第一話 奴隷にしてください
俺の学校には、マドンナがいる。
クラスでそこまで目立つ人ではない。
しかし、勉強ができ、さらに、運動神経も抜群。
強いては顔も整っているという事で人気を博している。
目立つというよりも、男子の中で人気があるという感じだ。
俺も実は彼女の事が気になっている。
だが、彼女は告白を冷たい雰囲気で断ることが多いと聴く。
俺は理想の彼女よりは現実的な彼女の方が欲しい。
だから、一生で関りのない事無い人だとは思う。
彼女は群れないのだ。
「あれ」
俺は机の中に手紙が入っているのに気が付いた。
「なんだこれ」
いれ間違いなのか。
中には『今日、お願いしたいことがあるので、授業終わりの四時半に校舎裏に来てもらえませんか?』と書いてあった。一体何なのだろうか。
しかも、怪しげな事に、名前も書いていない。
筆跡だけ見れば女子っぽいのだが、それ以外の情報は何も分からない。
もしかして、果たし状とか?
いや、そんなわけがない。俺はヤンキーでもないし、過去に人に迷惑をかけたなんてことも無い。
考えれば考えるほどに謎は深まっていくばかりだ。
告白文の可能性もあるが、俺は別に持てるような性格ではない。
だが、告白文ならいいな。よく考えたら、果たし状よりは可能性が高いだろう。
うん、これは告白文だ。
そう心の中で確信し、思わずにやけてしまう。
そしてその影響は授業にも表れてしまった。
「おーい、聞いてるか山村」
怒られてしまったのだ。
俺は真面目に授業を受けてるつもりだったが、脳内はやはりあの謎の手紙に支配されているのだ。
そして放課後。例の手紙の正体を知る機会が出来た。
俺は校舎裏に来た。
まだ誰も来ていないようだ。
今からでもドキドキする。
「あ」
一人の女性が通りかかった。
クラスのマドンナ。白木満里奈さんだ。
「どうして君がここに」
予想外の人物だ。
だが、直ぐに俺は思い直す。
彼女が手紙を出した犯人とは限らないじゃないかという事に。
別にここは人気は少ないが、それでも人が全く通らないわけでは無いのだ。
「いえ、ごめんなさい。ここで待ってるのはただ人を待ってるだけなので。あなたがその待ち人化と勘違いしました」
「いえ、私があなたが待っている人ですよ?」
「あ、はい。ってえ?」
彼女だったのか。
「そんなに驚くことですか」
「驚くことですよ」
だって、思い当たる中で一番ない人物なのだから。
だが、その瞬間、少しだけ胸が高まる。
やはり果たし状とかそんなものではなく、告白なのじゃないかと。
よくある漫画の結末としては俺の友達に、恋をしてるとかそんなのだが、ここは漫画ではなく現実だ。
そんなことは無いと願いたい。
「単刀直入に呼んだ理由を言いますね」
ごくり。つばを飲み込む。
「私をあなたの」
確定演出か?
「奴隷にしてください」
は?
チョットイミガワカラナイ。
「あ、えっと何を言ったのでしょうか」
「奴隷にしてほしいの」
うん。意味が分からない。
普通ここは、恋人にしてくださいが、テンプレなはずだ。
「待って、聞き間違いってことは無いよな」
「うん、貴方の奴隷にしてほしいんです」
「えっと」
ヤッパリイミガワカラナイ。
「なら言い方を変えます。あなたのペットにしてほしいんです」
「どっちでお同じ意味なんですけど」
厳密には違う意味なのだろうが、今の俺には同じ意味に聞こえてしまう。
「なら、意味わかってるよね。ここじゃあれだから、私の家に行きましょう」
そう言って歩き出す、白木さん。意味がいまだに分かっていない。
そして俺は白木さんの後をついていく。これから何が起きるかすらもわかっていないのに。
家自体はそこまで遠くなかった。というか、俺の家の近くだった。
「入って」
そう、その凛とした容姿で言われる。中に入ると、そこは広い空間だった。
そして、その中には様々な趣味の悪そうな道具が置いてあった。
首輪、鎖、鉄枷、木枷、鞭。校則椅子、磔台。
見れば見るほど、異様な部屋だ。
これを見た第一印象を言うと、趣味の悪い部屋だが、もっと言うと拷問部屋みたいだなと思った。
それか、SM部屋みたいな感じか。
「ねえ、この部屋どう思う???」
「拷問部屋だな」
「ふふ、そうよねそうよね」
あれ、テンションがおかしくなってないか?
「私ね、この部屋好きなんです。私の自由が侵されてる気がして。でも、私一人だと完全に自由を侵すことはできない。だからこそ、私はこの部屋にあなたを呼んだんです。私をあなたの奴隷とするために」
ちょっと整理したい。
興奮しすぎて白木さんの言葉選びがおかしくなってきている気がする。
クラスでは凛としている彼女がこんな変態だって?
本当に予想だに出来ない光景だ。
「それで、俺は何をしたらいい?」
「そうですね。ちょっと待っててくださいね」
そして奥に引っ込んでいった、白木さん。
なあ、これ帰っていいかな?
「お待たせ」
五分後彼女は戻って来た。下着姿になって。
胸の谷間がしっかりと見える。
「ん~~~~~~?」
まるで光景が分からない。
女子の下着姿なんて生まれて初めてだ。
記憶のなかでは母親のそれも見たことが無い。
「早速ね」
そう言って彼女はいつの間にかつけていた首枷の鎖を触る。
「私を拘束して」
俺はこの言葉に素直に従うべきなのだろうか。
今の白木さんの顔は真っ赤で、狂気に包まれている。
逆に俺が拘束されそうな勢いだ。
俺は唾を飲みこむ。
まさかあの手紙からこんなことになってしまうとは。
俺はここで断って帰るべきかもしれない。
ただ、俺だって男。クラスの美少女に、自分を好きにしていいと言われ、その権利を捨てて逃亡することなどできるだろうか。
出来る訳がない。
他の人にはこんな権利を持っていないのだ。
そんな権利を捨て去ることなんてできるだろうか、いや出来ない。
俺は「わ、分かった」それだけ言って、彼女の手足を拘束していく。
後ろ手に拘束する勇気はない。とりあえずは前手拘束だ。
それだけでなんと色っぽいのだろうか。
俺まで興奮してしまう。
いや、興奮しない男子なんている訳がない。
全思春期男子が恋焦がれる光景だろう。
「まずはね。そうですね。私をはたいて」
「はあ」
「早く」
そう言われ、俺はおずおずと彼女の頬に手を触れる。
女子の頬だ。
すると彼女が「はたいてください!!」そう強く言った。
俺は、覚悟を決めなければならない。
俺は仕方がないと思い、彼女の頬を軽くはたく。
「いいですね。でもこれじゃ、私の体を完全に拘束したとは言えない。だって、そうですよね。私は抵抗しようと思ったら抵抗できるもん。今度は完全な拘束を所望します。単純な後ろ手。これも面白くないですから、上からつるしてある鎖。あれに拘束具を連結させてください」
「は、はい」
俺には拒否権はない。俺は彼女の手かせを上からつるされている鎖へと連結した。
その瞬間彼女の手が引っ張られ、彼女はかかとたちになった。
「ああ、いいですね。これで私は抵抗できない。さあやって」
「ハイ!!」
俺のテンションもおかしくなってるのかもしれない。
だけど、やるしかない。
俺は幾度も幾度もビンタを加えた。
外に聞こえないか心配したが、白木さん曰く、この家は防音仕様ならしい。
なら大丈夫かと、安心した。
俺はもしかしたらドSだったのかもしれない。
思った以上にこの状況に悦びを感じている自分がいるのだ。
もはや俺は俺自身が分からなくなっている。
内なる自分の発芽。それが俺のおかれている状態なのだから。
そこから何分くらいたったのだろうか。
俺は無我夢中で彼女に暴力をし続け、互いに疲弊した。
「ああ、良かったわ。流石私のみ込んだ男ね、山村悟君」
「あ、ああ」
「楽しかった」
「こんなこと言ったら変態みたいだけど、とっても」
「ふふ、私たち、気が合いますね。それで、貴方さえよかったらでいいんだけど、明日からも付き合ってくれませんか」
ここは断るべきだ。これ以上危険な遊びに身を突っ込むべきではない。
それは、論理的には分かっていた。
だが、理屈ではない。感情論だ。
「ああ、望むところだ」
俺は気が付けばそう言っていた。
俺も俺自身がコントロールできなくなっていたのかもしれない。
そして彼女の家を出た。
「何だったんだ」
俺の手には今も白木さんをいたぶった感覚が残っている。
不思議だった。
女子に触れる事すらほとんどなかったのに、今は女子の体を堪能してしまっている。
今日は初日だったから、あまり刺激的じゃない行為を求めてきただろう。
つまり、明日からはもっとエスカレートしてくるだろう。
それにワクワクしている俺もいる。
そんなことを考えてたら、家に着いた。
家に入り、ソファに横たわる。
「はあ、濃い一日だった」
濃すぎる一日だ。
人生で一番濃かったかもしれない。
明日からが楽しみで仕方がない。
その時、俺のSNSにフォロー通知が来た。
そこにはマリリンと書いてある。
『はあ、今日はクラスメイトに責められて楽しかったわ』と、最新の投稿に書いてあった。
という事はこれは白木さんによる投稿か。
そして画像も張ってある。
俺の顔は絵文字で隠されている。ネットリテラシーにも配慮してくれているという事なのだろうか。
だが、この画像をどうやってとったのだろうか。
本当に気になるところだ。
そしてフォローバックすると、俺のところにDMが来た。
「悟君との画像だよ。もし、悟君が裏切ったらこの画像をネットにばらまきますね。そしたら絶対に、悟君は犯罪者ですね」
そう言ったワードと一緒に。
「私と地獄まで心中してくださいね♪」
「それは分かってますよ」
俺は別にこの関係を終わらせたいわけでは無い。
それに元々脅されてここに来ていると言ってもいいのだ。
しかし、一体どうして俺だったのだろう。そこが分からない。
俺の中にはSの才能があり、そこに気づいたからなのだろうか。
告白だったらいいなと思っていたら告白よりもすごいことになった。
なんだか今も信じられないな。
結局その日は早くに寝た。
疲れていたから。