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夫はひとりぼっちよ

 ごきげんよう。

 ラファエラです。


 わたくしは相変わらずご機嫌麗しいとは言えないわね。


 今晩も睡眠魔法で寝かしつけた瘴気の塊にぴったりと絡みついて、混乱魔法をデスペルしているところよ。



 この瘴気の塊ったら、わたくしを国に帰そうと必死なの。


 盗聴されない場所でじっくり説得するつもりだったのでしょうね?

 昼食後、「今日は西翼の庭園を案内しよう」なんて言うもんだから、わたくしのことなんて気にしている場合ではないでしょう? って、呆れたわ。


 彼に魔力透視を憑依させて、纏わりついている瘴気を見せたら、気分を悪くしてまともに動けるようになるまで少し時間がかかったのよ。


 ふふふ。

 これでしばらくの間は、わたくしを追い出すどころではなくなったハズよ。



 わたくしの見立てでは、聖女も、元婚約者も、夫も「混血派」と「純血統派」の派閥争いに利用されただけね。


 

 まず、聖女は意図的に凶悪化された後、夫にけしかけられた。


 先代や先々代の聖女のように、聖女を神殿預かりにしていれば、聖女は俗世の知識を持たず、煩悩があんなに膨れ上がることはなかったでしょう。


 聖女の「色欲」は、存在意義のようなもので、どうにもできないとされているけれど、平民として貧乏させて「物欲」と「金銭欲」の渇きを育てた後に、男爵家に引き取って「権勢欲」と「自己顕示欲」を燻ぶらせた。


 そして最後に王宮に入れて、全ての欲を爆発寸前まで調整してから、夫や純血統の令息たちににけしかけた。


 聖女は夫の敵に利用されたのでしょうね?


 聖女の伝承を魔族が政治的に悪用した初めての例として、興味深い資料になるかもしれないわね。




 そんな中、夫は全ての人を自分から遠ざけようとするから、ひとりぼっちよ。


 おそらく家族とも上手く行っていないの。


 散歩の途中で弟君と鉢合わせたけれど、元婚約者と寄り添って歩いていたわ。

 二人で散策しているところを人目に晒している辺り、二人の婚約が発表される日は近いでしょうね。


 そして、あの弟君と元婚約者は、すごく変よ?

 聖女の瘴気の影響を全く受けていないの。


 それに、魔道具で魔力透視の阻害魔法を掛けていたわ。


 阻害魔法なんて掛けられたら、みたくなっちゃうじゃない?


 二人とも魔導回路が完全じゃなかったわ。

 つまり、混血系ね。


 ブライトの王族は純血統のハズよ。

 夫と弟君は、母君が違うのかしら?


 夫は純血統だわ。

 毎晩へばりついて浄化していますけれど、魔導回路に欠損はないもの。

 汚いだけで……


 それって、わたくしが王と王妃との謁見がまだ許されていないのにも関係しているのかしら?



 あの元婚約者は恐れを知らないところが、こわいわ。

 聖女を王宮の階段から突き落としたの。


 聖女伝承の最大の禁忌は、「聖女の命を奪う」ことよ。

 絶対に聖女を殺してはならないの。


 神聖国の初代「混沌」の教えよ。


 人族を操って魔族を虐殺する「冒険譚」を楽しんでいた聖女は、人族の初代皇帝セントリアに誅殺された次の世代から、魔族領で魔族の貴族令息たちを操って国盗りをする「恋愛譚」に興じるようになった。


 この「恋愛譚」では、地位の高い貴族の次代達が標的になるから、国は内部から瓦解するけれど、民への被害が最後で、血が流れにくくなった。

 それで、ダジマット王は、魔族領をいくつもの国に分けて、聖女の被害を小さく収めるようにした上で、持ち回りで聖女を迎え入れるようになったの。


 聖女の出現場所が変わることによって、魔族の聖女に対するヘイトも規模が小さく、収拾しやすくなった。


 けれど、聖女を殺してしまえば、次は再びゲームが変わって、「殺戮譚」の時代が来るかもしれない。


 だから魔族は、第2期の聖女を歓待している。

 絶対に殺してはならない。


 この基本ルールに則ってくれない存在は、夫の敵なのではなく、わたくしの敵なのよ。


 簡単に追い出されるわけにはいかないわ。



 夫は自分がわたくしを巻き込んだと思っているの。

 でも、実際はわたくしが夫を巻き込んでいることを、申し訳なく思うわ。


 そのかわり、わたくしが責任もって魔導回路をピカピカにしますから、許してね。



 ふぅ。

 今日は半日ぐらい魔力透視を使い続けていたから、流石に疲れたわね。


 すやすやと気持ちよさそうに眠っている夫がちょっと恨めしいわ。

 瘴気の塊なのにくっついているとなんだか落ち着くから不思議。


 この人ったら、「君を愛するつもりはない」なんて勢いがあったのに、今夜は「こんな瘴気を纏っている人間が隣に寝てたら気持ちが悪いだろう?」まで大幅にトーンダウンしていたのよ。


 瘴気の塊が遠慮なんて笑えるわね。



 この人、聖女のどこが好きだったのかしらね?


 欲望に忠実なところかしら?

 図々しいところかしら?


 人は自分にないものに惹かれるって言うものね。


 夫のように遠慮の塊で、孤独な存在からすれば、ガンガン地雷を踏み込みながらも、距離を縮めていく聖女は眩しく見えるかもしれないわ。

 

 もしくは、聖女も利用されているのに気づいて、哀れに思った?


 もし自由になれたら、聖女と一緒に暮らしたがるかしら?


 亡命の手配について、ダジマットのお父様と神聖国の皇王聖下に相談してみた方がいいわね?


 でも、まずは本人の希望を聞いてからよね?


 いずれにせよ、まず、魅了と混乱を解除して、彼が正常な判断を下せるようにしてからだわ。


 手のかかる人ね、まったく。

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