第2話 ワタワタ
_無事に学校に着けた翌日。
「あっ、コレ返さないと」
私は昨日、同じ学校の人に借りた?洗濯済みのバスタオルを鞄に仕舞う。それと、新品で似たようなバスタオルも仕舞った。
「うん。これで大丈夫な筈」
スタスタと玄関に向かう。
(出る時間が昨日より遅めだけど…会えるかな?同じ電車だし…まぁ、行ってみるしか…)
「行ってきま〜す」
「いってらっしゃい」
_駅のホーム
スッと周りを見渡すが、あの少女は居無い。
(学校でなら、ワンチャン会えるかな?)
❁
午前の授業は少女は見当たらなかった。だからこそだろうか。ただただ普通で安心していた。
それが、急変したのは午後の授業。
「〜〜〜〜を〜〜〜する事で」
昼食後の5限目は数学だ。しかし、教師が何を説明しているのだが、あまり分からなかった。
(う〜〜〜ん…?この式を…あれ?)
授業終わりまで、黒板やノートとにらめっこしていた。
「七菜ちゃん〜!コレ分かった?私は全然分かんなくて!」
クラスメイトの花音の声で心臓が速くなる。
「わ、たしも、分からなかったよ…」
片言とも聞き取れる言葉に花音は怪訝そうな顔をする。
(か、顔が熱いし…足が冷たい…!え、演じなきゃ…『私』を演じれば、この不安が消し飛ぶ!!!)
「び、びっくりしちゃって、変な声になっちゃったよ〜。も〜う、責任取ってよね!」
軽く茶化す。これが『私』。明るくてお調子者のムードメーカー。暗くて周りの目を気にする私では無い。変わらず足は冷たいが、顔の火照りは無くなる。
「あははっ、ごめんごめん」
ケタケタと笑う花音。
(良かった…演じられた…)
「次は初の体育だね!しかも、実技。最悪だよ〜」
「分かる!」
軽く話しながら、グラウンドに向かった。
❁
今回は初の体育の実技な為、親睦を深めると言う理由でサッカーをする事だ。
2試合くらいやったが、私が入ったチームはボロ負けだった。
「ボールは負けたチームが片付ける様に。では、これで終わりです」
「「「ありがとうございました」」」
(やっと、1日が終わった…)
「サッカーボール、片付けるのメンドイなぁ」
「分かる!」
(あ、なら私が片付けようかな…でも、私なんかがそれを言って良いのかな…?でも…)
勇気を振り絞り声を出す。
「じゃあ、動き足りなかった私が行ってあげるよ!」
大嘘をつく。本当は足も体も心もヘトヘトだ。
「ホント!?ありがとう、七菜さま〜!」
「どういたしまして!」
サッカーボールを持ち上げ、校舎裏にある倉庫に向かう。
(あんな感じで良かったかな…?変に思われて無いかな…?凄く不安…)
「〜〜〜〜」
倉庫の近くから声がする。
(ん?何だろう?声がする…?)
こっそりと校舎の壁から半身を乗り出し、覗く。
「お〜ほっほ」
猫背だし、か細い声だしで何をやっているかあまり分からないが多分、高笑いの練習?だろう。
(もっと背筋を伸ばして、声を張ればそれっぽくなると思うけど…口出ししたら怒られるよね…。それでも、これは片付けないと…)
サッカーボールを片付ける為にソロソロと倉庫に近付く。
「あっ…!」
思わず声が出てしまった。
(昨日、私にバスタオルを被せてくれた子だ!!)
腰上まで伸びたストレートの臙脂色の髪に、蜜柑色の瞳、俯いた顔。
「あ、昨日の…」
あちらも気づいたらしく、練習?を一旦止める。
(あ…邪魔しちゃった…!お、怒られる!!!)
ギュッと目を瞑り、叱られるのを待つ。
「大丈夫でしたか?」
「え?」
思わぬ声掛けに驚く。
「だ、大丈夫、です…?」
いきなり言われたので、『私』を演じる事を忘れ、素直に答える。
「良かったです。汗拭きタオルにと思って、ネット通販で買ったら思った以上に大きいタオルで…。あ、使って無いですよ!下ろし立ての新品ですから」
ワタワタと無意味に両手を動かしている。
「あっ、タオルを返しますね。バックに仕舞ってあるので…。き、気持ち悪いでしょうから、新しいのでも…」
「いえいえ、可愛らしい貴方が使ったタオルなら、気にしないです…。あ、変態とかじゃないので…警戒しないで…いや、これも変態が言う事だよね…!」
「あのぅ、落ち着いて…」
会話が一向に進まない。
だが、『私』を演じて無いのに、足の冷たさだけで顔が火照らないし、胃の不快感も無い。何と言うか…こう、安心感があった。
結局、タオルを被せてくれた子が誰なのかは書けなかった…。それと、その子の『変態か?』って思うかもしれないくらいの発言は、気にしている七菜を慮って言いました。後は普通にテンパった。
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