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妻に犬扱いされるんだが……

「うっ」


 バタバタバタバタ……


 ……っ


 ばっしゃー。


 ジャー。

 キュッ。


 我が新妻ラファエラの睡眠魔法で昼までぐっすり眠ってしまった私は、昼食後に魔力透視で自分の姿を見せてもらってから、トイレとソファーの往復を続けている。


 どさっ。


 もうヘトヘトだ。



「クリア!」


 ラファエラは、いちいち私の背中に浄化魔法を掛けてから、背中をさすってくれる。

 自分の惨状を見てしまったので、文句は言えない。



 昨夜、彼女を追い返すことに失敗した私は、庭園に彼女を連れ出し、帰国するように説得しようと思った。


 エスコートのために腕を貸したら、いきなり彼女が触れる部分に浄化魔法を掛けられた。



「クリア!」


「なっ! ダジマットの姫は失礼だな! 私を汚染物質扱いするな!」


「は? 汚物まみれじゃない? あなた、自分の姿を見てみなさいよ」


 そう言って引っ張って行かれた鏡の前で、彼女は手袋を脱いで手を差し出した。



「お手!」


「ななっ! 私を犬扱いするな!」


「クリア!」


 私がのせた手に再び浄化魔法を掛けるので、流石にカチンときたところで、顎でくいっと「鏡を見ろ」のジェスチャーをする。


 なんて高慢なしぐさだ! と、呆れたその瞬間、彼女の横に写る謎の生き物に目を奪われた。


 いろんな色がごちゃごちゃと不均一に混ざりあった何とも気色の悪い瘴気の固まりだった。


 それは、ぼんやり人の形をしていたし、位置的に私だろうハズだが、中身が見えない。


 気分が悪くなって、その場にへたり込んでしまった。



「クリア! クリア! クリア!」


 自分が触る場所にいちいち浄化魔法を掛けて、私をトイレまで介助してくれた。

 そして優しく背中をさすってくれる。



「ありがとう。少し落ち着いた。あれはなんなのだ?」


「瘴気よ」


「瘴気とは黒いものじゃないのか?」


「黒じゃないわ。黒は特別な色よ。貴方についているのは、聖女の煩悩。聖女牢に転送されてきた聖女本体はもっと凄かったわ」


「聖女マリーナが? そうか……」


 聖女が貴族の若者に魅了の魔術を掛けて操ることは、お伽噺に書いてあるから予想がついていた。

 だが、それは「魔術」として掛けられるのだと思っていた。


 まさか、こんな禍々しいものが自分に纏わりつくことになるとは、想像を絶していた。


「そうね。貴方はまず、魔力透視を覚えなきゃね。その次は浄化ね」


 ラファエラは私を支えてソファーの方へ移動する。



「私は、そういう魔法は得意ではない」


「わたくしも、そういう魔法は得意ではないわ。ワガママ言わないで」


 パターンが分かってきた。

 ラファエラは、洗面所、トイレでは親切で、それ以外はカチンとくる言い方をするようだ。


 つまり洗面所やトイレには盗聴や盗視が仕掛けられていないということだろう。



 私が動けるようになった後、宮殿を案内しているように見せかけて、魔力透視で宮殿内の瘴気の状態を見せてもらった。


 魔導駆動の盗聴器や盗視器も見える。

 ラファエラは、淑女たちに教えられるまでもなく、知っていたのだ。

 便利な魔術だ。


 彼女に出て行ってもらうように説得する前に、現状を見ておきたい。


 信じがたいことに、宮殿のあちらこちらに気持ちの悪い瘴気がへばりついていた。


 聖女マリーナと私たちがよく集まってお茶を飲んでいた庭園内のガゼホは、先が見通せないほど辺り一帯が瘴気の塊になっていた。

 この他にもマリーナの活動場所はどこも瘴気に満ちていた。


 聖女の瘴気はこんなに強力だったのか……

 わたしに何とかできるレベルを超えている。


 ラファエラを国に帰してしまったら、このままの状態が続くのだ。

 どうしたものか?



 ラファエラと庭園を巡っている途中、弟と元婚約者に鉢合わせた。


 私に婚約破棄を言い渡された元婚約者は、弟に慰められているらしい。

 

 王子に婚約破棄された悪役令嬢が、第2王子と愛を育み、結ばれて王位を継ぐ展開は、過去にあった話だとラファエラが教えてくれた。

 元婚約者は「魔族の守護者」ではないが、それに近い存在であると印象付けたいのか?



 二人も瘴気の影響を受けていたが、私よりはるかに澄んだオーラを纏っていた。

 私は自分のオーラが何色かわからないほど、ごちゃごちゃな色の汚い瘴気を纏っている。


 ラファエラをエスコートしていない方の手は、自分の手なのに見えない程に汚い。



「私は廃嫡されても仕方がないな……」


 思わずこぼれた言葉に、ラファエラが反応した。


「あなたには超絶スーパースペシャルに至高な本物の『魔族の守護者』が侍っているのよ? 汚物にまみれているぐらいで追い落とされることはないわ。貴方自身が王位を望んでいる限りはね」


 美しい彼女が悪人顔で笑みを浮かべているので、ふっと笑いがこみあがった。

 汚物にまみれた私の表情は彼女には見えなかっただろうが、私は久方ぶりに顔をほころばせていた。


 ラファエラがずっと私の傍にいてくれたら、楽しいだろうな。


 そんなことが頭を過ったが、彼女は巻き込まれてはいけない人だ。

 いずれはダジマットにお返ししなくてはならない。



 その夜、瘴気まみれの私が隣に寝るのは気持ちが悪いだろうと、ソファーで寝ることを進言したが、昨夜同様上手いことベッドに押し込められた。


「学習しない人ね。『スリープ!』」


 私は翌朝まで目を覚ますことがなかった。

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