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【連載版】婚約破棄にはざまぁを添えて  作者: 彩戸ゆめ


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第23話 森の活用

「宮廷内の研究機関というのは一体なんでしょうか」


 王子妃教育でも、そんな機関があるというのは聞いていない。もしかして新設されたのだろうか。


 母は父からもう少し詳細に話を聞いているのか、詳しく説明してくれた。


 どうやらクラリッサの事件にも関わる違法魔法道具の捜査や、今後の管理体制を整えるために、新たに研究機関を設けたのだとか。


 多分、私がクラリッサを追い詰めるために色々と調べたのを評価してくれたのだろう。


「お申し出はありがたいですけど、しばらくは領地にいたいと思います」


 有能な王太子殿下に能力を認められたのはとても嬉しいけれど、当分は王都へ戻りたくない。

 母もそれが分かっているので、王太子の要請に応じなくてもいいと言ってくれた。


 やがて使用人が夕食の支度ができたと告げに来たので、私たちは席を立ち、食堂から広間へと移動する。


 そこには地元で採れた野菜を中心に、鶏のローストや香草を混ぜ込んだスープなどが並んでいて、どれも美味しそうだ。


「お嬢様、お帰りなさいませ。今日もたくさんお疲れでしょうから、召し上がってくださいませ」

「ありがとう、楽しみにしていたわ」


 母と共にテーブルについて、和やかに夕食を楽しむ。

 そして食事の合間合間に、再び今日の出来事や、明日の計画などを語り合った。


 王都の華やかな晩餐会とは違い、ここには地に足のついた温かさがある。

 私たちは談笑に花を咲かせ、気づけば夜も更けかけていた。


 夕食を終え、それぞれが自室へ戻る。

 私は、少しだけ中庭を散策したい気分になった。


 手提げのランプを手に石畳の敷かれた庭を歩くと、夜風が頬を冷やし頭が冴えていく。

 見上げれば、王都ではお目にかかれない数の星々が瞬いている。


「綺麗……」


 そう小さくつぶやいた瞬間、まるで星の海に飲み込まれるような錯覚を覚えた。


 広大な夜空と、暗闇の中で仄かに照らされる城の塔のシルエット。

 昼間は賑やかに作業していた庭園も、夜の静寂に包まれると幻想的な趣がある。


 胸に手を当てて、今日の出来事を振り返る。


 王都を出てからまだ二日目だけれど、私の心は、もうずいぶん前からこの領地にあったようにも思える。


 学園で学んだことが、今まさに芽吹こうとしているのだと感じられるからだ。


「これからが本当の意味での始まりなんだわ」


 夜空に向かってそっと呟く。

 明日もまた新たな発見と課題が待っているだろう。


 心の奥底に灯った希望の炎が赤く燃え上がるのを感じる。

 きっと、これまでの苦しみや悔しさも、その炎の燃料になっているのだろう。


 私は目を閉じ、そっと呼吸を整えた。







 翌朝、また一段と早い時間に目を覚ました。

 窓の外はまだ薄暗く、東の空が少し赤みを帯びている。


 しかし昨日の視察で得た課題を少しでも整理したいという思いがあって、体が自然に動いていた。


 この日も朝食を簡単に済ませると、私は再び愛馬ソレイユに乗って領地へ出かけた。


 今度は昨日とは逆方向の森のほうへ向かう。


 そしてルイスだけでなく、別の領地管理担当の女性、セシリアも同行してくれた。

 彼女は薬草や森林資源に詳しく、領内の森の管轄を任されているらしい。


「お嬢様、今日はよろしくお願いいたします。森の案内ならお任せください」

「ありがとう、セシリア。私のことはルイスと同じように、リリアと呼んでください。私も薬草や林業について興味があるの。いろいろ教えてくれると嬉しいわ」


 そう言い合って笑う。セシリアは二十代半ばぐらいだろうか。


 きりっとした目元と落ち着いた物腰が印象的で、領地の女性官吏としては貴重な存在だと聞いていた。


 彼女のように知識と行動力を兼ね備えた人がいるなら、森林資源の開発や薬草の研究も期待できそうだ。


 三人で馬を軽く走らせて森の入り口へ向かう。


 そこには管理小屋があり、セシリアの部下らしき男性たちが待機していた。

 皆、森林をパトロールしながら違法伐採や動物被害などをチェックしているらしい。


「リリア様、ここの森では近年、薬草やキノコの収穫量が増えているんです。ただ、どれが希少種なのか判別できずに摘み取ってしまう人がいるようで……。保護と利用のバランスが難しくて悩んでいます」


 セシリアは少し困ったように口をへの字に曲げる。


 学園で習った内容の中には「希少動植物の保護と持続的利用」という単元もあった。


 森林資源を守りつつ経済活動を回すためには、専門知識をもった担当者が必要なのだ。


「それなら、いっそ村ごとに採取許可制を導入するのはどうかしら? 保護すべき区域を定めて、期間や量を制限するとか。もちろん、それを管理する人材や仕組みも大変だけれど……」


「なるほど、それは考えたことがありませんでした。確かに、森の把握は意外と進んでいないので、しっかり調査した上で許可制を導入すれば混乱も少なくなるかもしれません」


 セシリアが真剣にメモを取り始める。


 私も少し緊張しながら、学園で読んだ事例を思い出す。

 実際の運用では様々な課題があるはずだが、何もしないよりは良いはずだ。


もしも「面白かった」「続きが気になる」などと思って頂けましたら、

広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします!


いつも誤字報告をしてくださってありがとうございます。

感謝しております(*´꒳`*)

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