6.超回復ショタの身体強化って響きは犯罪じゃないかな
ふわっと優しい風が俺の手から溢れ出す。
「うーん……」
魔力の操作を教えてもらってから数日、俺は今日も庭で身体強化の練習をしながら頭を抱えていた、メイド服で……。
俺の体質的な問題なのか他に原因があるのかは現状ご主人様にもわからないということなのだが、魔力を循環させるために操作を行うと、そのまま魔力が魔法として放出されてしまうのだ。
風を起こす力の加減ばかり上手になっている気がするが、このままでは身体強化が上手くいきそうにないのだ。
「そもそも……なんで魔力を循環させたら身体能力があがるんだろう……」
魔力を体内に巡らすことが目的であるのであれば……。
身体から漏れ出してしまう魔力が魔法となる前に、もう一度身体の中に押し込めば循環するのではないだろうか……。
身体の正面で両掌を合わせて腕に向けて体内の魔力を流し込み風となる前に、もう一度体内に……。
「うわっ?!」
ぶわっ! と風が起こり俺の両手が弾かれる。
これは中々難しそうだ……。
三日後の朝。
俺は朝食の用意中に初めて包丁で指を切ってしまった。
「……流石にこのまま料理はマズイよなぁ……」
ご主人様に伝えたら大騒ぎしそうだけれども、治療のための道具がどこにしまわれているのか教わった記憶がないため、一度ご主人様を起こすしかないか……。
俺が渋々ご主人様を起こしに行くと案の定ご主人様は大騒ぎだった。
「ルルルルルルルイくん!?! 可愛いお指っ! 血が出てるよ?! 何があったの?! 敵襲? 死なないでーっ!」
「ちょっと切っただけなので大丈夫だと思うんですけれど、薬箱みたいなものってあります?」
「回復薬ならすぐに出せるよ! 魔法の鞄の中に大人買いしてあるからね!」
「勿体ないですよ……さてはご主人様回復薬だよりで、薬箱用意してないんですね……冒険者の人たちってそういうところ抜けちゃうんですかねぇ……」
……あまり行儀はよくないけれど、どうせ勝手に洗浄される汚れしらずのメイド服なので、メイド服で血を拭ってしまおう……ってあれ?
血を拭うと既に血が止まり、傷が塞がりかけていた。
「ご主人様、申し訳ありません、思ったより傷が深くなかったのか既に血が止まっていたようです」
「流石私のルイくん、超回復ショタ……だねぇ……」
「ショタ……?傷が浅かったみたいですよ、朝食の用意がもうすぐ終わるのでリビングで待っていますね。あ、あと頂いている生活費で薬箱というか、簡単な治療ぐらいはできるものを買っておいていいですか?」
「もちろんだよ~! 生活費と言わず着服してくれたっていいんだよ! ルイくんっ!」
「しませんよ……」
なんてことを言うんだご主人様は……。
その後ご主人様は朝食を食べた後いつも通り俺と剣の打ち合いを行い、俺に対して愛を叫びながら迷宮へ向かっていった。
飽きないのかな、飽きないんだろうな……。
晩御飯の買い出しなどを済ませた後俺は庭でに腰を下ろし身体強化について考えていた。
ここ数日ほどで魔力が放出しない方法がないか試してみてわかったことはいくつかある。
魔力の方向を指定せずに魔力を流すと身体の正面に風が起きる。
手足や背中などに意識を向けることで風を起こす方向を指定することもできる。
「普通の人は魔力が放出できないって聞くとそっちの方が楽なんじゃないかって思えちゃうよなぁ~」
一般的には魔法の方が貴重なことはわかっているのだが思わず愚痴がこぼれる。
座っていた姿勢からそのまま仰向けに身体を倒す。
「うわっ眩しい」
奴隷になってから室内の教育が多かった影響か、太陽光が前より眩しく感じる気がするんだよな…。
左手で太陽光を遮ると今朝切った指先が目に映った。
「もう治ってる……」
まぁ小さい傷ならそんなこともあるの……かな……?瘡蓋とかになら……!
「それだ! 」
ガバっと身体を起こして、流そうとしていた魔力を腕に集める。
「おぉ……」
魔力が放出されずに手の先に集まっているのを感じる。
集まっている魔力を蓋にして、今までのように体内で魔力を循環させると……。
手の先に集まっている魔力にぶつかり、混ざることも放出されることもない魔力は体内で循環を始める……。
「でき……たのか……?」
魔力の循環を行っている状態で軽く走り回ってみると、少しの力でいつもと同じように駆け回ることができた。
全力ならもっと効果がありそうだ。
後はご主人様に見てもらって問題がなければこの方法で練度を上げていけば、身体強化で自分を強くして行けるかもしれない。
成功したことで気が抜けてしまったんだと思う。
俺は身体強化を解除しようとして、魔力の蓋から先に解除してしまった。
久しぶりに加減のされていない暴風が吹き荒れ俺はごろごろと庭を転がった。
戦闘中にやらかさないように気をつけようと心に決めて俺は仰向けに倒れたまま太陽を仰ぐのであった。