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四話 白い魚影

 船に乗るとアレスは、すぐに用意された部屋へと倒れ込むように行ってしまった。


 馬車に乗っている時にも、酷く疲れた顔をしていて、イルゼは心配そうに部屋へと入って行くアレスのことを見送った。

 イルゼの思った通り、アレスは船が出発しても夕食の時間になっても顔を出さなかった。

 お昼ご飯も忙しく食べ損なっている二人。  相当お腹が減っていると思ったイルゼは、メイドに言いつけパンなどの食べ物をアレスの部屋へと持って行かせた。

 アレスの部屋へと入ったメイドに様子を聞くと、食べ物を置いたことすら気づかず寝ているとのことだ。


 夜になり太陽が完全に地平線の彼方へと消えてしまい、代わりに三日月の淡い月光が黒い海を照らしていた。海が少し荒れていて、船が大きく揺れることがあった。


 船酔いをしたことがなかったイルゼだったが、今日は珍しく軽い頭痛と吐き気がした。


 イルゼの部屋は、アレスの隣の部屋だった。アレスのの部屋は、相変わらず光がついておらず暗いままだった。寝ているのだろうと、思うイルゼ。


 部屋に入ったイルゼは、燭台の上でゆらゆらと燃える蝋燭の火を消していつもよりも早くベッドへと入り寝ることにした。

 イルゼは、ベッドに仰向けになって、暗い部屋の天井を眺め、神託の後にコレットに言われたことを思い出していた。




 神託が下された後にあるごたごたが終わり、やっと一息つけると思った矢先、イルゼの元へ姉であり祭司であるコレットがやって来た。少し驚きながらも部屋へと入れる。

 部屋に入ったコレットは、いつもの明るいコレットとは打って変わって、蒼白な顔つきで神託の続きを淡々語った。


「あなた達は、海賊に攫われ……してアレスが死にます」


 何かを隠すように濁してコレットは言った。


「何をしてアレスが死ぬの?」


 冷静になろうと、声を荒げずに話そうとするが、終わりに近づくにつれ声が大きくなる。


「言えないです。それでは」


 コレットは、そう言って部屋を出て行ってしまった。

 何かあるな、とは思っていたイルゼだったが、最悪な神託の続きを聞かされ、一人部屋で呆然としていた。

 その後、神託の続きの内容がコレットの声と共に、頭の中を回って思考を乱していた。


 アレスに相談出来る機会は、何度もあった。


 けれども、疲れ果てているように見えたアレスに、言い出せるはずもなく港まで着いてしまった。


 ただ、相談したところで何か変わるわけでもないと思うイルゼ。苦虫を噛み潰した顔をするイルゼ。



 けれど、ベッドの中で一人アレスのことは絶対に生かすと、決意して目を瞑った。



 窓から差し込む朝日で、目を覚ましたイルゼ。昨日あった船酔いもなくなり、意識と冴えていた。ベッドに寝ながら見える天井を、難問の答えを求めるように眺める。

 いい案が何も思いつかず、起き上がりメイドを呼び、朝の身支度をしてから部屋を出た。イルゼは、今日動きやすい身軽な服を着ていた。


 ドアを開けると、海の匂いが迫り来るように香り、朝日が水面に反射して輝いて眩しいかった。

 船は、護衛船と共に大海原に浮かびチビチビと進んでいた。船の上から見える景色は、住み慣れた王宮も島も見えなかった。


 そんな時、ふと海を見てから咄嗟に目を背けた。


 けれど運命は残酷で、そんなイルゼをそっちのけで、白い魚影が見みてしまった。イルゼは、海を見てしまったことを後悔した。


 段々と海面に浮上して来る白い魚影。


 形が見え始めた。



 

 白鯨だ。




 あっけに取られるイルゼを横目に、鯨は潮を吹いた。船員たちは白鯨を見て、感嘆の声を漏らし手を組んで祈っている人すらも数人いた。


 太陽の光を反射して綺麗に舞い散る潮を眺め、イルゼの頬を涙が一筋頬を撫でた。

 船員の傍で、苦い挫けそうな感情がイルゼの心を取り巻いた。




「そんなはずないわ!」


 コレットに神託の続きの内容を聞かされたイルゼは、取り乱したように言った。二人しかいない部屋にイルゼの声が響いた。

 イルゼの金色の瞳がコレットのことを睨む。けれど、求めていた答えは返ってこない。

 コレットが受ける神託は、神から降されたものであり、そらは絶対に当たる。分かってはいるはずだけど、どうしても信じたくない、そうであってほしくない、そう思うイルゼ。


「信じられないようだから、教えてあげます」


 激昂するイルゼに、コレットは優しくなだめる声で諭すように。コレットは、慈愛のこもった瞳でイルゼの金色の瞳を見つめて言う。


「朝、あなたは鯨を見ます。白い鯨、白鯨を見ることになるでしょ」


 まるで、その場面を見たかのようにコレットは語った。




 甲板の上で、イルゼの脳裏にはコレットが言った言葉を反芻していた。

 白鯨は、イルゼに見せつけるかの如く潮を吹き深い海の中へと消えていった。



 運命の存在を肌で感じたイルゼは、肩を震わせながら頬を拭い、金色の瞳を輝かせながら爽快に笑った。


読んでくださりありがとうございます!

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