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4.ショタの背後に気をつけて


  迷宮(ダンジョン)街アルファールの住宅街の隅、朝の日差しに照らされながら、ばさりばさりとスカートが舞う。

 ご主人様に買われてから早くも一月、ご主人様に紅い目の男(あいつ)を殺したいと告げてから、毎日欠かさず行なわれている日課だ。

 俺は、俺は……きっと誰が見ても死んだ目をして、真剣に素振りをしていた。

 メイド服姿で……。


『さぁて、おはようルイくん、早速君に修行をつけるための条件なんだけれども』


『うわぁ?!なんで同じベッド?!ていうか服を着てください! 』


 泣き疲れてそのまま眠ってしまったのか目が覚めると半裸のご主人様に抱き枕のように抱えられている状態だった、どういう神経をしているんだろうかあの人は。


『私の服より、君の服だよ! 私が君を強くしてあげるための条件なんだけれどもジャジャーン! 』


『なんですかこれは』


『メイド服って言うんだけれども、見たことがないかな?お屋敷でメイドさんが着る服』


『スカートです』


『スカートだねぇ』


『お、僕は男ですよ?! 』


『……? 男の子だから、用意したんだよ? 』


 俺はあの時のご主人様の澄んだ瞳を一生忘れないかもしれない。

 通じ合わない会話の果てにあれよあれよとメイド服を着せられて、頭にはカチューシャを着けられた。

 ご主人様曰く、このメイド服は魔法で強化されており、そこら辺の鎧よりも頑丈で動きやすい優れものなんだとか、その機能はメイド服以外に搭載するべきなのでは?


 膨らんだロングスカートなのにも関わらず何故か激しい動きをしても足を取られることがない、謎の技術で作られているこの服を着ながら俺は毎朝用意してもらったショートソードを振るうのである。


 素振りが終わった後には家へ戻り、ご主人様の朝食の用意をする。

 簡単に卵を焼き、野菜を切ってパンで挟む。

 前日の残りのスープを温め直して並べる頃にはご主人様が目を擦りながら部屋から出てくる。


「おはよう〜ルイくん、今日もメイド服がよく似合っているねぇ〜可愛いよぉ! お姉さん毎朝キュンキュンだよ〜」


「……ありがとう、ございます……」


 あまり嬉しくはない褒め言葉を聞き流しながらご主人様と共にテーブルに着く、初めは遠慮したのだがご主人様が一緒に食べたいと最終的に床を転げ回りながら駄々を捏ねたため諦めて一緒に食事を摂ることにしている。


 美味しい美味しいと簡単な朝食を嬉しそうにご主人様は食べてくれる。

 今では朝と夜は俺が作ったご飯を食べてくれている、料理は不慣れだったが近所の八百屋でおばちゃんが買い物に行くたび簡単なレシピを書いたメモをくれるので、ある程度形になっているとは思う。

 ご主人様はそこら辺の雑草を出しても喜んで食べてくれそうな勢いではあるのだが……。


 食事が終わると庭でご主人様へ向かって剣を振るう。

 涼しい顔で俺の攻撃を剣で受け止めるご主人様に、その場で指摘を受けながら修正していく、スカートの中見えてないはずなのに足の使い方も指摘されるんだよな。


 見えて、ないよな??


「今日はいい感じだねぇ、ルイくん〜一ヶ月前とはもう別人だよ〜? 」


「そう思うならもう少し必死になって欲しいですけど、ねっ! 」


 フェイントを入れた攻撃も簡単にいなされる、悔しいけれど俺の剣技はご主人様には全く通用しない、ご主人様は本当に高ランクの冒険者であることを実感させられる。


 朝の訓練終わりにご主人様が俺に話しかけた。


「そろそろ魔法、と言っても身体強化だけれども、教えてあげようかな」


「身体強化、ですか? 」


「そっ! 小柄で可愛いルイくんが強くなるには必ず必要になるからね」

 

 「僕も成長したら大きくなると思いますけれどもね、お父様は背が高かったですし……」


 「ルイくんは大きくならないしずっと可愛いままだよ……?」


 澄んだ目で俺を見つめるこの人は、俺が成長したらどうする気なのだろうか。


「まぁ、いいです、強くなれるなら教えてください」


「まっかせてー! 今日は依頼もないしお休みにして、ルイくんの身体強化記念日にしちゃおう〜! 」


「よろしくお願いします」


 一度部屋へ戻り紅茶を淹れる。

 ちなみに紅茶の淹れ方も八百屋のおばちゃんが教えてくれた、あの人メイド服姿を見てからずっと優しいんだよな。


「まず魔法について簡単にお話しようかな」


「はい」


「魔法は大きく二種類に分類されていて、一つ目が風や炎や水なんかを操る属性魔法、この国では貴族の血統じゃないと扱えないことが多いかな、生まれ持って使える属性が決まっていて大体血筋で決まるよ。二つ目が身体強化、私が教えられるのはこっちだね、魔力を体内で循環させることで身体を強化して人間離れした力を発揮することができるんだよ〜、正確に言うと魔力操作で魔法とは違うと言う人もいるけれど、一般的にはこの二つが魔法と呼ばれているよ」


 ……俺のお母様は身体強化ではなく炎を起こす魔法を使っていたし、お父様も魔法を使っていたと紅い目の男から聞いた。

 二人は貴族だったのか? でもそんな話は聞いたことがない……。


「身体強化を使うためには体内にある魔力を認識する必要があるから、ルイくんの淹れてくれたウルトラでスーパーな紅茶を飲み干した後、お庭でルイくんの身体に魔力を流し込みま〜す! 」


「えぇ……それなら、わざわざ部屋に戻らなくてもよかったんじゃないですか?」


「君の紅茶が飲みたかったのさーっ! 」


「……そうですか」


 それならば仕方ないのかもしれない、だってご主人様だもの。


 紅茶を飲み終え庭へ戻るとご主人様は後ろに周り俺の肩に手を置いた。


「これからやることは、魔力操作に自信がないと危険なことなのでルイくんが誰かに教えて欲しいって言われても真似しないようにしてね? 失敗すると大怪我したりすることもあるから」


「はい、わかりました」


 俺が返事をして頷いたのを確認するとご主人様は俺に力を抜いて目を閉じるように指示を出した。

 脱力して瞳を閉じて少しすると、俺の身体の中がじんわりと熱くなるような気がして、そして………。


「へぶぅっ?! 」


 俺の身体から強烈な風が噴出し、その反動で俺の後頭部がご主人様のお腹に勢いよく突き刺ささりそのまま二人で庭に転がった。

 慌てて起き上がると、ご主人様は片手でぶつかったお腹を抑えながら掠れた声でこう言った。


「ルイくん、君は後頭部まで高火力なんだね、そんなところも素敵だぜ……! 」


「あっ大丈夫そうですね、よかったです」

ちょっと長くなる気配がしたので区切ります。

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