。
そんなツンドラ気候レベルに冷え切った関係の結婚だが、ビックリする事に5年後には第一子を出産した。
寿退社されたくないという理由で屋敷内に社内保育園を作ったり、子育てを終えた元侍女やメイドなんかを雇い入れて面倒見させたりした。
社内保育園は他のメイドや侍女達も利用し、すぐに満員となった。
「ねぇ、平民に保育園開放してそこで教育とかすれば親も子供も助かるんじゃないの?」
「まぁ、メイリーン様、お金だけはありますし、好きにすれば良いと思いますよ」
その後、平民の間で女性の社会進出が増えたり子供の教育水準の向上がした事で国の経済は潤い、後の歴史の教科書で『女性の社会進出を促した公爵夫人』として名を刻まれる事になるのを、その時の私は知らなかった。
乙女ゲームのヒロインだけどイケメンより悪役令嬢攻略する転生ヒロインの書こう、という勢いだけで書いた作品。
悪役令嬢推しヒロインだけなら既に世の中にいるので、もっと奇抜なヒロインにしよう。
↓
あっし系豊臣秀吉系ヒロイン爆誕
胸に草履の代わりにヒール入れてたらウケるな、て感じで書いたら何故か最後には公爵令嬢が保育園革命を起こしました。
自分でも何故なのか分からない。
ヒロインは、最初は精神が男とか戦国時代出身者とかも考えましたが、設定が面倒臭いので素直に現代人にしました。
歴史ネタは作者が苦手分野なのであまり使いたくありません。
ぶっちゃけ、転生ヒロインは転生者である事を活かすなら男口説くより悪役令嬢口説く方が良いと思います。
同じ転生者ならコネ採用してもらいやすいだろうし。
たぶん今作の公爵令嬢さんも最初から「転生者です。破滅したくないです。おたくで雇ってください」と頼めばすんなりメイドにはしてくれました。
ヒロインちゃん、無駄な遠回りしてます。
しかし、「猿にしてください」から始まる数々の奇行のお陰で、身分の低い美少女であるにも関わらず周りの下半身猿令息に狙われる事もなかったので、防衛という意味での効果はありました。
ヒロインと側近騎士は互いに打算的な結婚でしたが、性格的に似たような相手だった為に意気投合も早かった感じです。
それでも、第一優先は自分の主ですが……。
その主自体が、自分の伴侶より従者を優先しているので似た者主従ですね。
7/23、18〜19時、異世界転生転移文芸他短編部門日間10位獲得!
読者の皆様ありがとうございます!