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2.ショタの涙が胸を貫く


「あーんな田舎村に美少年がいるっつー噂が流れてたからさぁ高く売れるんじゃねーのって向かってみたわけよ、村はひでーもんで、生存者はなし、丁寧に家畜まで殺してあって私は絶望したねぇ、げひひひ、ところがお前さんだけ何故か道に転がってるんだもんなぁ、どうせお前さんみたいな子供だけじゃ生きていけねーんだ、奴隷として私が育ててちゃーんと売ってやるから、いい飼い主様に出会えるように祈ってるんだぜぇ??」


 げひひげひひと小柄な男が笑う。


 目が覚めるとヨリタージュと名乗る奴隷商人の馬車に乗せられていた。

 俺の首には奴隷の首輪という魔道具がつけられていた。

 命令に背くと首輪が締まり息ができなくなるらしい。

 大体は気絶で済むそうだが、最悪命を落とすこともあるから大人しくしておくんだなぁ、とヨリタージュは不快な声でげひひと笑っていた。

 実際逃げ出そうと馬車から降りようとしただけで首が締まり息ができず、身体に力が入らなくなったので逃亡は諦めた。


 生まれて初めて見る魔道具がよりにもよってこんな酷いものになるとは思わなかった。


 お母様の死、そして直接みたわけではないがお父様や村のみんなも助からなかったのであろう。

 不思議とそのことは理解ができたが、思考がまとまらず逃げることを諦めた後は喋り続けるヨリタージュの言葉をぼーっと聞いていた。

 怒りとか悲しみとか感情が自分の限界を超えてしまったのか、これから奴隷になると言われたことにも、あぁ、そうなのか…と思うだけだった。

 ただ、涙は止まらなかった。


 それから三ヵ月ほど、時折自分でも理解ができないタイミングで発作のように涙が流れること以外は順調に俺は奴隷としての教育を受けていた。

 

 『筋が良い、あんな田舎出身のくせにある程度礼儀ができているなんて儲けもんだぜぇ…? 私は最高の奴隷を売ることに喜びを感じるんだ…ルイくんを拾えてご機嫌だぜぇ』


 ヨリタージュはげひげひ笑いながら俺の頭を撫でた。

 

 さらに数ヵ月ほど経ち、鎖に繋がれ馬車に乗せられた。

 冒険者が集う街、迷宮(ダンジョン)街アルファールで行われるオークションに俺は出品されるようだ。

 年に一度のイベントで、冒険者から貴族までたくさんの人間が訪れるらしい。


 オークション会場は熱気に溢れており、ステージでは黒服の男が商品を紹介するために声を張り上げる。

 ステージ裏で檻に入れられた俺は魔法剣や聖水、そして俺と同じような奴隷たちが、聞いたこともないような値段で売れていくのをぼーっと聞いていた。

 俺の村ではあまり金銭のやり取りと言うのは行われていなかった、物々交換…いや、なんならただで野菜なんかは貰っていた気もする。

 

「さぁて!! お次は奴隷商人のヨリタージュ氏からの出品です! 透き通るような白い肌、美しい金髪に宝石のような赤い瞳、将来有望な奴隷の美少年が登場だ!! 」


 パンが一斤50G(ゴールド)とか言ってたけな、俺は果たしてどれほどの値が付くのだろうか…。

 筋骨隆々な男が俺の檻が乗っている台座をガラガラと押しながらステージの中央へ移動させられる。

 商品がよく見えるようにするためなのか、強いライトが当てられており始めは目が明けられなかった。

 光に慣れてきて薄目を開くと、会場がざわめいた。


「それでは!!500万Gから始めましょう!!」


 最初は大胆に、そして5,000万Gを超えたあたりから小刻みに値段が上がっていく。

 8,000万を超え、競りに参加する人が減ってきた辺りで急に片目から涙がつーっと頬を伝う。

 別に何かを思い出したわけでも、辛いことがあったわけでもないのに、自然に涙が流れるのだ。


「はぅ…っ」


 客席の中央付近にいた黒髪の女性が急に胸を押さえ悶えだした、大丈夫だろうか…?

 しばらく悶えた後にここまで競りに加わっていなかった黒髪の女性がすっと手を挙げた。


「1億G」


 会場が一瞬静まり返るも、それに対抗するように太ったドレスを着たおばさんが手を上げ声を上げる。


「1億100万…」

「5億G」


 おばさんに被せるように女性が値を上げると、おばさんは悔しそうに女性を睨みつけるもも諦めたのか手を下げた。


「ななななんと、今年一の美少年奴隷に5億G~?! 他には…よろしいでしょうか? よろしいでしょうか? それでは落札! 」


 司会の男がステージから降り、女性に札のような物を渡す。

 その間にステージのライトが消え、俺はガラガラとステージの裏に戻された。


「おいおいおいおいおいおいおいおい~! ルイくんやってくれたなぁ~お前よぉ~! 5億の奴隷何て長い奴隷商人生でも初めてだぜぇ~?? 大きい声では言えねーけどな、多分あの女は冒険者だ、万が一仕事中に死んじまえばお前は自由になる、その時に生活に困る用ならもう一度私に相談してくれよなぁ、何度でもお前さんを売ってやるぜ?げひひひひ」


 ヨリタージュは俺に囁きかけると、踊りだしそうなほど軽い足取りで別の部屋へ向かっていった。

 恐らく俺を買った女性と契約を行うのであろう。

 しばらくすると俺は再び檻が乗った台座ごと別室へ移された。 

 そこにはニコニコと笑う俺を買った女性とヨリタージュが待っていた。


「げひひひ、ユウリ様、まさか即日入金が確認できるなんてこのヨリタージュ震えておりますよ、これでこの奴隷はあなたのモノだ、生かすも殺すもあなた次第、ただ……」


「どうせなら幸せにしてやってください、これが奴隷の首輪と対になる支配の指輪です、げひひひ……」

 

 ヨリタージュは魔道具である指輪をユウリと呼ばれた女性へ手渡す。

 ユウリはそれを少し複雑そうな顔をした後左手の薬指につける、ぶかぶかに見えたリングが急に縮み指にぴたりとはまる。

 ユウリは震える手で俺の檻を開けて、にっこりと笑ったあと早口でこういった。


「初めまして私はユウリ一応上から二番目の白金(プラチナ)級の冒険者でまぁなろうと思えばいつでも最高の魔法銀(ミスリル)級に上がれる状態ではあるんだけどあれはパーティ前提のランクでソロだと旨味がないから上がってないだけみたいな? 収入は同ランク帯の中でも最上位に位置するから豊かな生活を送らせてあげられると思うから安心してほしいなちょっと流石に5億はやりすぎたからしばらくは仕事を増やさないといけないかもしれないけれどそそそ、それで一応契約の関係上君のお名前をヨリタージュさんから聞いてはいるんだけど君からもお名前を聞いていいかな? 」


 いきなりの早口攻撃に一瞬呆けてしまうも、俺はヨリタージュに習った通り挨拶をした。


「初めましてご主人様、僕はルイと申します。これからよろしくお願いします……?!」


 ぺこりと頭を下げた後に顔を上げると、ユウリ…ご主人様はにへら~と、だらしない笑みを浮かべながら鼻血を出していた。

 ご主人様はヨリタージュが差し出したハンカチで鼻血を拭くと、だらしない笑顔のままこう言った。


「よ、よろしくね、ルイきゅん……! 」


 ……きゅん?


 俺のご主人様は大丈夫なのだろうか……?

 そう思わずにいられない出会いだった。

 

 

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