今日、私は山形さん、とデートする
「おや。」
気がつけば、私は近所の堤防を歩いていた。夕焼けが見える。背中に視線を感じる。とっさに後ろを見た。その距離は思いのほか離れていた。走ってくる人がみえる。離れていて、顔は確認できない。誰なんだろうか。
「うん?」
みるみるうちに、その人は近づいてた。
「ああ・・・!」
私は驚きの溜息を洩らした。しかしそれには、喜びも含まれていたのである。もう傍に迫ってくる。そしてついに・・・・、その人は私の前に立ち止まった。それから・・・・。
「お姉さん・・・。」
息が切れそうになりながらも、彼女は私に語り掛けてきた。そうなのだ。彼女は私の妹なのだ。それでもって誰より私は、この妹を愛する姉だと自負している。好きで好きで仕方が無いのだ。
「・・・・!!!」
たまらなくなった私は、彼女に抱き着こうと試みた。しかし・・・・。
===== ドテーン =====
肩透かしを食らった私は、地面に手をついてしまったのだった。
===== ジリリリン!! =====
「ふわあ!」
強烈な目覚まし音で、私は飛び起きた。そして慌ててベッドから立ち上がり、時間を確認した。
(あ・・・・、そうか・・・。)
今日は休日だ。そう安心したのも束の間。私はキリっと唇を嚙みしめた。そう、自分は休日だからと言って、ダラダラと過ごす理由はないのだ。
「ようし!」
私は目一杯のおめかしをするのである。いつもは着ないようなワンピースを手に取る。
「大丈夫かな。」
一抹の不安を覚えながら、私はスウェットを脱いだ。
「うん。たぶんイケる。」
私は太っていない、そんなには・・・。鏡に映る自分自身に対して、そう言い聞かせ自己暗示をかける私なのであった。そして恐る恐るワンピースに袖を通す。
「ううん・・・。」
心の中で悶え声を漏らす。果たして、その結果は出た。
「よっしゃ!!」
何とか違和感なくワンピースを着用できた。違和感はない・・・、多分・・・。そしてメイクを丁寧に施したのだ。まあやり方は、いつもと同じなのであるが。でも気合は入っている。要は気持ちの問題である。
「ん?」
今更ながらに私は気がついたのだった。
「朝御飯まだじゃん!」
どんだけ気が抜けているのだ、この私は・・・。
何とか服を汚さずメイクも損なわない様に、私は朝食を済ませる事ができた。そして今、家を出たばかりなのである。ところが最初の曲がり角に差し掛かったところで、私の脚はピタッと止まってしまった。それは何やら違和感を得たせいなのである・・・。
「ふうー。」
大きな溜め息が漏れた。これは自分自身に対してのものなのである。実を言うと、私は気がついてしまったのだ。
「鍵かけてないじゃん!!」
そそくさと私は家に引き返した。それにしても、早く気がついて良かった。本当に慌ててはいけない。
~~~~~ 今の私の前には、彼女がいる。 ~~~~~
=====今日は休日だ。=====
===== 私は山形さん、とデートする。 =====
今日の山形さんは幻ではない。そう私は本当に山形さんとデートをしていたのだった。もともと私と彼女は、これぐらいの間柄だったのだ。しかもである。山形さんは母方の姓を名乗っているのである。彼女が幼いときに、両親は離婚したのだった。どうやらどちらかが一方的に原因を作った訳でもないらしい。それで2人いた子供を、1人づつ育てることになったのだ、というのである。
「ここで良かったかな、山形さん。」
「ええ。」
ここは私が気に入っている喫茶店だ。父と娘でやっている落ち着いた雰囲気の店である。
「ご注文はお決まりでしょうか。」
年の頃は高校生くらいだろう。彼女は可愛いと言うよりも、まさに美しい、といった表現しか思い付かない女の子だ。しかし、である。今、私の目の前にいる山形さんだって負けてはいない。だって実際に自分は、彼女の魅力に取り憑かれている人間の1人なのだ。まあ私の他に誰がいるのかは、全く知らないのではあるが・・・。
(はっ・・・。)
その時、ふと私は我に返った。いけないことだ。そんな風に、優劣をつけるなどとは。それに山形さんを、別の誰かと天秤にかけるなどとは。山形さんは、どれくらいなんてレベル的な表現で図れる人じゃない。
(うん。)
何を自分は1人で葛藤しているのだ。全く我ながら小さい器の女だ。
「あっ。」
自分の目の前に器が置かれた。それは比喩的な表現などではなく、実際の珈琲の淹れ垂れたカップなのだ。
「お待ちどう様です。」
あの綺麗なウェイトレスさんが運んでくれたのだ。彼女はペコリと頭を下げた。その仕草からは、まだ子供らしさを感じられた。そして彼女は、速やかに下がっていった。・・・・うん、まだまだだね・・・・。たとえ容姿端麗であったとしても、年齢は胡麻化せないのであろう。
・・・・・さて、本題だ・・・。
「さて、山形さん。今日は映画でも行こうか。」
「はい。」
「・・・・他に何処かに行きたいとか無い?」
「いえ、特には。」
「アンタって、昔からそうだよね。まあそこが山形さんの良いところかも知れないけどさ。」
「・・・・・。」
「だって、山形さんって呼んでも、嫌がったりしないしね。」
「・・・・・。」
本当に相変わらず山形さんは、無表情なのである。でも私は信じている。私が彼女を愛しているの同様に、彼女も私を愛している、と・・・・・。何故なら山形さんは・・・・・・。
===== 私の実の妹だから =====
両親が離婚してからも、私と山形さんは仲良くしているのだ。そしてきっと、これからもずっと・・・・。
~「私」は近所の本屋さんのアルバイト店員の「山形さん」の事がとても気に入っている~
<完>




