第三章:橘神社
すでに学校の終わりを告げるチャイムが鳴り響いていた。
花音と雅恵は図書室で向かい合い、その日の復習に取り組んでいた。
一方、美月はバレー部の練習に参加しており、汗を流している頃だろう。
花音「ちょっとごめんね、お手洗いに行ってくるね」
彼女が立ち上がる。
復習もほぼ終わりかけていたところだった。
雅恵「うん、わかった」
頷きながら、手元の資料に視線を落としたまま答える。
女子トイレから出た花音は、ちょうど明が二つの箱と大量の書類を苦労しながら運んでいる場面に出くわした。
花音「橘くん、手伝おうか?」
明「わっ、宮島さん。全然気づかなかった。ありがとう。もしよければ、この書類だけでも持ってもらえると助かるんだけど」
花音「もちろん、任せて」
花音は箱の上に積まれた書類を受け取り、明の負担を軽くした。
そのおかげで、彼は少しだけ楽に歩けるようになり、廊下に書類が散らばる心配もなくなった。
二人は並んで書類と箱を事務室まで運び、先生から感謝の言葉を受けた。
明「手伝ってくれてありがとう」
花音「そんな、大したことじゃないよ。どういたしまして」
ふと明が、静まり返った廊下をきょろきょろと見回す。
その表情には、緊張が浮かんでいた。
普段は飄々としている彼が、言葉を慎重に選んでいる姿は珍しかった。
花音の腕に鳥肌が立ち、背筋を冷たい悪寒が駆け抜けた。
花音「ごめん、この学校、ちょっとおかしくない? この変な臭い……何?」
明「……僕には特に何も臭わないけど」
彼は、そう言って微笑んだ。
だが、それは嘘だった。
花音をこれ以上不安にさせたくなかったのだ。
明「もしよかったら、今度うちの神社に来てほしいんだ。贈りたいものがあって」
花音「え? 橘くんの家族、神社やってるの?」
明「うん、橘神社っていうんだ。ちょっと山を登ったところにあるんだけど、雅恵さんも場所を知っている。感謝の気持ちで、お守りを渡したくてね」
花音「それは嬉しいね。じゃあ今度、まさちゃんに場所を教えてもらって、行ってみるよ」
明「それならよかった。……じゃあ、またね」
二人はその場で別れ、花音は明がなぜ急にお守りを渡したがっているのかを考えながら、図書室へ戻った。
花音「ごめん、遅くなっちゃった。橘くんの荷物を運ぶの手伝ってたの」
雅恵「全然平気だよ。もう終わったし、準備できたら帰ろう」
花音「うん、わかった!」
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復習を終え、リュックをまとめた二人は校舎を後にした。
途中で体育館を覗くと、まだバレー部の練習は続いていた。
中では、美月が真剣な表情でスパイクの練習に打ち込んでいた。
隣には部長の白石菫の姿もあり、赤茶色のポニーテールが跳ねるたびに、空気を切るような音が響いていた。
美月が二人に気づき、軽く駆け寄ってくる。
美月「もうちょっと練習が続くから、先に帰っていいよ。もうすぐ大事な試合があるからね。」
雅恵「分かった! じゃあ、また明日ね」
二人は美月に手を振り、校門をあとにした。
帰り道、花音は明とのやり取りについて雅恵に話した。
雅恵「ああ、橘神社なら、あそこだよ」
山の上に見える大きな鳥居を指差す。
雅恵「あそこに行くには、急な石段を登るか、遠回りだけど道路沿いの道を使うかだね。階段はすごくきついけど……一度だけ登ったことあるよ」
険しい石段を見上げ、一瞬たじろいだものの、すぐに顔を引き締めた。
花音(週末には必ず行こう)
その前に、明に連絡を取り、神社にいることを確認しておくつもりだった。
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日曜日、花音は一人で街を歩いた。
本当は雅恵も一緒に来る予定だったのだが、宿題をサボった罰として、お母さんに外出を止められてしまったらしい。
学校から離れ、山の方へと足を進めながら、花音は神社へ続く石段を探していた。
けれど、何度も曲がり角を間違えるうちに、気がつけば自分がどこにいるのかわからなくなっていた。
そんなときだった。
景色に見とれながら道を渡ろうとした花音は、近づいてくるエンジン音に気づかず、スマホを取り出して地図アプリを開こうとした瞬間、
キィィィィッ!
突然のブレーキ音に、花音の足が止まった。
「うわっ……!」
驚きの声とともに、目の前には原付にまたがった少年の姿があった。
花音と目が合い、その顔を見て彼女は息を呑んだ。
優夜「宮島さん?」
花音「深野くん?」
目の前にいたのは、間違いなく優夜だった。
彼の原付の前に、花音は飛び出してしまっていたのだ。
ヘルメットを被った彼は、いつもと違って少し大人びて見えた。
灰黒色の原付に乗っている姿を見るのは、花音にとって初めてだった。
優夜「大丈夫?」
花音「うん、怪我はないよ。でも、道に迷っちゃって……」
困ったように視線を落とした。
優夜「迷った? どこに行こうとしてたの?」
花音「橘神社に行きたいんだけど、石段が見つけられなくて……」
優夜「送っていこうか? 実は今、家に帰るところだけど、特に急ぎの用事もないし。」
花音「本当? ありがとう。でも、なんか悪い気がする……」
優夜「気にしないで。さあ、乗って」
自分のヘルメットを外し、差し出した。
どうすればいいのか分からず花音は、ヘルメットを被って、戸惑いながら後ろに乗った。
優夜「さあ、しっかりつかまって」
肩越しに振り返って言う。
花音「……どこに?」
とぼけたように小声で問い返すと、
彼は前を向いたまま、簡潔に答えた。
優夜「僕にだよ」
花音は少し恥ずかしそうに、彼の背中にそっと手を置いた。
だが、原付が動き出した瞬間、思わずバランスを崩し、慌ててしっかりと腕を回す。
カーブの多い山道を走り抜け、原付はやがて神社の駐車場に到着した。
ヘルメットを返し、優夜と残りの道を歩いて進むことにした。
神社の敷地に足を踏み入れると、その広さと美しい景観に、花音は思わず息を呑んだ。
辺りは静寂に包まれ、心が落ち着いていくのを感じる。
ふと道の先に、祈りを終えたばかりらしい年配の女性が歩いてくるのが見えた。
灰色の髪をきちんとまとめたその女性は、花音たちに優しく微笑みかける。
花音も軽く頭を下げて挨拶を返した。
優夜「ここで何をするつもりなの?」
花音「前から一度、来てみたいと思ってたの。それに、橘くんがお守りをくれるって言ってたから」
優夜「橘家は代々この神社の神主なんだ。だから橘も、妖怪とかそういうのを信じてる。変なこと言っても、驚かないであげて。そういう環境で育ったんだからさ」
本屋での出来事を思い出しながら、花音は頷いた。
しばらくして、境内の一角で明と出会った。
雅恵ではなく優夜と来た花音を見て、明は少し驚いた表情を見せた。
花音「まさちゃんは宿題があるから来られなかったの」
明「そうなんだ」
それ以上は何も聞かず、明は話題を変えた。
明「これを渡したかったんだ」
そう言って、彼は花音に小さな布袋を差し出す。
丁寧な刺繍が施された、美しいお守りだった。
花音「ありがとう……すごく綺麗」
明「これはお守りだよ。悪霊とか、悪いものから守ってくれる」
それを持っているだけで、安全が約束されるってこと。
明は少し照れくさそうに、髪をかき上げながら目を逸らした。
明「で、深野は? 君もお守りが欲しいの?」
優夜「うん、もちろん欲しい。悪い?」
明「よし」
小さく笑って、優夜にもお守りを手渡す。
そして、表情を引き締めて言った。
明「それで、お代は2800円ね」
優夜「えっ?! くそ……お前んとこ、そんなに高いの忘れてたよ……」
優夜はぼやきながら財布を取り出し、しぶしぶ支払いを済ませる。
明「安全には代償がつきものだからね。ああ、宮島さんのお守りは、この前手伝ってくれたお礼としての贈り物だから、もちろん無料だよ」
優夜は舌打ちをしながら釣り銭を受け取り、それをポケットにしまうと二人と共に駐車場へと戻った。
帰り道、彼はずっとお守りの値段について文句を言い続けていた。
優夜「これで悪霊一体も追い払えなかったら、絶対返金な」
その一言に、花音は小さく笑った。
断ればよかっただけなのに、結局は買ってしまうところが、いかにも優夜らしい。
もしかしたら、彼も少しはそういう存在を信じているのかもしれない。
自分のお守りを見つめながら考えた。
花音(……このお守り、白石さんからも、守ってくれるのかな)
彼女は、これまで出会った中で唯一、「悪」と呼べる存在だった。
ふと隣を見ると、優夜が自分のお守りをキーホルダーに取り付けているのが目に入った。
花音(家まで送ってもらうべきだろうか。それとも、それは甘えすぎ?)
文化祭以来、彼とはいい関係を築いてきたけれど、友達としての距離感がまだよくわからなくて、少し戸惑っていた。
すると、優夜がヘルメットを差し出してきた。
優夜「家まで送っていこうか?」
花音「迷惑になりたくないから、大丈夫。一人で帰るよ。少し散歩したいし。天気もいいしね」
優夜「迷惑じゃないよ。じゃあ、帰る前にちょっと寄り道しようか。いいところ、知ってるんだ。乗って」
花音は少し迷ったものの、彼の申し出に小さく頷いた。
花音「わかった。ありがとう」
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原付が発進すると、花音は思わずぎゅっと優夜にしがみついた。
住宅街を抜け、家が遠のくころ、優夜は原付を止めた。
そこは草に囲まれた、小さな自然の駐車場だった。
ヘルメットを外し、辺りを見渡す。
花音「ここって、どこ?」
優夜「僕のお気に入りの場所を見せてあげる」
そう言って、彼女を土の小道へと導いた。
岩のアーチの向こうに、川が流れていた。
自然で美しい風景だった。
道は次第に狭くなり、川にはところどころに石や板が置かれ、それを伝って向こう岸へ渡れるようになっている。
花音が慎重に渡ろうとすると、足元を滑らせそうになった。
しかし、
彼がすかさず手を差し伸べ、しっかりと支えてくれた。
優夜「大丈夫?」
花音「大丈夫だよ。ちょっとびっくりしちゃっただけ」
森の中は、木々が曲がりくねり、根が地面から隆起している。
二人はそれを避けながら、水音を背に歩いていった。
やがて、小さな滝が段々になって流れ落ちる場所に辿り着いた。
水は深く、緩やかに揺れていた。
滝の音と、虫の声、
それ以外は何も聞こえない。
優夜「夏にはここで友達と水遊びするんだ。でも、今はちょっと寒いね。木が多いから、水も冷たいままなんだ」
再び川を渡った先には、岩壁に沿って作られた木造の展望台があった。
階段を上ると、谷全体を見下ろせる絶景が広がっていた。
そこには屋根付きのパビリオン、テーブル、ベンチ、そして古びた遊具もあった。
ジャングルジムには「のぼらないで!」のテープが巻いてあった。
使えそうなのは、かろうじてブランコと滑り台だけだった。
その場所に足を踏み入れた瞬間、
ひやりとした風が花音の頬をかすめた。
季節外れの冷気に、思わず腕を抱く。
ただの風のはずなのに、その感覚は肌にひんやりと残り続けた。
優夜「ここには、あんまり人が来ないんだ。一人になりたいときにちょうどいいんだよ」
彼が周囲を見渡しながら言うその声の裏で、花音の耳に聞こえた。
ブランコの鎖が、かすかに揺れる音。
風は止んでいる。
誰もいないはずなのに。
花音「本当に素敵な場所だね。ちょっと怖いけど、信じられないくらい綺麗」
そう口にすることで、不安な気持ちを打ち消そうとした。
……けれど、その冷たい感覚だけは、なぜか消えてくれなかった。
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気づけば、花音は再び優夜の原付の後ろに座っていた。
左右に流れていく街並みの中、前を見れば、風に揺れる優夜の黒髪があった。
優夜「どっちに行けばいい?」
軽く後ろを振り返って尋ねた。
花音「ここからだとよく分からないけど、学校からなら分かるよ」
優夜「了解。じゃあ、学校の方に向かおう」
花音は見覚えのある道を頼りに、家までの道順を教えた。
家に着くと、優夜は原付を止めて、花音が降りるのを待った。
優夜「じゃあ、また明日、学校でね」
花音「うん、また明日! 今日は本当にありがとう」
ヘルメットを被り直した彼が、冗談めかして言った。
優夜「僕がヘルメットなしで運転してたことは、母ちゃんにはナイショだよ」
彼のウインクに、花音は思わず笑いながら頷いた。
エンジン音が遠ざかり、角を曲がって見えなくなるまで、花音は手を振り続けた。
家に戻った彼女は、そのまま自分の部屋へ。
隣の家から聞こえてきたのは、雅恵の声だった。
窓辺に近づき、そっと窓を開ける。
二人の部屋の窓はすぐ近く、手を伸ばせば届きそうな距離。
雅恵「おかえり! 今日はどうだった?」
花音は窓枠にもたれながら、お守りを取り出して微笑んだ。
花音「これ、見て。橘くんからもらったの」
小さな白いお守りを雅恵に見せた。
花音「綺麗でしょ? 厄除けのお守りなんだって。白石さんにも効くかな?」
そう言って笑うと、雅恵もくすっと笑って返す。
雅恵「いや、あの女には厄除けどころか本物の祓いが必要じゃん。地獄に送り返すやつ」
花音は苦笑しながらも頷いた。
雅恵「でもさ、さっきユウが送ってくれたんじゃない?」
いたずらっぽい表情を浮かべて尋ねる。
花音「うん、途中で深野くんに会って、迷子になってたから助けてもらったの」
そう答えると、雅恵はニヤリと笑って言った。
雅恵「ふーん。二人、いい感じじゃん」
花音「そんなんじゃないよ。ただの友達だってば」
窓から吹き込む夕風が、二人の髪をそっと揺らした。
夜の帳が降りるまで、窓越しにたわいない話を続けた。
最後に花音が「おやすみ」と告げ、窓を閉め、自分のベッドへと潜り込んだ。
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週末の夕方、花音は西村家を訪れていた。
三人はリビングで映画鑑賞を楽しむ予定だった。
テーブルの上には、雅恵が用意した大きなボウルいっぱいのポテトチップス。
花音とヒロは既にソファに座り、くつろいだ様子で準備万端。
雅恵がリモコンで再生を押すと、恐怖映画が始まった。
花音は開始早々、雅恵の手をぎゅっと握りしめる。
花音「怖いよね……」
雅恵「うちだって怖いってば」
そう言いながら、ブランケットを肩に引き寄せ、怖いシーンのたびに隠れた。
怯えた目だけが、ブランケットから覗いている。
ヒロは映画に集中しつつ、怖がる二人を面白がっていた。
ヒロ「おいおい、そんなに怯えてどうすんだよ。これ、ただの作り物だぞ」
どこか楽しそうに微笑んでいた。
雅恵は、映画を見続けるよりもましだと思って、隣の大きな窓の外を見た。
しかし、次の瞬間、パニックの叫び声がヒロをも驚かせた。
窓の向こうに、ふと人影のようなものが動いた気がしていた。
雅恵「ちょ、やばいってば……今、外に……!」
完全にブランケットの下に隠れながら叫ぶ雅恵に、花音もつられて潜り込む。
ヒロはため息をつきつつ、立ち上がってカーテンを少し開けた。
ヒロ「誰もいないって。映画の見すぎだろ」
雅恵「いや、ほんとにいたんだって! 庭に誰かいた!」
花音「そんなこと言わないでよ、まさちゃん……怖くなっちゃうじゃん」
外をしばらく眺めた。
ヒロ「誰もいない。多分、猫とかだろ」
その日、映画の続きが再生されることはなかった。
ヒロ「もう今日はホラーは十分だな」
花音「ほんとだね。次はもっと楽しいのにしようよ」
雅恵「うちももう怖いのは嫌。違うことしよ、怖くないやつね」
そう言いながら、彼女は何度も窓の外を気にしていた。
気分を変えようと、花音が提案する。
花音「トランプでもしない?」
雅恵「いいね、それやろう!」
雅恵が棚からカードを取り出し、シャッフルする間、三人の間に流れる空気が少しずつやわらいでいった。
やがて帰りの時間になった。
雅恵「気をつけて帰ってね!」
玄関で言う。
ヒロも手を振って見送った。
ヒロ「何かあったらすぐ戻ってこいよな」
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花音は一人で帰り道を歩いていた。
ほんの短い距離なのに、やけに長く感じられる。
映画の恐怖がまだ心に残っているせいだろうか。
ちらつく街灯、茂みの中から聞こえる小さな音。
そのたびに足を止めてしまい、「誰もいないよね……」と、自分に言い聞かせながら歩き続けた。
いつの間にか、花音の足は自然と速くなっていた。
花音(ただ無事に帰りたい)
それだけを思っていた。
と、そのとき。
――グルルル……
低く響く唸り声が耳に届いた。
次の瞬間、鼻を突くような不快な臭いが漂ってくる。
花音「うっ……!」
思わず鼻をつまんで、音のした方へ視線を向けた。
その場に立ち尽くした。
恐怖と驚きで身体が動かない。
そこで目にした光景に、息を呑む。
屋根から屋根へと、まるで風のように飛び移る人影は、神主のような格好をした少年だった。
手には笏を握り、どこか異国の言葉で祈りを唱えている。
背中には紙垂をつけた神具を背負っていた。
さらに、その向こうの屋根には、紫色の袴を纏った女性が立っていた。
濃い紫と対照的に、彼女の髪は淡いパステルカラー。
美しく結い上げられたその髪型は、まるで古の姫君のようだった。
花音「な、に……あれ……?」
鼓動が激しくなる中、ようやく意を決して抜け出した。
家まで一気に駆け抜けると、階段を駆け上がり、自室の電気をつけた。
そのとき、窓の外から声が聞こえてきた。
雅恵「のんちゃん! やっと帰ってきたじゃん! なんでこんなに時間かかったの?」
花音「ご、ごめんね……」
息を切らしながら答えるも、あの奇妙な光景については一言も口にしなかった。
雅恵を心配させたくなかったのだ。
花音「今日は……もう寝よっか」
雅恵「うん。おやすみ」
窓を閉めると、花音はベッドに腰を下ろし、大きく深呼吸した。
心の中は、映画のシーン、屋根の上の人影、自分の動揺でごちゃごちゃだった。
あの神主のような少年と、姫のような女性の姿が、何度も脳裏をよぎる。
現実感が薄れていく。
花音「……あれって、本当に現実だったのかな? 夢だったのかも……でも、あんなにリアルで……」
自然と視線が、机の棚に置かれた一冊の絵本に向かう。
花音「あの女の人は知らないけど……神主っぽい人、なんか……橘くんに似てた気がする」
そう呟きながらも、目は絵本から離れない。
なぜか無性に気になって、花音は手を伸ばした。
花音「『三人の妖怪と花町村』……」
タイトルを口にしながら、無意識のうちにページを開いていた。
花音「ずっとここにあったのに……なんで読まなかったんだろ……」
めくったページに描かれた世界に、彼女の目は自然と引き込まれていった。
何なのかは分からなかった。
でも確かに、心の奥がざわめいていた。
そして、花音は物語を読み始める。
花音「昔々、花町という美しい桜の花に囲まれた小さな村がありました。この村には、人々と共に、さまざまな妖怪が暮らしていました……」
物語には、友好的な狐、いたずら好きな狸、内気な天狗が登場した。
ある日、妖怪たちは森のはずれで一冊の古い本を見つける。
興味津々で近づくが、書かれている文字が読めない。
それで、彼らは森の奥に住んでる物知りフクロウに、助けを求めることにした。
フクロウは優しく迎えてくれて、本を開いて話し始めた。
花町村に迫る、恐ろしい竜の伝説を。
妖怪たちは村を守るために、戦うことに決めた。
天狗が翼を使って竜の注意をそらしている間に、狐と狸が協力して攻撃を仕掛けた。
激しい戦いの末、ついに竜は打ち負かされ、その強さと勇気を認めた。
村では盛大な祭りが開かれ、妖怪たちは英雄として讃えられる。
彼らは、その古い本を村に寄贈し、次の世代に妖怪たちの文化を伝えるようにした。
その祭りは、今でも毎年続いているってこと。
――そして物語の最後には、こう書かれていた。
花音「もし花町村を訪れることがあれば、よく目を凝らしてみてください。桜の木陰で踊る三人の妖怪を見たり、風に乗って笑い声が聞こえたりするかもしれません」
キャラクター紹介 003
西村 雅恵
誕生日: 12月1日(16歳)
所属: ○○高校 2年1組
身長: 158cm
血液型: B型
兄弟姉妹: 双子の弟(同い年・高校2年生)
趣味: 好きな歌手のマーチャンダイズ収集
性格:
言いたいことはハッキリ言う負けず嫌い。内心では誰よりも努力家。
普段は底抜けに明るくエネルギッシュ。好奇心も人一倍強い。
率直な物言いの裏側には、人一倍繊細で傷つきやすい心を隠している。
備考:
♢ 昔は水泳部だったが、1年前に突然退部。理由は語らないが白石菫に関係しているらしい。
♢ 堂々としていて周囲に流されない。好き嫌いが態度に出やすい。
♢ 無鉄砲で、無頓着さがしばしばトラブルを招く。
♢ 思ったことをすぐ口にしてしまい、自分でも面倒を呼ぶと分かっていても止められない。