9.アルゴノート
アルゴノート。
そう呼ばれる者達が台頭し始めたのは、今から半世紀以上前のことである。まだ一小国に過ぎなかったロードルシアにおいて、それまで自然の中で暮らしていた魔物達が、急速な土地開発や戦争の影響によって住処を追われ凶暴化。人里に現れた魔物が人を喰い殺すという事件が頻発した。その対策として起用されたのが、探索者であるアルゴノートであった。
元来アルゴノートとは、自然や古代遺跡、ダンジョンと呼ばれる迷宮で採集や狩猟を行う者達の総称であった。彼らは活動の性質上、魔物と戦う術に長けており、特定の獲物のみを狙う狩人よりも汎用性の高い優れた技能を有していた。彼らの活躍により魔物の被害が激減したことで、アルゴノートは国中に名を馳せることとなる。
その戦闘能力に目をつけたロードルシア軍部は、各地のアルゴノートを傭兵として雇い入れ、かつてない侵略戦争の尖兵として用いた。人よりも遥かに強靭な魔物を狩る彼らにとって、人間の兵士など敵ではない。周辺諸国は次々と降伏の旗を掲げ、ロードルシアは急激に拡大。かつての王は皇帝を名乗り、ロードルシアは大陸に覇を唱える帝国となった。
二度に渡る大侵略を経て、アルゴノートの需要は以前とは比較にならないほど大きくなった。アルゴノート組合の発足は、一つの時代を象徴する出来事であろう。
しかしながら、膨れ上がる需要に苦しんだ組合は、アルゴノートの数を確保するために浮浪者や戦災孤児、失業者の受け皿となることを強いられた。
いつか英雄として名を馳せたアルゴノート。その名が示す価値の劣化はまさしく必定であったのだ。元来の意味はとうに失われ、その崇高な精神もいつしか消えてしまった。
時は、記念すべき帝国歴五十年の佳節。
アルゴノートは、今や荒くれ者の代名詞と成り下がっていた。