5.ショタが起こす風で見える生足は健全でしょうか
しばらく、大丈夫、大丈夫といいながらお腹を抱えて転げ回っていたご主人様が起き上がり、何事もなかったかのような澄まし顔で俺に話しかけた。
「さっきのはおそらく風の魔法だと思うんだよね。ルイくん、もしかして何だけれど貴族の生まれだったりする?」
「どう、なんでしょう。お父様とお母様も魔法を使えたことを隠していたのか、話す機会がなかったのか直接教えてもらったことはありませんでしたし、普通に村で暮らしていましたので自分が貴族の血が流れている可能性があるなんて、さきほどご主人様の説明を受けるまでは考えもしなかったです」
「なるほどねぇ……。そうなると君のお父様とお母様の実家に興味があったりするかい?君が貴族として暮らしたいなら……」
「ご主人様、僕は自分の手で紅い眼の男を殺したいんです。貴族として生きていくつもりはないですし……そんなに簡単に5億Gを手放さないでくださいよ、少し寂しいです」
ご主人様は今度は胸を押さえて地面に倒れた。
「気を取り直してルイくん、魔力の動き自体はなんとなくわかったかい?」
「あ、はい、今も身体の内側?に魔力があるのを認識できていると思います」
「本来はそれを私が動かしてあげて、少しずつ循環させていく練習をするんだけれど……ルイくんはおそらく血統の関係で本来循環する魔力が外に漏れちゃって魔法として出力されちゃう可能性があるんだよね」
「……それでは、身体強化は扱えないということですか?」
「扱いにくいが正解かな、魔力を流して外には漏れ出さないようにコントロールをしなくちゃいけないんだと思うんだよね、私は身体強化ではない魔法を使えないから明確なアドバイスはできないんだけれども。今日は一緒に見てあげるから、少しずつ魔力を流して怪我したりしない範囲を見極めよっか」
「わかりました」
その後、俺は自分の起こした風で、何度もひっくり返ることになった。
何故かメイド服は傷も汚れも残らず綺麗なままだった、無駄に性能が良すぎるんだよな。
何とか動く魔力の量を調節する術を身につけて、ひっくり返るような強風は起きなくなった頃には既に夕暮れ時になっており、お昼も忘れて没等していたことに気がついた。
「ご主人様、すみませんでした。昼食のことを完全にわすれてしまっていました」
「私はルイくんといられれば常にお腹いっぱいみたいな所あるから平気なんだけどね? 今日は疲れただろうし、たまにはご飯を外に食べにいくかい? お姉さん奢っちゃうよ〜??」
「そう、ですね。今日は夕食の支度もできていませんし、明日からは忘れないように気をつけるのでお願いしてもいいですか?」
「任せてーっ! れっつらごー!」
ご主人様が俺の手を取り歩き出す。
ご主人様がそれでいいのであれば俺はもう諦めている、そう、諦めているのではあるが……っ!
「……ご主人様、僕、メイド服のままなのですが」
「ドレスの方が良かった?」
「……メイド服デ大丈夫デス……」
俺の細やかな抵抗はご主人様の満面の笑みにて封殺されたのであった。
最近スカートに慣れてきている自分が怖い。
外食後に庭に戻り魔力操作の練習をしている様子を見てご主人様が言った。
「私が納得できるレベルで身体強化ができるようになったら、ルイくんは一度冒険者の登録をして、私と一緒に迷宮へ潜ろうか」
「僕は十歳なんですけれども、冒険者の登録ってできるんですか?」
「本来は十二歳からなんだけれども、奴隷じゃなくてもだけれど、保護者の許可があれば年齢は関係なく登録ができるよ。ただ、強くなるために死んじゃうようなことはさせないから、迷宮に行けるようになったら私からいくつか条件をつけるから、ちゃ〜んと守ってね」
「死にませんよ」
「ふふ、わかってるなら大丈夫だよ。私の可愛いルイくんが死んじゃったら私も死んじゃうかもしれないもん」
嬉しそうに笑うご主人様。
しれっと重たいことを言われた気がしなくもないが、死ぬ気はないので大事だろう。
「冒険者は、石級、鉄級、銅級、銀級、金級、白金級、魔法銀級の順番でランクが設定されていて、純粋な強さだけでは決まらない部分もあるから大まかな目安なんだけれども、ルイくんには私と組まずに金級を目標にして欲しいかな。私と早い段階で組んじゃうと、命のやりとりというか、緊張感がどうしても薄れちゃうと思うから。あっもちろん安全のために装備とかは万全な体制で挑んでもらうからね」
常に守ってもらえる状態では甘えが出てしまう可能性があるということか。
ランクごとの強さの目安が俺にはわからないけれども、そこら辺は登録の時に質問できれば良いだろう。
「そういえば今更なんですけれども、ご主人様はいいんですか?」
「何の話かな?」
「その、僕は復讐がしたいですし、そのために協力してもらえることに感謝していますけれど、ご主人様には何も得がないような気がして……」
「君のような可愛い男の子を助けるのに、理由がいるのかい?」
「……僕が可愛くなくなったらどうする気なんですか? 5億Gですよ?」
「ルイくんはずーっと可愛いから安心して! 愛してるよールイくーんっ!」
理由とかは話す気がないのだと買われた直後は思ったけれど、この人は心の底から思っていそうなんだよな。
ご主人様、人間って成長するんですよ……。
俺への愛を叫ぶご主人様を見て心の中で思うのであった。