1.シルキィ・デ・ラ・シエラ①
「依頼を受けられないって、一体どういうことよ!」
それは理性的な叱咤のようにも、幼子の癇癪のようにも聞こえた。
「依頼人の要求に応えるのが、あなた達の仕事でしょうが!」
高く張り上げられた声を聞いたのは、ちょうどセスが支部に足を踏み入れた瞬間だった。
アルゴノート組合と看板を掲げた建物の中は、一見大きな酒場のように見える。大広間には丸いテーブルと椅子とが不規則に並べられており、席につく人影もちらほらと見て取れた。高い天井にはいくつかのシーリングファンが回転し、大きめの窓からは十分な日光を取り込んでいる。
カウンターからほど近い椅子に腰かけたセスは、少女と事務員のやり取りを静かに見守る。
「とは仰いましても、人材にも限りがございまして」
中年の男性事務員の対応はあまりにもたどたどしい。
「だから! そこをなんとかしなさいって言ってるの」
カウンター席に陣取って事務員に詰め寄っているのは、清楚な藍色のワンピースに身を包む十代半ばの少女だった。肩まで伸びたプラチナブロンドの髪は艶々とし、窓から差し込む光を反射して白金の如く輝いている。後頭部に結われた赤いリボンがまことに愛らしい。陶磁器のような白い肌は、成長しきらぬ少女に美しさと透明感を与えていた。事務員を睨みつける鳶色の瞳は大きく可憐で、銀の眉は筆で描かれたように整っている。細やかな装飾をあしらったワンピースは見るからに高級な生地であり、腕袖はゆったりとして広がっている。家庭の雑事をこなす者の装いではない。傍らに侍女が控えていることもあって、彼女が格のある家の令嬢であることは誰の目にも明らかであった。
「わ、私共としましても、ご依頼主様のご要望には最大限お応えしたいと思っております。ですが、ええ、なにぶん条件に見合う者がみな出払っておりまして、その」
時折裏返りそうになる事務員の声を遮って、少女がカウンターを叩く。
「あのねぇ。こっちは恥を忍んで、あなた達のような野蛮人に仕事を恵んであげに来たの。人手不足ですって? よくそんな贅沢が言えたものね」
少女の横柄な態度は、上流階級の人間としては珍しくない振る舞いと言えよう。彼らはアルゴノートを粗野で無教養だと断じている。往々にしてそれは事実であり、毛嫌いの種になるのも仕方のないことだった。
この場にいる者の大半は、多かれ少なかれそうやって蔑まれ、罵倒された経験を持っている。少女に対する周囲の視線は、にわかに敵意を含んだものに変わった。