5.アルゴノートのセス②
「もし叶うことなら、このセスを雇っては下さいませんか」
「C級のあなたを? 冗談でしょう?」
「僭越ながら、これでも十人並みの腕はあると自負しております。A級には及ばないまでも、ミス・シエラに満足して頂ける働きをしてみせましょう」
「ふぅん?」
シルキィは品定めするように、無遠慮な目つきでセスを凝視する。
「時間の無駄だと思うけど。ま、物は試しとも言うし。ティア」
「はい」
抑揚のない、しかしはっきりとした返事だった。ティアは威勢よく剣を抜き放ち、中段に構えた剣の切っ先をセスに向ける。
周囲がどよめいた。
依頼主がアルゴノートの実力を見極めるために従者などと立ち合わせるのはさほど珍しいことではないが、まさかいきなり始まるとは誰も思っていなかったであろう。
セスにとっては渡りに船だ。自身の腕前をアピールするいい機会になる。
「いいね」
剣の柄に手をかける。慣れ親しんだ感触がセスの心を落ち着かせた。
「セス、とかいったかしら。本当なら無視するところよ。だけどそのやる気に免じて、今回は特別にチャンスをあげる」
シルキィはしたり顔で人差し指をぴんと立てた。優越感を帯びた声は清流のように透きとおっていて、胸にすっと落ちる不思議な響きがあった。
「私の依頼を受けたいのなら、相応の実力を示しなさい」
セスは思わず笑みをこぼす。少しは期待されていると思ってもいいのかもしれない。
「ティアの実力の、せめて半分は見せてもらわないとね」
「お望みとあらば」
ティアの剣気は単なる侍女のそれではない。歩き方ひとつとっても、彼女が武に通じていることは瞭然だった。彼女がただ一人シルキィに付き従っているのは、護衛として十分な実力があるからだろう。こうして相対しているだけでも、彼女の戦闘技術の高さが伝わってくる。訓練を受けた兵士でもこうはいくまい。
「この立ち合いはあなたの試金石です。どうぞ御容赦なく」
「お手柔らかに頼むよ」
「あなた次第です」
セスは右手の指一本一本の動きを確かめるように柄を握り、ゆっくりと剣を抜く。
ティアの小さな頭に乗ったヘッドドレスが、やけに白く見えた。
セスが剣を構えたのと同時に、ティアが床を蹴った。ポニーテールが踊り、ロングスカートがはためく。十歩の距離が瞬く間に詰まり、セスの胴体に斬り上げが迫った。
「おおっ」
些かばかり驚いた。なるほど、確かに遠慮がない。
金属の重なる音が響く。助走をつけたティアの一撃を受け止めて、セスはその勢いを利用して後退。踏ん張りをきかせたセスの剣がティアの追撃を弾いた。
セスは大振りの横薙ぎで空いた脇腹を狙うも、大きく開脚して姿勢を下げたティアに難なく回避される。大味な攻めによって隙が生じていたセスは、下方から迫った反撃の刺突にひやりとする。剣を逆手に持ち変えることで隙を最小限に留め、刀身に左手を添えてなんとか刺突を受け止めた。
危なっかしく後退して距離を取ったところに、ティアが構えを直し突進。