グラビアアイドル山形さん
私は事務系の女性社員の山田である。それなりに真面目に仕事はしているつもりだし、会社の雰囲気も悪くない。敢えて悪く言えば、毎日同じ作業の繰り返しだというところか。でも何の問題もなく今の生活が出来ているので、これは考えてみれば贅沢な話なのかもしれない。
私は仕事の後に近所の書店によく寄っていく。小さな本屋さんだが、レジの店員さんはとても素敵な女性だ。スラッと背は高く、普通の背丈である自分が見上げる程なのだ。いつも爽やかな笑顔で、私も幸せな気分になる。今日もお気に入りの雑誌を買い、彼女の接客に癒された。今や会社での仕事と、本屋さんでの物色が私の日課だ。実際はその店員さんに会いたいだけなのだが。
「今日もありがとうございました。山田さん。」
「どうも。」
そう、今や私たちはお互いの名前を認識するほどの仲なのだ。その割には、私はそそくさと本屋さんを出た。我ながら自分は照れ屋さんだと思う・・・・。こんな自分の性格が本当に嫌だったりする・・・。
無事に問題なく、一日を終えられた。寝支度をし、ベッドに横になった。髪を束ねる必要もなく、ゆったりとしたパジャマに身を包んだ状態は、もっともリラックス出来ているんだ、と思う。割りと私は熟睡できるタイプなのだ。だから基本的に朝に起きた時には、夢の記憶などない。しかし、今夜は・・・。
「おや。」
気がつけば、私は近所の堤防を歩いていた。夕焼けが見える。背中に視線を感じる。とっさに後ろを見た。その距離は思いのほか離れていた。走ってくる人がみえる。離れていて、顔は確認できない。誰なんだろうか。
「はっ。」
そこで目が覚めた。変な夢だと思った。夢なんて久々に見た。何年ぶりであろうか。でもとくに興味を引くわけでもなくので、すぐに忘れて出勤した。何事もなく仕事は進んだ。そしてそのままに、お疲れ様となった。
今日も私は、あの本屋さんに立ち寄った。
「こんにちは。」
「どうも、こんにちは。」
本屋さんの主人が挨拶をしてきた。勿論、挨拶は返す。常識である。この本屋さんは、私に対しては「いらっしゃいませ」ではないのだ。ここがこの本屋さんの、ご近所的な対応なのだ。まあ勝手にこの本屋さんの顔だ、と自負しているだけなのだが・・・・。今日は、まだあの若い女性はレジにはいない。彼女はアルバイトさんなのだ。基本的に平日の夕方しかいない。だから彼女目当ての私は、いつも仕事帰りに立ち寄るのである。
「ふーん。」
私は昨日とはまた違う雑誌を手に取った。柄にもなくファッション雑誌だ。
「おっ?」
私は心の中で呟いた。何故かと言うと彼女の事を思ったのだ。このモデルのコーディネートは、山形さんにぴったりなのではないか、と。白いカーディガンに、柔らかそうなパンツ・・・・。うん、やはり山形さんはパンツルックがとても似合うと思う。私は想像した、このコーディネートの彼女と腕を組んで自分が歩く姿を・・・・。やはり山形さんは、とても格好いい・・・。
「うふふ・・・・。」
はたから見れば恐らく私は雑誌を見て、ひとりで笑っている真に不審な女に見える事だろう・・・・。もうその辺でやめとけば良いのに、私はさらに妄想をエスカレートさせたのだ。もっと山形さんに冒険をしてもらいたくなったのだった。そう、格好良い山形さんは勿論、魅力的なのだが・・・。それは当たり前なのだ・・・・・。
「ふむう・・・。」
魔が差した私は別の雑誌を手に取った。それはグラビアである。これは明らかに女性の私が好んで読むようなジャンルではない。でも今日の自分は違った。
(ふううーん。)
恐る恐る私は、グラビア雑誌を開けた。
(おおー・・・・。)
そこには凄まじいばかりのナイスバディ(表現が古臭い)のグラビアモデルの水着姿があった。私から見たら羨ましい限りの素晴らしいスタイルである。自分ももっと豊かなバストがあって、キュッとしたクビレがあれば、また違った人生を送っていたことであろう・・・・。うん、そうゆう事にしておこう・・・・。さてさて、本題はここからだ。彼女達は、あの山形さんとはまた違った魅力の持ち主だ。山形さんが、こんな水着で、こんなポーズを取っている所なんて、とても私には想像できない・・・。想像・・・・、してしまった。あの本屋さんのアルバイト店員の山形さんの水着姿を・・・・・。
(うう・・・、山形さんがこんな際どい水着を・・・・。)
まさかよりによって、山形さんがこんな過激な事をするなんて信じられなかった。まあ私が勝手に妄想しているだけだけど・・・・。
「こんにちは。」
「はうあ!!?」
あ、現れた・・・・。当の本人が現れたのだった。名札に「アルバイト 山形」と書いてある。紛れもない本屋さんのアルバイト店員の山形さんだ。ではこっちは・・・・、まがい物だ・・・・。私の想像上の生物・グラビアアイドル山形さんだ。
「こ、こんにちは・・・・。」
バツの悪い私は動揺しながらも、何とか彼女に挨拶を返した。しかし・・・。
「う・・・・!」
思わず私は顔を抑えた。
「大丈夫ですか!?」
とても心配そうな山形さん・・・。
「御免なさい・・・!」
顔を抑えたまま足早に、私は本屋さんを後にしたのだった。愛しの山形さんを置いて・・・・・・。でも仕方が無かったのだ・・・・。妄想のグラビアアイドル・山形さんの魅力に興奮した私は・・・、鼻血を出してしまったのだった。恐るべし山形さん・・・・。全部、自分の妄想だけど・・・・。
私と山形さんの戦いは、まだ始まったばかりだ。
<続く>