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俺の守護霊がチェーンソーを持った殺人ピエロだった件

作者: 橿原 瀬名

 俺のクラスメイトである、黒見アズサは、霊感少女だ。知り合いの子が、悪霊に取り憑かれた時も、彼女に御払いをしてもらったそうだ。


 もっとも、彼女はその時のひと悶着を解決したことで、クラスで一目置かれてはいるが……そのクールさと美しすぎる見た目から、少し浮いてあるのだ。


 俺はそんな彼女に声をかけ、俺にはどんな霊が憑いてるか聞いてみたのだが……。


「あなたの守護霊は、チェーンソーを持った殺人ピエロよ」

「チェーンソーを持った殺人ピエロ!?」

「何かおかしかったかしら?」

「何もかもおかしいだろ! どう考えても守護霊じゃなくて悪霊だからな!」



 第一なんだよチェーンソーを持った殺人ピエロって!

 守護霊ってそんな物理的な戦闘力の高さで人を守る存在なのか?

 なんか、もっとこう、霊的な不思議パワーとかサイキック的なあれとかじゃないのかよ!



「っていうかさ、そうなると、今も俺の後ろに殺人ピエロが立ってるのか?」

「ええ、立っているわ。なんなら、床から30センチほど浮いてるわね」

「どんな絵面だよ! しかも、チェーンソー持ってるんだろ? 怖すぎるって!」



 それホントに守られてるのか? 襲われかけてるの間違いだろ絵面的に。

 俺はそんな疑問を抱きながらも、ひとまず殺人ピエロについて詳細を聞くことにした。



「それで、なんで俺を守ってくれてるんだよ、その殺人ピエロは」

「あなたが前世で、行き倒れの殺人ピエロを助けたからよ」

「行き倒れの殺人ピエロ!? どういう状況だよそれ!」



 いや、流石にピエロのメイクと服装のまま、行き倒れていたワケではないだろう。

 というか、そうであってくれ。と、そんなことを俺が願っていた時だった。


 ――バタン!ガタン!


 と、何かが倒れるような音がした。

 音のした方、俺たちの右隣を見れば、そこには信じられない光景が広がっている。

 机がまっぷたつに切断されて、倒れていたのだ。誰も触れていないというのに。



「……は?」

「あなたの守護霊が、チェーンソーで斬ったのよ。ある種のポルターガイスト。余計なことは言うなという脅しね」

「ポルターガイストってそんなんじゃねーだろ! っていうか、チェーンソーで脅迫してきてんのかよ! 怖すぎるだろ!」



 やっぱり殺人ピエロが守護霊なわけないって! ぜってー悪霊だろ!


 

「っていうか、この守護霊、やろうと思えばいつでも俺を殺せるよな? そんなヤツが今も俺の背後に立ってるんだよな!? しかも……見た目からして殺人ピエロなんだろ? 怖すぎるって!」

「逆に考えてちょうだい。やろうと思えばいつでも殺せるのにそうしない時点で、彼はあなたに本気で恩義を感じて守ろうとしてるのよ」

「厳密には、前世の俺に、だけどな。けど、言われてみたらそうかもしれねぇな……」



 確かに殺人ピエロが守護霊じゃなくて悪霊なら、取り憑くとかせずに普通に殺しに来そうだもんな。

 まして、こいつの場合はなんかチェーンソーで物理攻撃とかできるし。



「さらにいうと、あなたさっきからツッコミで守護霊をディスりまくってるでしょ? 彼が悪霊だったら、今頃は首を斬られて死んでるわよ」

(こえ)ぇこと言うのやめてくれねぇかな!?」



 冗談抜きで、俺は今、震えて鳥肌が止まらねぇからな!



「けど安心してちょうだい。彼は殺人ピエロだし、人生の最後まで人を殺し続けたわ。けど、前世のあなたに諭されたことで、更正して慈悲の心に目覚めたの」

「目覚めてねーだろそれは! つーか、お前もチェーンソーで脅迫されてんだろ? ぜってー言わされてるだけだって!」

「あなたは前世で、慈悲深い神父だった。アメリカの田舎町にある教会に勤めていたわ……」

「話を聞いてくれねぇかな!」



 俺の言葉を無視して、彼女は説明を続ける。

 それによれば、俺は前世で、アメリカの田舎町で神父をやっていたらしい。

 その時の名前はジェームズ。ある夜に、教会のドアを叩く者がいたので外に出てみると、そこにピエロが倒れていた。

 ピエロの傍らにはチェーンソーが落ちていて、ジェームズ神父はこのときに察したらしい。


 彼は殺人ピエロだと。いや、なんでさ。


 しかし、神父はピエロを介抱し、食い物をわけてやった。そして、殺人ピエロを諭し、親切に接し、共に暮らし、慈悲の心に目覚めさせた。


 しかし、ある日のこと、殺人ピエロが留守の間に、神父は強盗に殺されてしまった。

 殺人ピエロは恩人を殺された復讐のために、強盗の家に乗り込んで、10人もいた一味を、たった一人で壊滅させた。


 こうして殺人ピエロは、恩人の命を奪った奴らのような『悪』をこの世から絶滅させる――正義の殺人ピエロとなったのだ。


 ちなみに、神父が自首を勧めなかった理由は、本人が反省して心から罪を償いたいと思うのを待っていたかららしい。

 なんなら、彼が強盗に殺されたのも、殺人ピエロが自首を決意したちょうどその日である。


 悲しすぎひん?



「――ということよ」

「ちなみに、殺人ピエロが余計なこと言うなってお前を脅してた理由ってなんなのよ? 」

「前世の因縁を、今世に持ち込みたくなかったそうよ。けど、私を殺せば神父様の教えに背くことになるから、渋い顔でこっちを見てるわ」

「嘘だろ。ホントにこいつ、良いヤツなのかよ……。いや、正義に目覚めたとはいえ、殺人ピエロではあるが……」



 まさか本当に殺人ピエロが良いヤツとは……。

 まあ、良いヤツじゃなかったらとっくに俺たちのどっちかが死んでるから納得せざるを得ない、というだけだが。


 彼女とこんな話をしてから、一週間後のことだった。心霊スポットの廃墟に行くことになったのは。



 

  ~~~



「しっかし、本当に幽霊なんて出るのかねー」

「さあ。けど、霊そのものは確実にいるわよ~。うちのクラス、本物の霊能者がいるからさ!」



 とまあ、そんな話をする他の同行者を尻目に、俺は周囲を見渡していた。

 声がしたような気がしたからだ。



『今すぐ引き返しなぼーや。悪霊に襲われてもしらねーぞ』



 低くしゃがれたその声は、英語なのになぜか日本語かのように、言ってる内容が理解できた。一週間前から、ずっとこんな感じで、「行くのはやめておけ」とか、そんな忠告をする声が聞こえるんだ。


 ここは心霊スポットの廃病院。チンピラみたいな連中に連れ込まれ、さんざんな目に遭わされた挙げ句に、殺された女性の霊が出る場所だ。

 今は二階辺りの廊下を歩きつつ、病室を探索して回っている。懐中電灯の灯りだけが頼りなので、視界はすこぶる悪い。



 同行者の大半は、クラスの女子と、男子と、アホそうな大学生たち。

 クラスメイトに誘われて、断りきれずに来ちまったが、やはり来るべきじゃなかったか。そう考えていた時だった。



「ねぇ、あなたたちも私に、酷いことをするんでしょう」



 ――さっきまでいなかったはずの、血まみれの女が後ろに立っていたいた。

 血の気のない、精気も感じられない、ギョロッとした目の女だ。

 俺以外の全員が、その姿を見て悲鳴を上げる。ああ、これは確実に生きてる人間じゃないな。


 そう思っていた時だった。女に立ちふさがるようにして、虚空から何かが現れたのは。


 それは、ピエロの後ろ姿だった。



「だから言ったろぼーや。こんなとこ行くなってよ」



 低くしゃがれた声でそう言いながら、ピエロはチェーンソーのエンジン吹かす。

 ブゥンという振動音が、薄暗い廊下に響き渡る。

 間違いない

 それと同時に、女の霊は飛びかかって、ピエロに襲いかかった。



「みんなみんな、私に酷いことをするに決まってるんだぁああああ! お前もアイツらだ! 殺してやる! 」

「生前の妄執に囚われた、哀れな魂よ……。俺の恩人がいる天国に、貴様を送ってやるぜ」



 俺の守護霊である、正義の殺人ピエロ。

 悪霊である、悲しき殺人事件の被害者。


 殺された恩人の教えによって正義に目覚めた男と、自分を殺した悪人への恨みで悪霊になった女。


 対照的な二人の戦いが、始まったのたった――

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