表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愚者のダンス 〜命懸けの鬼ごっこ〜

作者: 深水晶

残酷な描写・表現があります。

「隆史、俺はお前に言ったよな?」


「……春臣さん」


 人影は春臣さん、俺の母の弟だった。俺は安堵する。


「人生ってのは、自分以外は全員他人だと知ることで、そうと知った上で相手と信頼関係築くのが、処世術だって」


 彼は無表情で淡々とした口調で言う。俺の知らない表情だ。


「どうしたの、急に」


 俺は、何も考えずに近付いた。

 春臣さんは唇に笑みを浮かべる。


「こうして見る分にはお前は変わってない。見かけは大人の男になったけど、俺にとっちゃ可愛い甥だ。だけど」


 春臣さんの目は、笑っていなかった。

 ドキリとした。


「俺はお前に色々教えたつもりだけど、一番肝心な事を教えてやらなかったんだよな」


「……春臣さん?」


 何故だ。

 何故だか判らないけれど、緊張する。


「生きていくのに必要なのは、覚悟と心構えと信頼だと言ったけど、他にもっと必要な事がある。だけどそれは人間として当然だと思っていたから、わざわざ口にしなかった」


 そう言って、春臣さんは俺を、コンクリートの壁に押し付けた。背中がひんやりと冷たい。


「何を……?」


 戸惑いながら、見上げた。


「人と信頼関係を築くにはな、コミュニケーションと相互理解が必要不可欠なんだよ。お前は、それが判っていない」


「何が言いたいんだ、春臣さん」


 ギラつき血走った目が鬼気迫っていて、脅えを感じてしまった。

 異常だ。


「一つ聞きたいんだけど、お前は今回まだ人を殺してないよな?」


 不意に全身が冷たくなった。

 何故。

 何故、春臣さんが知っている。


「俺は今回通算十回目の人生なんだよ。お前にはその意味が判る筈だよな?」


 ……まさか。


「やっとお前が何をやっていたのか判った。やっと見つけて捕まえた。もう、お前に人を殺させない。

 姉さんが悲しむ」


「春臣……さん」


 襟元を掴まれ、声が上擦った。


「大丈夫、一人では死なせないからな。俺が一緒に死んでやる。地獄の果てまで付き合ってやるから」


「待っ……!」


 腹に灼熱感が走り、激痛と共に血が溢れ出す。


「がぁあっ!」


 目の前がくらむ。

 足ががくりと折れ、バランス崩して宙を描く腕を掴まれ、更に壁に押し付けられて、えぐられ、傷を広げられる。


「すぐに楽にしてやるからな」


 笑顔で言う晴臣さん。


 やめてくれ。

 悲鳴は声にならなかった。

 喉を、頚動脈を掻き切られた。

 涙が溢れ、視界が歪み、世界が暗くなっていく。

 見ることも、話すこともできない。

 耳は激しいノイズ混じりだがかろうじて機能していた。


「これからは、お前が殺す前に、俺が殺してやるから」


 それは悪夢のような死刑宣告。


「お前に会ったら、すぐ殺してやるからな」


 それは、説明どころか弁明すらさせて貰えない、無慈悲で残酷な命を懸けた鬼ごっこの、一方的な開始宣言。


 何故。

 何故、俺を殺すんだ。

 何故、殺されなくてはならないんだ。

 説明も説得もない。


 春臣さんが笑って俺に、


「判っているよな」


 と言ったらゲームスタート。


 逃げなければ、問答無用で殺される。

 信頼関係を築くには、コミュニケーションと相互理解が必要不可欠だって言ったのは、春臣さんだろう?

 なのに俺にその機会は与えられないのか?


 無慈悲な慈愛に満ちた表情で、春臣さんは俺を殺す。


 刺殺、絞殺、溺死、撲殺。

 次はどんな方法で殺される?


 俺は脅え、ガタガタ震えながら生き、あがいている。


 俺は中途半端だ。

 狂人にも神にもなれない。

 気が狂えたら楽になれるのに、あくまで正気な凡人のままだ。

 そして、踊る。

 終りのない愚者のダンスを。

 果てなき迷宮、混迷の中で。


 誰か俺を助けてくれ。

 神が、悪魔がこの世にいるのなら。

 俺を救ってくれないのなら、どうか永遠に終らせてくれ。


「隆史」


 微笑みを浮かべて、彼が現れる。


「判っているよな」


 次のゲームの始まりだ。

 俺は逃げながら、心の中で叫ぶ。


 誰か、俺の声を、言葉を聞いてくれ。

 誰か、俺の存在に気付いてくれ。

 愛されなくて良い。

 救ってくれなくても良い。

 慰めはいらない。

 同情も愛情もいらない。

 ただ、この悪夢を終らせてくれ。


 泣いたりはしない。

 最近ようやくこの状況にも慣れてきた。

 逃げながら、冷静に考える。


 いつ、どのタイミングで反撃に転じよう。

 冷静さが必要だ。

 牙を向くその瞬間までは、憐れな子羊を演じてやる。

 最高のタイミング、最高のシチュエーションで、反撃する。

 一撃で仕留める。

 工藤とやった時を思い出せ。

 失敗したのは、一撃で致命傷を負わせられなかったあの時だけだ。

 二度目はない。

 攻守転じる絶好の機会を逃すな。

 愚者はダンスを踊り続ける。

 その生命、命運、人生が終焉を告げるその時までは。



――The End.

既に削除済みの「愚者のダンス」の最終話として書いていたものです。

タイムリープものの「悪夢の夜 希望の夜明け」主人公工藤の恋人をストーカーして殺しては自殺→またストーカーして殺害を繰り返していた青年が今作の主人公。


容姿も才能も家庭環境も普通だったのに、何故か突然タイムリープできるようになり、俺だけやり直せるなら最強じゃね?と調子に乗ったがために、狂ってないのに狂人のようになってしまった哀れな人。

中身はヤバイ人でもあります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ