妻が体調を崩さないか心配だ
目を覚ましたのは明け方だった。
ラファエラは、こちらに背を向けて、ベッドの反対側の端に眠っている。
「ラファエラ……」
何故、私は用もないのに彼女の名前を呼んでしまうのか?
「んん」
わたしが無意識に呼んでしまった名前に反応したようだ。
目を閉じたままは仰向けになって、左腕を私の方に投げ出して、手を伸ばして私を探す。
「すまない。起こすつもりはなかった。なんでもないから、寝ていてくれ」
そう言った私に、ラファエラ節がさく裂した。
「お手!」
あー。何て人だ。
朝っぱらから、犬扱いするな!
そう思いつつも、ラファエラの手に自分の手を重ねる。
なんか逆らえないんだよな……
彼女はしっかと私の手を掴み、くいっと引っ張られる感触があったかと思えば、ゴロゴロとベッドの上を転がりながら私に近寄り、私の身体にぶつかって止まった。
「見てみたの?」
まだ眠いらしく、目はつぶったままだ。
ゴロゴロ転がったから、髪がぐちゃぐちゃだ。
顔に掛かった髪を脇に流してやる。
「まだだ。昨日はありがとう」
魔力透視で瘴気の状態を確認したか聞いているのだろうが、私は怖くて見ていない。
彼女が表面の瘴気を祓ってくれたのは知ってる。
だが、きっと寝ている間にまた体内に残っていた分がモヤモヤと出てきてしまっているだろう。
あのおぞましい瘴気がどのくらい復活しているのか見るのが怖い。
ラファエラは、仰向けになって、私の腕を自分の腹の上に乗せ、手を掴んで、自分の顔の前に持ってきたものの、よっぽど眠いのか、そのまま固まっている。
柔らかいものが腕に当たって、気まずい。
私が手を引こうとすると、ハッとしたように、僅かに目を開けた。
「ん。魔道回路の方は、まだまだね。でも擦って出来た傷の方は治してもよさそうよ」
そういうと、抱き枕か何かのように私に抱きつき、足を絡めてくる。
ナイトガウンからはみ出したふくらはぎが、私の足に直に触れる。
「……」
「おい! 何をやってるんだ?」
そのまま眠りに入りそうなので、慌てて声をかける。
「ん~」っと言いながら、ぐぐっと自分の胴体を私に沿わせて、ぴったりとくっつけてくる。
ちょっ。や、やめろ。
昨日の夜から、私は真っ裸なんだぞ!
ダブルガーゼのナイトガウン越しに弾力のある二つの丘が脇に当たる。
ぐっ。
硬いものが彼女に当たってしまいそうで、腰が引ける。
「ヒール!」
ラファエラが回復魔法を唱えると、私の爛れた皮膚がみるみるうちに回復していく。
体中軟膏でベタベタだが、もう傷は残っていないようだ。
ラファエラは、私に絡みついた体勢のまま再び眠りについてしまった。
ヒールのお礼を言いそびれてしまった。
私は自分の身体を持て余しながら、大人しく彼女の抱き枕になっているうちに、また寝入ってしまった。
しばらくして、ラファエラが身じろぎするのを感じて目を開いたら、私の方が彼女に覆いかぶさるように彼女を抱き込んで眠っていた。
いつの間に?
ぱっと離れようとすると、彼女が再び互いの身体をピタリと貼り付けるように体を寄せて来て、足を絡めてきた。少し動いたためか、先ほどより更に素肌の部分が多い。
なんなんだ、この人は!
「クリーン!」
あぁ。
体中に塗ってある軟膏を取り除いてくれたようだ。
くっついて全身一気にキレイにするのが、ラファエラのスタイルなのか?
こういうことに慣れているのだろうか?
いや、彼女は、神聖国の神の家で修行した名門ダジマットの姫だ。
単に世間ずれしているだけだろう。
まず、回復魔法と清浄魔法のお礼を言おう!
そして、こういうことをすれば襲われても文句は言えないのだということを早急に教えなければ!
そんな私の心配を知ってか知らずか彼女はもっと大胆な行動をとり始めた。
私の上ににじり乗って、あろうことかキスを仕掛けてきた。
「魔力を頂戴な。新婚旅行へ行きましょう?」
は? 意味が分からない。
んちゅ。んちゅ。
「!!!!」
私のファーストキスを奪われてしまった。
「新婚なんだから、新婚旅行は、鉄板ではなくて? ダジマットまで転移いたしますから魔力を下さいませ?」
んちゅ。んちゅ。
あぁ、そんなことされたら……
聖女にも落ちなかった私の鋼の意思を呆気なく陥落させてよいものか?
いや、ダメだ!
「こら、やめないか!」
私は両腕で彼女を持ちあげて私の口から引きはがす。
「んー。こうすれば、効率よく魔力がもらえるって書いてありましたのよ。なかなか要領を得ないわね。デコチュウとは違うみたいですわ」
寝ぼけているのか?
「やったことあるんじゃないのか?」
「あるわけないじゃない? ずっと神聖国の神の家にいたのですよ。あなた、やり方を知ってるなら、魔力、頂戴?」
「今の私の魔力は汚染されていると君も知っているだろう? 表面にくっついていた瘴気がとれただけで、体内にあとどれだけ残っているか分からないんだぞ?」
私の魔力を渡したら、ラファエラまで汚されてしまう。
「少しぐらいなら、大丈夫よ。ねぇ、お願い」
どうしても新婚旅行に行きたいらしい。
いや、ダジマットに帰りたいのか?
それなら送ってやらねばなるまいな……
「デコチュウはどうやってやるんだ?」
それからラファエラに私の唇から彼女の額を通して魔力を渡す方法を教えてもらい、彼女に魔力を分け与えた。
その間、彼女は私の腕の中でとても気持ちよさそうに眠っていた。
私はいつも昼まで眠らされていたから知らなかったが、どうやらラファエラは、かなり寝起きが悪いようだ。
私は転移は使ったことがないので、どの程度の魔力が必要かよくわからなかったが、それなりに長い時間魔力を分け与えてから、身を清め、侍従にダジマットへの新婚旅行の支度を指示した。
ラファエラが私の魔力に含まれる瘴気の影響で体調を崩さないと良いのだが……




