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4.アルゴノートのセス①

「まずは名乗りなさい」


「これは失礼を。私はセス。アルゴノートのセスと申します」


「古臭い名前。野蛮なアルゴノートらしい名だわ。あなたはちょっとマシな方かと思ったけれど、問題を暴力で解決しようとするあたり、やっぱり野蛮人は野蛮人というわけね」


 シルキィはセスの風貌を確認しているようだった。

 十七歳にしては大人びた表情。大柄でも小柄でもない。細身だが引き締まった肉体は日頃の鍛錬を窺わせる。短い黒髪。同色の瞳は切れ長で、戦いに身を置く者の鋭い眼光がある。身なりは清潔で、腰の剣と薄手のマントはどちらもそれなりに上等なものであった。

 シルキィがちょっとはマシという評価を下したのは、そんな彼の佇まいを見たからだ。


「言われなくてもこんな小物に用はないわ。私達はA級に依頼を持って来たのだから」


「寛大なお心に、感謝いたします」


 胸に手を当てて頭を垂れる。貴族と同業者の諍いなど首を突っ込むに値しないが、ラ・シエラの令嬢が関わっているとなれば話は別だった。


「ふぅん」


 セスの礼節のある所作を見て、シルキィは僅かばかり興味を持ったようだ。


「ところで、A級アルゴノートへの依頼というのは?」


 ちらりと事務員を見ると、彼は勘弁してくれとばかりに首を振る。


「あなた、A級なの?」


「ご期待に沿えず申し訳ありませんが、しがないC級にございます」


「そう。別に期待なんかしてないけど」


 あからさまに幻滅した様相で、シルキィは溜息を吐いた。


「まぁいいわ。そこの能無しよりは話がわかりそうね。ティア、説明してあげて」


 名を呼ばれた侍女は短く返事をしてから、淡々と言葉を紡いだ。


「こちらにいらっしゃるシルキィ様は、ご実家から帝都までの旅に同行できる長期の護衛を探しておられます。シルキィ様のご身分からして、護衛を担うのは実績と信用が保証されているA級アルゴノート以外には考えられません」


 この説明に対しては色々と疑問が生まれたが、セスは余計な詮索を慎む。


「ところが、こちらを拠点にしているA級アルゴノートは他の依頼で出払っているというのです」


 ティアの視線を受けて、事務員が肩をこわばらせた。


「フィーネベルは戻ってないのか? マリア隊は?」


 セスは心当たりのあるA級アルゴノートの名を挙げてみたが、事務員は固い表情で首を横に振るのみ。


「出立は十日後です。それまでに護衛の手配をお願い致します。わざわざシルキィ様がおみ足を運ばれたのです。まさかできないなどとは仰いませぬよう」


「とは言われましても……やはり、それは無理がありますと」


「無理でもなんでもやりなさい。いいわね」


 ぴしゃりと言い放ったシルキィに、事務員はそれ以上なにも言えなかった。

 それを承諾と受け取ったか、シルキィは不愉快そうに椅子から降りる。


「さあ、無事に依頼もできたことだし。早く帰りましょう。こんなところに長くいたら服に臭いが染み付いちゃう」


「はい、お嬢様」


 二人が出口に向かうと、扉付近で様子を窺っていた野次馬たちが一斉に道を開けた。


「では、ごきげんよう」


 振り返ることもなくひらひらと手を振って、立ち去ろうとするシルキィ。


「ミス・シエラ。お待ちを」


 ぴたり、とシルキィの足が止まる。赤いリボンとプラチナブロンドが揺れ、鳶色の瞳がセスを捉えた。

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