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妻と結ばれた

 ボウランドに戻った私は、新婚旅行中に妻に逃げられたバカ亭主という新たな汚名を賜った。

 そう。それでいいんだ。


 神聖国の二人の神官、ヨハンとエマに魔術を教えてもらい寂しさを紛らわしている。


 ダジマット王は、司書と魔術師のカップルを派遣してくれた。


 二人とも「盗人」系のスキルだそうだ。

 司書の方はこの世の中にある本なら大抵所蔵場所を割り出すことができたし、魔術師はどんなに遠くても司書が見つけた書籍を物質転送で取り寄せることができたので、夜はそれを読んでいる。


 二人の魔術は特化系で、司書は情報の所在が分かるだけだったし、魔術師は重いものは転送できない。その代わりに二人とも探査のリーチが長かった。


 真面目な司書とそのぐうたらヒモ男として入国したので、堕落したヒモ男がダメ男代表の私を訪ねて紙袋に入れられた書籍を受け渡しても警戒されることはないだろう。


 ダジマットの情報と人材活用術は、ひねりがあって素晴らしいな。



 私はそうやって忙しくすることでラファエラを失った喪失感を誤魔化そうと努力した。


 それでも、些細な瞬間に彼女の不在に気づかされて、その度に鼻の奥がツンとする。


 そして、3日後の夜には、ラファエラ恋しさのあまり、彼女に襲われる夢を見た。

 

 正確には、夢を見たと思っていた。


 朝、目覚めると、刺激的なナイトガウンに身を包んだラファエラが私の腕の中で眠っているという夢だった。


 私は、着心地の良いダブルガーゼなラファエラしか見たことがなかったんだから、夢だと思うだろ?


 自分にこんな趣味があったのだと、自嘲気味に彼女の肌を指でなぞっていたら、ラファエラが目を覚まして誘ってきた。


 私も楽しく彼女の遊びに付き合っていたんだが、互いの衣が解けた頃、流石にこれは夢じゃないと気が付いた。


 私が覚醒したことに気付いたラファエラは、ダジマットのお家芸で私の手足を縛り、私の上に跨った。


 夢かな?

 いや、今起きたばかりだろ?

 私はぼーっとなった。

 触れたいが、縛られている。

 

 その妖艶な姿の前には、私の「魅了無効」なんて、全く意味を成さなかった。

 そもそもその妖しい美しさは魅了魔法ではないのだから……



「オーグスティン。おはよう。『既成事実』という言葉をご存じ?」


 私は全てを理解して、覚悟を決めた。


「ラファエラ。君の試練が長く危険な戦いになるのだぞ?」


「無論よ。そして貴方を怒らせてでも貴方と一緒に戦い抜く覚悟があるの。貴方がわたくしを怒らせてでも追い出そうとしたように、ね」


 私は嬉しくて、瞳の端から涙が零れた。

 ラファエラは、何をどう誤解したのか、私の涙に怯んで、傷ついたような表情で、私の捕縛を解いた。


「ラファエラ、愛してる」


 私は形勢逆転の機を逃さなかった。

 彼女を引き寄せ、組み敷いて、魔力を供与しない初めてのキスを楽しんだ。


 そこからは謹んで、私のターンに入らせてもらった。


 あまり遠慮ができなかったかもしれないが、その分私の渇きは伝わったと思う。



 あとから知ったことだが、音だけは敵にも筒抜けだったらしく、その日以降、予想外の展開に慌てた敵陣が少しずつボロを出し始めたので、私たちは敵陣を少しずつ切り崩していった。



 翌週には、ダジマットで魔族流の神前式での婚儀が執り行われた。


 憧れのダジマット婚礼ドレスに身を包んだラファエラは、この世のものとは思えない気品のある美しさを湛えていた。


 カーディフで購入した真珠のピアスもその上品さを引き立てており、私も誇らしかった。


 そして、血統書の更新で、私の血筋も判明した。


 私は今のブライト国王から7代前に分岐した傍系の王族だった。

 そして、現存する唯一の男系の純血統ブライト王族だった。


 ブライトの秘儀の一部は何故か男系にしか引き継がれない。

 「聖女の血統」の維持管理権限もその一つだった。


 私が死ねば「聖女の血統」は喪失されてしまうということなのか、「聖女の血統」自体は残るが、その仕組みを変更したり、修正したりすることが出来ないという事なのかはまだ分からない。


 私の敵にもわからないから私が生かされて飼い殺しにされているんだろう。

 私を殺して「聖女の血統」が喪失してしまったら、私を殺した人間は、政治の表舞台に建てなくなるからね。



 当代のブライト国王もブライトの血筋ではある。

 だが、魔法が使えない人族の血を引く混血統で、体内を巡る魔道回路が大きく損なわれていたため、「聖女の血統」を操作することが出来なかった。


 ブライト王家の混血化は4代前から始まっていた。


 5代前のブライト国王は、純血統の最初の妃との間に1人しか子供を残さなかった。それがダジマット家に嫁いだマティア妃だ。


 最初の妃が亡くなった後、王は混血統であることを知らずに後妻を娶った。

 混血統の有力貴族が、娘を純血統の家に養子に出し、そこから王家に嫁がせたのだ。

 

 王が気付いたときには既に遅く、4世代前からブライト王は純血統ではなくなった。


 後妻の派閥は、ブライト王族の血を引く男児の血統を潰し始めた。


 それを察知した5代前のブライト王は、ダジマット家でマティア姫を男児として育てて貰うことで、目立つ「おとり」を作り、傍系の男児を隠すまでの時間稼ぎをした。


 しかし、以降、ブライト王家による純血統潰しが4世代に渡って周到に行われ、最後に私一人が残され、宮殿で飼われる事態に陥った。


 そして、そこを聖女に付け込まれた。

 いや、ラファエラの言い方だと、そこを神に付け込まれ、聖女を送られた。

 混血の王族は現代の魔族においては珍しいことではないから、ブライト王も正直に公開すればよかったのだ。

 

 私とラファエラは、弟とその混血統の婚約者を説得し、ブライト王族の公式な混血化を目指すことにした。

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